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【第36話】ルークからの誘い

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怪しく光る岩肌が目立つ洞窟、そんな空間に人型モンスターが10体ほど現れた。頭には大きな2つの角を持ち、目が赤く光っている。個体によりバラつきこそあるが、筋肉質な体は大柄な成人男性程の大きさだ。このモンスターは、ゴブリンやオークの上位種に当たるオーガである。
前衛、後衛それぞれが5体に別れていたので、前衛のオーガに対してヒューとレイブンが一瞬で距離を詰める。ヒューは右にいる2体を大剣により切りつけ、首を飛ばす。
残った3体は驚きつつもヒューに対して反撃を試みた。だが、そこにレイブンの突きとロバートの斬撃、そしてエレナの弓が襲い掛かる。前にいた5体が一瞬にして崩れ去り、動揺する残りのオーガ達。
その後衛に対し、魔法で造られた氷のつぶてと、雷の槍、炎で作られた大きな鳥が突撃する。つぶてと槍が2体のオーガの頭部に当たり穴を空けた後、残りの3体に鳥が衝突し一瞬で消し炭になる。

「おい、燃やすなよ素材が取れないだろ」

「ごめんごめん、次はちゃんと調節するから」

((凄い威力だ))

あきれたようにヒューがごちったが、たいして申し訳なく無さそうにノエナが返した。皆はノエナの実力を知らなかったので驚いている様子だ。

地下から帰還した後、ヒューの姉としてふるまっていたノエナだったが、2人で相談した結果、パーティメンバーにだけは本当の話をすることになった。
エレナとセイレンは言わずもがなだし、他の3人もしばらく一緒に行動するため、隠し通すのは無理があるという結論に至ったのだ。
それに5人は、ノエナがエルフだとしてもその情報を悪用しないだろう。ノエナも姉を演じる面白さよりも演じるめんどくささが勝ったため、それならば早めに打ち明けてしまおうということになった。
皆は大きく驚いたが、すんなりと受け入れてくれた。
そして、互いの実力を確かめ合うために早速7人でダンジョンに来たわけだ。

このダンジョンにはA級のキマイラ、A‐級のケンタウロス、ミノタウロス、B級のオーガ、C級のマミ―などが生息しているが、低い階層ではオーガやマミーがメインで現れ、A級は下の階層から現れる。

ヒュー達は、その後もあまり奥には進まず、オーガやマミーを倒し探索を切り上げた。1回目の探索時は火力調節が上手くいかなかったノエナだったが、2回目からはしっかりと原形をとどめる程度の火力でモンスターを討伐していった。
ヒューは地下で学んだ飛翔魔法の応用で、自身の動きをスムーズにしたり、違う属性の魔法を訓練しながら大剣主体でモンスターを討伐した。


ダンジョンから帰還した一行は、ギルドに行き素材の売却と、オーガの討伐報酬を受け取る。そしてギルドを出ようとした瞬間。

「少しいいかな?」

白い鎧を身に纏い、綺麗な銀髪を持つ男がヒューに対して話しかけてきた。ただものではない雰囲気が漂っているが、このような人物とは面識がないためヒューは首を傾げた。

「俺の名はルーク【ホワイトナイツ】のリーダーを務めている」

ホワイトナイツと言ったら、この国で知らない人間がいないぐらいの有名なクランだ、そのリーダーが一体何の用なのか。それにヒューの探索を手伝ってくれたクランでもある。

「ルイスさんにはお世話になりました」

ヒューに対して右手を差し出してきたので、お礼を言いながら握手を交わす。レイブンたちとも軽く挨拶を交わした。

「早速だが、君があのダンジョンの下層から1人で上がってきた話を、詳しく聞きたいんだ」

「一応ルイスさんには説明しましたが」

「ああ、俺はその話に疑問を感じているんだ」

「疑問とは?」

「先ず、魔法で敵の位置を確認しながら下から戻ったと聞いたが、魔力による敵の位置の感知は出来ない話じゃないが、常に魔力を放出する。だから、相当な魔力量が無いと出来ないはずだ。そして、仮にそれが出来る魔力量があると言っても、地下から1人で戻るというのは相当難しいことなんだよ」

「仮にあなたの言う通りならば、どうやって帰ってきたと?」

「そこは分からないね、見たところ君は【気】を使いそうだけど、魔力はあまり感じないからね。能力を隠せるほど格上なのか、それとも、それ以外の理由があるのか」

やはり、上位の冒険者ともなると少し見ただけで相手の強さが分かるようだ。しかしヒューの強さは、気と魔法を混ぜて初めて発揮されるので、ルークも掴みかねているようだ。

「ダンジョンの話が無理なら、俺と模擬戦をやってみるのはどうだろうか?」

「模擬戦ですか」

普通の冒険者なら、S級クランのリーダーであるルークの誘いを2つ返事で受けるだろう。しかしヒューの場合は悩む。果たして古代魔法が知れ渡ってしまっても平気なのだろうか?
ダンジョンの話を正直に話す、つまりエルフの街の話をするのは選択肢にはない。ルークが善人だと限らないし、下手に知れ渡って貴族などに狙われたら面倒だからだ。レイブンたちは一緒に過ごし、人となりが分かっているので情報を話したことは特別である。



悩んだ結果、模擬戦を受けることにした。そろそろ、能力がばれて狙われたとしても自衛できるぐらいには強くなった自負がある。
そして、何より強者と戦えるチャンスがそう何度もあるとは思えないからだ。まあ、レイブンという例外もいるが。

「早速だけど、今からどうだい? 何か準備するものがあるなら後日にするが」

「いえ、今からでいいですよ」

2人はギルドにある訓練所に向かった。その後ろにはレイブンたちや、ギルド内にいた冒険者達がぞろぞろとついて行く。
ひょんなことから戦うことになったが、S級冒険者の強さはどれほどのものか。そして自分の現在の力はルークにどこまで通じるのか。激戦の匂いに心を躍らせるヒューだった。
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みんなの感想(1件)

伊弉冉(紫兎)

はじめまして。一気読みしました。とても面白いです。
ヒューがどんな感じに強くなって行くのか楽しみですw
今のところ一番好きな場面は道場での出来事ですねwww

神崎
2021.02.24 神崎

感想ありがとうございます。
楽しんでいただけて良かったです。
道場の出来事っていうのはピンク色の悪魔ですかね?
女は強し、という鉄板の考え方を入れてみました。

解除

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