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【第35話】S級クラン

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王都には白、赤、緑、青を名前に冠した四つのS級クランが存在する。

先ずは、白が象徴の【ホワイトナイツ】で、リーダーはルーク。白色騎士と呼ばれている。メンバー数は200人ほどで攻守バランスの取れたクランである。

赤のクランは【スカーレットサーバント】で、リーダーはミラ。朱の皇帝と呼ばれいている。 メンバー数は100人ほどで皆、剣技に優れている。

緑が【グリーンジャイアンツ】で、リーダーはドラン。緑の巨人と呼ばれている。メンバー数は60人ほどで、皆体が大きい。

青が【ブルーアルカディア】で、リーダーはロキ、蒼の魔術師と呼ばれている。メンバー数は140ほどで、魔術師の集団だ。

名前に色が含まれないS級クランもあるのだが、今回は割愛する。


冒険者ギルドの会議室。ここに、各クランのリーダーたちが集合していた。全員が席に着いているのを確認しギルドマスターが口を開いた。

「奴は今回も欠席か…… まあ、いいだろう。今回集まってもらったのは他でもない、皆も各地で発生した良からぬ出来事は、知っているだろう」

ここで話に上がった良からぬ出来事とは、邪神信仰の組織によって引き起こされたスタンピードの事である。

「ああ、知っている。今回はそのことで何か進展があったのか?」
口を開いたのは、白い鎧を身に纏い、綺麗な銀髪を持つホワイトナイツのリーダーであるルークだ。年齢は20代後半に見える。

「進展があったわけではないが、他の国でも同様の出来事が起きていると報告が来ている」
ギルドマスターが困り顔をしながら顎を撫でた。

「他の国でも同様に起きているだと? 国境を越えるほどの大きな組織が存在しているとでも言うのか?」
男にしては、やや長めの青い髪を持つ男が怪訝な表情を浮かべる。この男がブルーアルカディアのリーダー、ロキである。

「今回の出来事は国家を超えた事件、同様の組織の犯行ならばゾッとする。だが、ほぼ同時にスタンピードが起きたことを考えると、今回の事件を引きお起こした組織もしくは同盟に何らかのつながりがあることは間違いない。」

あまりの規模の大きさに、会議室全体を緊張が走る。

「他に分かっていることは?」
赤い美しい長髪を持つ女が鋭いまなざしでギルドマスターに問う。彼女がスカーレットサーバントのリーダ―、ミラだ。

「ある邪神を信仰している事が判明した、【邪神ダーヴァ】という名前だそうだ」

「ダ―ヴァ? 知らない名だな。事件の規模的に万国共通の悪魔である、サタンやルシファーかと思ったよ」
ルークは、顎に手を当てて考え込むが、全く心当たりがないというように首をかしげる。

「でもよ、それが分かったって事は、組織の人間や関係者を捕まえたってことだろ? なら、そいつらを辿れば上の人間を特定できるんじゃねえのか?」
ゴリラのような顔に太い腕を持つ大男がその太い腕を組みながら片眉を上げ、疑問を口にする。この男がグリーンジャイアンツのリーダー、ドランである。

「それが、下っ端から順に2,3人まで遡ることが可能なんだが、その後がどうも続かんようでな」

「おいおい、どこの国もこぞって同じ状況なのか?」
呆れた顔でドランが問いかける。

「普通、そういう組織の裏では何かしらの金の流れ、おかしな貴族の動きなど、きな臭い情報が出るもんなんだが今回の事件に至ってはそれが無い」

そういう組織の経営は信者からのお布施を主なものとして成り立っているものが多く、団体を取り仕切るのは、一部の貴族や裏ギルドのようなところが多い。
あまり大きな動きをしなければ、国に黙認されることも多いが、今回はその限りではない。
歴史の中でも利益を無視した過激派組織はたびたび登場し暴動を起こすが、いくら大きくても街1つを揺るがす程度の規模で、今回のような国家間での大きな騒動を起こすほどのモノは確認されていない。

「そう言うことで、大きな組織と事を構えると予想されるため、お前らS級クランには何かと手伝ってもらうことになると思う。その場合、国家間での連携も視野に入れておいてくれ」

事が事だけに反対意見は出ず、一同はゆっくり頷いた。




会議が終わり、張りつめていた空気も弛緩したため、お開きかと思われた時。

「ああ、それと、さっきの話とは別だが話しておきたいことがある」
ギルドマスターが突然何かを思い出したように話し出した。

「お前らはダンジョンで行方不明になった冒険者の話を知っているか?」

「ああ、うちのギルドメンバーも捜索を手伝ったらしいから噂程度は知っている」
ルークがそれがどうしたんだという目で話の続きを促す。

「それが、下の階層から1人で生き延びてきたらしくてな」

何だ、そんなことか。と、皆が興味を失ったように力を抜いた。

「生き延びるのなんか、少し強ければできるだろう?」
ドランが訝しげな眼でギルドマスターを見つめる。

「はぁ、あのなぁ、お前らの強さならそれはできるだろうよ、この話の肝は、その冒険者に見たところ全く外傷や疲弊が無かったところだ」

「Sランクならば、名が知れているだろうし、Aランク冒険者か? それにしても無傷は素晴らしい、おそらく移動系のスキルや魔法が得意なんだろうが、スキルのみでは無傷で帰ってこれまい、会ってみなければ分からぬが運も含めてSランクになれる素質があるんじゃないか」
ロキがあごに手を当て頷きながら呟いた。

「その冒険者のランクについては個人情報だから言えんが、知りたいなら自分で聞けば良い。それと、お前らSランクが特別だからと言って無理な勧誘や事を荒立てるマネはするな、クランメンバーにしっかりと言っておくように」

皆は渋々といった風に頷いた。

Sランクの素質がある冒険者に関しては、数少ないSランクのクランへ、優先的に情報が行くようになっている。
ギルドマスターがこのメンバーにヒューの事を話した理由は、優秀な冒険者をこの街に留めておきたい、という目論見があるからだ。

「話は以上だ、解散!!」
ギルドマスターが席を立ち会議室を出る。それに続いてミラとロキが席を立ち足早に会議室から出ていった。静かになった会議室にドランとルークだけが残っていた。

「なあ、さっきの話どう思う?」
ドランがルークにそう切り出した。

「冒険者の話か? そうだな、少し興味がある。ギルマスが俺たちに話したということは、勧誘に値する人材なのは間違いない」

「俺も興味はあるが、そういう探りとかは得意じゃねえ。何か分かったら俺にも教えてくれないか?」

「ああ、分かった、だがタダでは教えんぞ」

「あたぼうよ、酒を1樽くれてやるぜ」

「それは楽しみだ」

そして2人もゆっくりと立ち上がり、会議室には誰も居なくなった。
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