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【第33話】飛翔魔法

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そもそも地上では、属性魔法と生活魔法が存在している。そして、属性魔法が主流で、生活魔法は、使えれば生活が楽になるモノと考えられていた。しかし、その認識自体が間違っていたのだ。

古代魔法は、大きな威力と自由性を持っていることが判明したが、その自由性は、生活魔法の自由性に近い。そもそも、古代魔法に属性のくくりはなく、人の創造する力で、いくらでも能力を考えることが出来るそうだ。その点も、生活魔法と類似している。

それを踏まえたうえで、古代魔法と現代魔法の関係について説明する。

まず、重要なのがノエナが話した、古代魔法行使の工程だ。

工程は下記の3つに分かれている。

工程1:魔法の形成である。この工程では、属性、射程、形、色などを決める。

工程2:形成後に必要なのが、威力の決定である。この工程では魔力を注いでいく。

工程3:最後に、工程1と2で定義された魔法を行使する。

この3工程を元に、生活魔法について考えていく。生活魔法は威力よりも汎用性が高く、様々なことが出来るため、工程1に置き換えられる。

次に属性魔法について考えるが、魔法レベルが上がれば威力もあるため、一見古代魔法の特性を全て満たしているように見える。しかし、生まれ持った属性しか使用できないため、汎用性が低い。したがって工程のどれにも当てはまらない。

以上の事から、古代魔法の条件を全て満たすには、【生活魔法】+【工程2:魔力を注ぐ】が必要になってくる、しかし、生活魔法にそれ以上魔力をつぎ込んでも、威力が上がる事はない。そこに、地上の人間が勘違いしているモノが関わってくる。

それが【気】についての認識である。気と魔法は別物と考えられているが、そもそも魔法の威力を決定するモノは、地上で言う【気】なのだ。

まとめると

魔法の形成(工程1)→生活魔法

魔法の威力を決定(工程2)→気

このようになる。

要するに、属性魔法のレベルをいくら上げても、あまり意味が無いのだ。威力が少しだけ強い代わりに、汎用性を無くしただけの生活魔法なのだから。

そのことから、伝承に記されている、神が人々から魔法を奪ったという記述は、魔法というものを、気と生活魔法という概念に分けることで、正しい形で使えなくしたモノと推測される。つまり、生活魔法で、魔法の特性を決定し、エネルギーとして気を混ぜこんで行けばヒューにも古代魔法が使えるわけだ。

基本的に生活魔法のレベルを上げたとしても、戦闘で使うものがいないため、地上で気づかれることはなかった。尚且つ、気も習得して居ることが条件であり、よほどのことが無ければ、2つを混ぜようと思う人間など居ないだろう。



ヒューは早速、生活魔法のファイヤーを出す。そこに、気を少しずつ注いでいくと、気と火魔法は混ざり合い、炎になった。しかし、直ぐに消えてしまう。

何度も繰り返すが失敗する。

次の日も試すが失敗した。

そのまた翌日、失敗。

さらに数日が経ち、徐々にコツがつかめてきた。【気】と思うのではなく、無属性魔法だと考えて、それをしっかりと炎に染めていくイメージだ。地上の人間は、魔法ではなく【気】として意識に定着しているため、どうしても上手く混ぜる事が出来なかったのだ。

まだ安定はしないが、なんとか炎を造る事に成功した。出来上がった炎を、見守っていたノエナに見せる。すると、得意げな顔で、胸を張ってきた。張れる物が無いけどな。

そんなことを考えていると、鋭い目で睨まれるヒューだった。

その後完璧な炎が作れるまで3日かかったが、これで、ようやく本題に入ることが出来る。地上に帰るため、必要な飛翔魔法の作成だ。直ぐに思い浮かんだのが次の3つである。

1つ目、風魔法を使う。風を纏ったり、浮力を造ったり。

2つ目、炎魔法で爆発を起こし推進力を得る。

3つ目、物理法則に働きかける魔法を自分で造る。

古代魔法の概念が分かると、自由に考えることが出来るので、楽しくなったヒューは、その後も色々な案を考えるが、ここで、ふと我に返る。修行にずいぶんと時間をかけすぎてしまったので、地上にいる皆も心配していることだろう。

他の案は地上に帰った後に試すことにし、1つ目の風魔法で飛ぶことに決定する。そして、風を自在に操り自分の体を浮かせるまでに2日かかった。少しぎこちないが、空を飛ぶヒュー。そして、飛行を見守っていたノエナの近くに降り立ちハイタッチを交わす。すると、そこにシエラがやってきた。

「あら、飛べるようになったのね」

「はい」

「もう行くの?」

「そのつもりです」

それを聞いた瞬間、ノエナが寂し気な顔をする。

「あなたも行きたいならヒューについて行きなさい」

「よろしいのですか?」

「外の世界を見てみるのも、良い経験になるわ」

その言葉に戸惑いを見せるノエナ。

「一緒に来るか?」

ヒューが右手を差し出す。ノエナは、ヒューに近づき右手を出そうとするが、直前でシエラの顔を一瞥した。シエラは、笑顔で頷く。ノエナも決意したように頷き、出された手を握る。

「その代わり、しっかりとあなたの目で、人間というものを見極めなさい」

「はい、分かりました」

「そしてヒュー」

次にヒューの目を真剣に見据えて語りかける。

「これから、大きな選択を迫られる事があるかもしれない。その時、もしも迷ってしまったら、直感を大切にしなさい」

「はい」

「じゃあ、もう行きなさい」

「あの、お礼はどうすれば?」

少しだけ考えるシエラだが悪戯な笑みを浮かべて言葉を返す。

「ノエナの面倒を見てくれればいいわ」

「いや、俺こそノエナに助けられそうだが」

「初めて、地上に行くから、常識がないと思うわ」

「失礼な、少しはありますよ」

頬をふくらますノエナ。

「そういうことなら、分かりました」

「ちょっと、私の話聞いてる?」

「頼んだわ」

別れを済ませたヒューは、出発することにした。

「ノエナ、準備は出来てるのか?」

「ええ、荷物は収納魔法に収納しているから」

「まじか」

「行きましょ」

最後にシエラの方を2人で向く。

「お世話になりました」

「行ってきます」

「ええ、2人とも気を付けて」

飛翔魔法を使用し飛び立つ2人。それを笑顔で見送るシエラだが、2人の姿が見えなくなると、真剣な面持ちになる。

(この選択が、吉と出るか凶と出るか)

しばらく考え込むシエラ。


しかし、突然何かに気づいたような顔をして呪文のようなモノを唱える。その瞬間、体の周りを眩い光が包み込んだ。



数秒が経ち光が消える。



そこには、シエラの姿はなく、代わりに銀髪で青色の瞳をした美女が佇んでいた。

「全く、あの方と来たら」

そう言って、謎の美女は姿を消した。




その頃、地上に向かって飛ぶヒュー。その後ろからノエナがついて行く。

「多分、このまま進めば、穴に辿り着くはず」

「そうね」

暫らく飛ぶと、ヒューが落ちてきた穴が見えてきた。

「よし、このまま、穴を抜けるぞ」

そして、穴に突入する。そこで、あることに気づく。

「そういえば、ダンジョンに入るとき居なかったノエナが、そのまま出てったらヤバくないか?」

「それを言ったら、エルフって時点で駄目ね、地上にエルフはいないもの」

「そういえば、地上でエルフを見たことがないな」

「1000年以上前に、人間とエルフは戦争をして、エルフは絶滅したとされているわ。ほとんどのエルフは、戦いを好まなかったから、一方的にやられたらしいけど」

「じゃあ、人間の事恨んでたりするのか?」

「エルフで、人間を恨んでいる者は、いないと思うわ」

「そうなのか」

「今は今、昔は昔よ、私は自分の目で見て判断するわ。それに、私が知る人間はあなただけ」

「エルフは、ずいぶんと寛容だな」

「そうかしら、ああ、さっきの話だけど、このまま出ていって平気よ」

「どうして?」

「地上に着いたら分かるわ」

しばらく飛んでいると、ダンジョンの怪しい光が見えてきた。
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