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【第7話】実験失敗?
しおりを挟む―――ふっ!! ふっ!!
気を練り上げ正拳突きを行う智也。
彼は今、【気道】の道場にいた。
ここで、気道とは何なのかについて説明しよう
この世界には魔法と違う、もう1つのファンタジー要素がある。それは気と呼ばれているもので、それを使用する武術を気道と呼ぶ。
なんだ、最初から気を鍛えればよかったじゃん。と思うかもしれないが、そう簡単なものではない。
ヒューも気については知っていたが、習わない理由があった。
まず単純に気道を習うお金がなかった、クランメンバーからいじめを受けていた彼は、クエストに参加してもお金をもらえない日があった。そのため生活するのがやっとだったのだ。たまにもらえるお金に関しては、気道を習うには足りないため、魔法やスキル、モンスターに関する本を買うことに使用していた。モンスターと戦っても簡単に死なない為の知識から身につけようと思ったからだ。
気道は、基本的に肉体で戦うため、属性魔法が得られなかった者の中でも体が相当に頑丈な者か、拳闘士やモンクなど格闘を主に行うジョブが、魔法を極めた後に習得することが多い。
気は体から放出すると拡散してしまう性質を持つ。鍛え抜かれた気は、遠距離を飛ばすことは可能だが、それを出来るようになるまで鍛錬を重ねて平均50年はかかる。なので一般的には、気は自分の体に纏って一時的に身体能力を上げるものであり、魔法のように自在に操れるというものではないと考えられている。
纏うと言っても具体的には、体の表面に纏うわけではなく、皮膚の内部に張り付いて、纏った部分の皮膚や細胞を強化する効果を持つ。
金銭面と肉体、両方の意味で不向きと判断したため、ヒューは気の習得についての重要度を下げ、情報収集など、自分が得意なことに力を注いでいたのだ。
ちなみに魔法でも同じようなことができるため、わざわざ時間をかけて気を習うものはあまりいない。魔法の場合は属性魔法を体に纏うことで防御力の向上を行うことになるが属性には相性が存在する。
魔法は属性が9種類あり。
水、雷、土、風、木、火、光、闇、生活魔法
となっている。
直接魔法をぶつけあった時の相性を書くと
水<雷<土<風<木<火<水 光=闇 生活魔法
このようになる。
光と闇以外の属性は、相当な魔力差がない限り、この関係性を崩すことはできず、光と闇に関しては少しでも込めた魔力の高い方が一方的に勝つ。
ここまで聞くと、気を覚えたほうが良くね? 属性の相性が悪いとダメージをもろくらうじゃんと思うかもしれないが、ここからが肝である。なんと、魔法を纏う場合、その相性は反映されず体に纏う魔力の色が変化するだけなのだ。
この原理については未だ解明されていないが、体に纏っている場合は属性にかかわらず無属性に変換され、体から離れると属性が発動するためという説が一番有力である。
そして、属性魔法の適性が無いものは、魔法を纏うことができない。厳密に言うと、生活魔法も纏えるのだが、とても弱いものであり、防御面で全く役に立たない。
ではなぜ智也が【気道】の道場に通っているのか、それは昨日の出来事が関係してくる。
いつものように起きた智也、ベットから降りてクランハウスにある洗面所へ向かう、洗面所にある鏡を見ると寝癖がついていた。髪を濡らしたいので、蛇口を捻る。
そういえば、生活魔法を全然使ってなったな、家庭教師にとって生活魔法はほとんど役に立たないから使う機会がないし。
蛇口の水を止めて、生活魔法で水を出してみることにした。
手を見つめ念じていると手から水が湧き出す。それを頭につけて寝癖を直している時、ふと思った。
ん? 生活魔法って考えてみたら、水とか火とか光とか色々出せるよな、じゃあもしかしたら。
もう1度、手に集中する、そしてさっきよりも強めに念じてみる。その結果、少しだけ水の量が増えた。
これイケるんじゃないか?
それを、何度も繰り返す智也。
「なにしてるんだ?」
後ろから誰かに声をかけられた。
振り向くと、黒髪ロン毛で目つきが悪い男の人が、こちらを訝しげに見ていた。
「すいません、邪魔でしたね」
その場所を移動しようとしたが。
「いや、洗面台はもう1つあるし邪魔ではない。ただ単に君が何してるのか気になっただけなんだ」
「えと、生活魔法で水出せますよね? 魔力を多く込めたらどこまで水の量が増えるかなって思って」
「え? 生活魔法の水なんて、生活魔法が10レベルでも1リットル程度が限界だろ?」
「そうなんですか?」
「ああ、そうだと思うけど」
そう言われてヒューの記憶を探る智也、その中に生活魔法の火をどれだけ大きく出せるか実験した記憶が残っていた。まだ、ヒューの記憶と智也の記憶が上手く混ざっていないようだ。
記憶を探った結果、ガスコンロやバーナー程度が精一杯だった。どうやら生活魔法は、どれだけ魔力を込めても攻撃には使えなそうだ。
なにやってんだ俺、バカみたいじゃん。
「そうか、記憶が無いんだったな、すまん。ああ、自己紹介がまだだった、俺はニコス、双剣使いだ」
「気にしてないですよ、僕はヒューです、こないだクランに入りました」
「あー、俺はちょうど最近まで出かけてたからな、帰ってきてから君の話は聞いていたよ」
目つきに似合わず、気さくで良い人のようだ。
「よくわからんが、頑張れよ少年」
「はい、ありがとうございます」
ニコスが去った後、智也も自室に戻った。
魔力を多く込めてもダメだったかー、いい線いってると思ったんだけどな。
ベットに寝そべり考える智也。
その後も生活魔法と属性魔法の違いについて考えた。
どちらも同じ火、だが大きさが違う。
どちらも同じ水、だが量が違う。
ここから考えられるのは、生活魔法では出力量に何かしらの制限がかかっているということだ。
出力する量を多くする抜け道はないのか?
そのまま、魔法について考え込むが。
あー、ダメだ、俺自身が生活魔法しか使えんから何にも浮かばん。一度、思考をリセットして、使える情報、使える情報っと。
魔法という狭い観点にとらわれず、ヒューの知識にある様々なことを精査していく智也。その時、頭の片隅にあった【気】についての情報が浮かぶ。
気は体から放出すると拡散してしまう性質を持つ。
鍛え抜かれた気は遠距離へ飛ばすことは可能だが、それを出来るようになるまで鍛錬を重ねて平均50年はかかる。
気は人の気の強さ(精神力)や生命力に依存する。そして気を纏い肉体で戦う、拳闘士やモンクが習得することが多い。
50年? うーん、時間がかかりすぎる。しかも飛ばせるだけで威力についてはあまり期待できなさそうだ。だが体に纏えば格闘能力と防御が上がるみたいだな、この体でもやらないよりはましか? なにも思いつかなかった時の最終手段として、保留にしておこう。
次に思考を移そうとしたが、ニュータイプ的な感じでビビっとひらめいた。
まてよ、放出された気が拡散しないようにすれば、飛ばせるんじゃないか? そうすれば魔法のように。思考を繰り返していく智也。
熟考を重ねた結果、思いついたのが。名付けて放出された気を生活魔法で覆ってしまおう大作戦!! なんで体から出たら消えるかは分からないが、魔法は体から出ても消えることがない、その魔法で膜を作ってみたらどうだろう、というシンプルな作戦だ。
クランも無事に移れたことだし、自由な時間があまり無かった前とは違うんだ、ゆっくり試せばいいさ。
早速生活魔法を球体にして打ち出す練習をする。
しかし、これがなかなかうまくいかない。
水は手から湧き出るし、火はバーナーのようにしか出ないため、形を変えても手から20センチ程度が限度だ。
これは困った。その後もいろいろ試すが
失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。失敗。
これは骨が折れそうだ。
実験を行ってから数日後。実験を行った回数は数知れず。ついに生活魔法を飛ばす方法を発見した。
既存の生活魔法には、遠くに飛ばせるものが存在しなかった。なので自作魔法を編み出したのだ。
それはエコーという音波を飛ばす魔法である。
具体的な使い方は、目が見えない人が人の位置を確かめるときに使用したり出来るし、洞窟などの入り口から放ち、その反響具合によって洞窟の大きさや、深さを確かめる際に使用する事が出来る。
この魔法を、どのようにして編み出す事に至ったのか。
様々な生活魔法で実験を繰り返して分かったことがあった。それは生活魔法に属性のくくりがないことだ。光に水に炎にと使える属性は多岐にわたる。出力は小さいが。
それなら、と試してみたら出来てしまった。
実験の末、エコーに他の生活魔法をのせる事が可能なことも分かった。
今のところ、殺傷力は皆無だが、嫌がらせぐらいには使えるだろう。
というわけで、なんやかんやで目途は立った。【気】については水の生活魔法で覆えばいいかな、と言ったところだ。
なので現在、道場に通い、気を習得している最中だ。
通ってない時は、空き時間で生活魔法の精密操作。仕事として家庭教師をして、お金を稼いでいる。
―――ふっ!! ふっ!!
一心不乱に気を練りながら拳を前に出す智也。
「君は確か、新しくこの道場に入ったヒューと言ったか。ずいぶんと真剣だな」
そんな時、後ろから誰かが声をかけてきた。声からして女性だろう。
智也は振り向いて、声をかけてきた人物を確認した。見た感じだと顔が幼く、年はヒューより少し下ぐらいか。背が小さくて薄いピンク色の髪をポニーテールにした女の子だった。ちなみに、年に見合わず巨乳である。
この子は、誰だ?
首をかしげながら女の子を見つめていると。
「ああ、すまない自己紹介がまだだったな、この道場の師範代の娘であり副師範代でもあるマチだ、よろしく」
そう言って笑顔を向けてくるマチ。
「よろしくお願いします」
少し訝しむ顔をしながら頭を下げる。それに対しマチも表情がこわばった。
「ん? 何か納得がいかない顔をしているな」
「いえ、そんなことはないですけど…… 僕とあまり年が変わらなそうなので驚いてました」
なぜかマチがぷるぷると震え出した。
よく見ると顔が赤い、熱でもあるのか?
「ほう? ちなみに私を何歳だと思っているんだね?」
「うーん、12歳ぐらいですかね。僕が14歳なんで。ああ、でも11かもしれないな、細かくは分かりません」
「だ……」
「ん?」
「誰がロリじゃボケが!!」
見事なアッパーが決まり、智也が宙を舞う。
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