上 下
2 / 3

―――ズリ。ズリ。

しおりを挟む
それはゆっくりと近づいてくる。

―――ズリ。ズリ。

と。




心霊スポット巡りが趣味の男は、この日も1人で山奥に来ていた。自家用車を運転し、道路があるところまでは車で向かう。それ以上車両が進入できないようなら、そこからは徒歩が基本だ。

今回の目的は、山奥の廃病院。かなり昔に、精神病の患者を収容していた所だそうだ。その病院では、精神をわずらった患者達が、そこに勤務していた看護師の足を噛みちぎる事件が起こってしまった。患者に話を聞いたところ無性に足の肉が食べたくなるらしく原因は不明。患者を何度入れ替えても事件は起きてしまうため、病院の評判も落ち、最後には廃業に追い込まれたようだ。






―――ズリ。ズリ。

ナニカがゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。姿は見えないが音だけが響いていた。


男が走る。すると音が聞こえなくなった。
少し息を整えると、また近くで音がする。


―――ズリ。ズリ。

こんな事ならば、奥まで来るんじゃなかった。窓から出ようにも、鉄格子がはまってるし、元来た道を戻ろうにも、ナニカに知らない道の方に追い詰められている。そして思っていたよりも院内が広く、廃院になってから年数がたちすぎていて、足元も悪い。


ナニカの姿を見ようにも見れない。見たら終わりな気がするし、姿が見えない可能性もある。謎の恐怖が男の心を支配した。

奥に進んでいく道しか残されていないため、どんどん奥に進む男。しかし、足場が悪く、これ以上進めそうになかった。

まいったねこりゃ。

―――ズリ。ズリ。

―――ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。

―――ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。ズリ。

突然、耳元で聞こえたと思ったら、今度は、急に何も聞こえなくなった。先ほどまでの恐怖が嘘のようだ。心もいつも通り。いや、いつも以上に落ち着いている。


ああ、腹が減った。
ここに人がいたら良かったのに。


そして男は歩き出した。


―――ズリ。ズリ。

と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちゃぼ茶のショートショート 「合わない目線」

ちゃぼ茶
ホラー
私、ちゃぼ茶は会話をする時目線を合わせるのが少し苦手です。目線を合わせた方が気持ちが伝わりやすいのはわかってるのですが… そうそう話が逸れてしまいました。目線と言えば、おっとお時間が来たようです。それではまた夢の世界でお会いしましょう。

トロマの禍

駄犬
ホラー
冒頭より——  引っ掻き傷のような飛行機雲が、雲一つない晴れ間の空を横切る。太陽はそれを横目に、酷暑の源となる陽光を分け隔てなく人間の脳天に降り注ぐ。そんな救い難い天気模様を享受する緑の群生は、歩道に乗り出し生き生きと歩行者の進路を妨害する。郊外らしい歩道の狭さからくる支配の光景は、身体を捩らせて通行することを強いて、大人は揃いも揃って渋い顔をした。その後ろを歩いていた二人の子どもは、滑稽に身体を操る大人の姿に釘付けとなり、不必要に身体の動きを真似て嘲笑う。

怪談実話 その4

紫苑
ホラー
今回は割とほのぼの系の怪談です(笑)

狂気の缶詰

zerozero
ホラー
 十年ぶりで、親友が訪ねてきた。  月の明るい晩だった。  彼は僕に缶詰を差し出して言った。 「これを預かってほしい。お前にしか頼めないことだ。よろしく頼む」 「頼むと言われてもなあ。これ、中身は何なんだい?」  参ったなと思いながら、僕は鼻をすすり、缶詰を見下ろした。 「中身は……」  言いかけて、親友はしばし黙り込んだ。  月明かりの中、僕は彼の沈黙に付き合った。 「中身は、俺の狂気だ」  まるで舞台の台詞のようだった。

トラベルは冒険心と共に

つっちーfrom千葉
ホラー
 アメリカ・欧州・アジアなど、様々な国からの来訪者たちが、とある広大な植物園を短時間で見学するツアーに参加していた。はしゃぎ回るタイ人親子の無節操ぶりに苛立ちを隠せないアメリカ人夫妻は、お得意の家柄自慢、人種差別発言を次々と繰り出す。次第に場の空気が重くなる中、日本からひとり参加した私は、知的なフランス美女に一目ぼれして声をかけることに。彼女は私になど魅力を感じていないようだが、簡単には諦めきれない私は、食い下がることにした。  このグループの参加者たちの最大の目的は、南米に生息する珍種の食虫植物を見ることであった。しかし、さすがは世界最大の植物園である。そこには、想像を超える生物が棲んでいたのだ。 2021年11月4日→11月15日 よろしくお願いします。

【一人称ボク視点のホラーストーリー全64話】ボクの小説日記

テキトーセイバー
ホラー
これはボクが(一人称ボク視点)主人公の物語である。 ボクが考えたホラーが展開される1話完結オムニバス方式のショートストーリーです。意味怖メインですが不条理、ダジャレ、タイトル意味合いなどあります。R15対象なのは保険です。ちなみに前回の削除したモノを含む移植も含まれています。 41話完結予定でしたが連載続けることにしました。 全64話完結しました。

【完結】瓶詰めの悪夢

玉響なつめ
ホラー
とある男が行方不明になった。 その状況があまりに奇妙で、幽霊の仕業ではないかとそう依頼された心霊研究所所長の高杉は張り切って現場に行くことにした。 八割方、依頼主の気のせいだろうと思いながら気楽に調査を進めると、そこで彼は不可思議な現象に見舞われる。 【シャケフレークがない】 一体それはなんなのか。 ※小説家になろう でも連載

COME COME CAME

昔懐かし怖いハナシ
ホラー
 ある部屋へと引っ越した、大学生。しかし、数ヶ月前失踪した女が住んでいた部屋の隣だった。  何故か赤い壁。何があるのだろうか。  そして、笑い声は誰のだろうか。

処理中です...