本日は晴れ異常なし ~魔王の苦悩と勇者の青春~

神崎

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【第001話】重要な報告

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グレイは自分の部屋に引きこもってゲーム三昧の暮らしをしていた。書類仕事は分身魔法を使い10分ほどで完了させ、余った時間はひたすらゲームをしている。ちなみに、追加で仕事を出されないように、完了報告は行っていない。机の上にはポテチとコーラがおいてあり、それをつまみながらゲームに励む。


いやーファイナルクエストとドラゴンファンタジーは面白いな。魔族ももう少し娯楽に興味を持ってくれたら良いのに。「強いて娯楽を挙げるなら?」って聞いて出てくるのが闘技場とかどんだけ脳筋なんだよ……。


―――コンコン。


ノックする音が部屋に響いた。

その瞬間、隠蔽魔法でポテチやコーラ、ゲームを隠し、防音魔法も解いて何事もなかったかのように姿勢を正す。

「グレイ大臣、入室よろしいでしょうか?」

「許可する」

「失礼します」

白髪のボブカット、スーツ姿の女性が入ってきた。彼女の名前はミサ。大臣の補佐官的な人間だ。

「こちらが今度開かれる会議の資料となります。空いた時間に目を通しておいてください」

「ご苦労、報告はそれだけかな?」

「いえ、こちらが本題となります、ただいまより緊急国会が開かれるのでグレイ大臣も出席をお願いいたします。」

「ああ、分かった。」

グレイが席から立ち上がると、ミサがじっと見つめてきた。

「どうした?」

「……肩に何やらゴミのようなものが乗っているのですが」

そう言われて肩に目線を向ける。


ポテチの破片が勲章のように張り付いていた。





グレイが王の間に向かうと既に大臣が全員集まっており、グレイも定位置につき少し待つ。そこに王が入場してきて話が始まった。

「今回集まってもらったのは他でもない、勇者に関する話だ」

周りがざわざわと騒ぎ出す。

「静粛に。」


この国の人間は、勇者が魔王に対して一度たりとも傷をつけていない。とは考えられていないだろう。さて今回の勇者の話はどんなものなのか。

王は始めに大昔の勇者の歴史から語り始めた。その話には興味が無かったのでグレイは何度も夢の世界へ旅立ったのだった。


……
………。

「それでは、解散!!」

王の話が終了した。

話を簡単にまとめると、今まで勇者を向かわせていたがことごとく魔王討伐に失敗している。そして、あまりにも短いスパンで派遣を繰り返してはやられてしまっているため、勇者の育成も行えていない。なので今回は禁断の魔法を使用し異世界からの勇者召喚を行うらしい。何とも異世界人には迷惑な話だ。






執務室の椅子に座って、グレイは悩んでいる。今までにないほどに真剣に。その目はモニターに向けられており、画面には勇者と思わしき人物が大きく映し出されていた。

その勇者は洞窟の中の道をゆっくりと進んで行く。

ここ1度通ったよな、記憶魔法で記憶しとくか? いや、行ったり来たりするのもこういうゲームの醍醐味だ。覚えてないなら覚えてないで、それも良い!!

グレイの手にはコントローラが握られており、机の上には当たり前のようにポテチとコーラも載っている。

その後迷宮を無事に突破しボスを撃破したグレイ。どうやら最後のボスだったようでエンディングに移行した。


エンディングを見終わり、少しの間ぼーっとしていたグレイだったが。ゲームをクリアしたのも束の間、またもや真剣な顔で悩み始めた。その顔はさっきよりも真剣だ。


―――ガタン。

グレイは椅子からおもむろに立ち上がる。

悩みに悩みぬいた結果、何かしら結論が出たようだ。


そして、真剣な表情のまま定期連絡を行う。


………

………………

………………………。


よし、書けたぞ完璧な報告書だ!! 前の報告では魔王が怒っていたからな。今回は文句なしの出来だろう。








「魔王様、グレイから連絡が届きました」

「おお、待っていたぞ、今度はしっかりと近況報告が聞けるのであろうな」

魔王は報告書に目を通していく。




———私は無事にファイナルクエスト1をクリアしました。
そして次にプレイするゲームを決めなければなりません。候補はファイナルクエスト2とドラゴンファンタジー1。
どちらにするか最後まで悩んだ末、ここはやはり同じシリーズを全部クリアしてからドラゴンファンタジーをすることに……。
ですが、ここで大事なことに気づきます。古い作品ほどグラフィックは粗く新しい作品ほど綺麗になるのです!! 危うく罠にかかるところでした。それを考えた上でドラゴンファンタジーを……。 

しかし、ここで新たな問題が発生しました。

人間界にはこれ以外にも沢山ゲームがあるのです!! その沢山のゲームから1つを選ぶことなど俺にはできない。
魔王を玉にして打ち出すピンボール!! 魔王をいっぱい並べて、そこに丸めた魔王を投げ、どれだけ破壊できたかを競うボウリング!! 人間が魔王に跨って競争する競魔!! 上からスライムが落下してきて、それをご飯の上にのせて魔王の口に投げ入れるゲームも捨てがたい!!

そして、悩みに悩んだ結果。

勇者が裸の魔王を振り回しながら宇宙人と戦い、国を守るゲームに決定しました。

―――――ps.体重が2キロ増えました。



報告書を持つ魔王の手がわなわなと震える。

「決定しました。じゃねえよ!! こいつほんとにやる気あるの? 無いよね? 使命忘れてない?」

「まあ、まあ、魔王様落ち着いてください」

「確かに、前回よりは書いてあるけどもさ…… それよりも、なんか魔王の扱い酷くない? 破壊されたり、スライムご飯とか食べさせられたり、勇者に武器として振り回されたりさ!!」

「魔王様は、人間にとって憎き存在ですからね。魔王様をいたぶることが彼らのストレス発散に繋がるのでしょう」

「いやでもさ、もっとこうさ、優しい感じのゲーム無いのかな? 魔王様と仲良くなろうみたいなモノあってもよくない?」

「私に言われても… そうだ、グレイにそういうゲームを探すようにお願いしましょう、世の中色々なものがありますから魔王好きな人間もいるでしょう」

「それが良い、よろしく頼んだ!!」

それで良いのか魔王よ……。 

魔王城は今日も平和だった。
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