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オレオレ詐欺
しおりを挟む「……あー、もしもし?俺俺」
今日も俺はリストに書かれた番号に電話をする。所謂、オレオレ詐欺ってやつだ。少し前からそれをバイト代わりにしていた。
一時期、テレビで有名になったせいで、引っかかるやつは減った。けれど、根気良く電話してると三時間に一回は引っかかるのだ。
今日も朝からリストの上から電話をしても一人も相手にされず、電話に出ず。コーヒーを飲みながら連絡していると、サ行にさしかかったところで、やっと電話が繋がったのだった。
「……もしもし、健太かぁ?」
「そうそう!俺!健太!ばあちゃん、元気してる?」
「おぉお。健太かぁ。ばあちゃん、元気だよ。ちゃんと、ご飯食べてるかぁ?」
ーーかかった。
俺は心の中でガッツポーズを取る。
人とは単純なもので、一度そう思ったら、なかなかその考えから抜け出せない。そして、勝手に話し出す人は、適当に相槌を打つだけで勝手に話が進み、多少の食い違いがあっても、間違いを都合のいいように解釈してくれるのだ。
話を聞いていると、電話に出たばあちゃんは茨城に住んでいて、息子夫婦と同じ家に住んでいるようだった。
孫のことを溺愛しているようで、話の限りでは歳や背格好が俺と似ているようで、東京の高校に行ってそのまま社会人になり十数年帰ってきていないようだった。
ばあちゃんは家族とうまくいってないみたいで、肩身の狭い思いをしていたようだ。ご飯の時間が合わないだとか、お風呂の時間が合わない。あまり自由に外を出歩けないと、俺に愚痴ってきた。
愚痴を言い出すようになったら、俺を孫の健太だと完全に信じ込んでいるに違いない。
ある程度話を聞き、俺は話を切り出すことにした。
「……でさぁ。実は俺、結婚しようかと思ってさ。まだ母ちゃん達には言ってないんだけどさ」
「それはめでたいねぇ。うれしいねぇ」
すごく嬉しそうだった。孫の結婚を喜ばないジジババはいないだろう。そこにつけ込ませてもらう。
「で、ちょっとお金が足りないんだよね……。なんかさ、お袋達には話づらくてさ」
「なんだ、そんなことかぁ!ばあちゃんに任せろぉ」
ーーしめた。
「じゃあさ、今から言う口座にさ……」
「そんな水臭いこと言わないで帰っておいでよ。ばあちゃんに顔見せてくれ」
「……実は、親父と仕事のことで、喧嘩しててさ、帰りづらいのもあるんだよね」
「……そうだったんかぁ。なら、ばあちゃん、あんまり遠くまではいけないけど、内緒で出て行って渡しにいこうかね」
俺は少し考える。
ーー十数年か。なら姿が大分変わってても、ばあちゃん一人なら誤魔化せるだろう。
「あまり外で歩けないんじゃ、無理じゃないか?大丈夫か?」
「大丈夫だぁ」
ーーよし。
俺の仕事が一つ成立した。
今、俺は初めて降りる駅にいる。
手元にはお守りがあった。
なんだか、ばあちゃんに同情してしまい、都内でお守りを買って、それでもくれてやろうと考えていたのだった。
ーー詐欺グループの奴らには馬鹿にされるかもしれない。この仕事に同情はいらない。わかっている。けれど、金をしっかり回収する分には問題ないはずだ。
指紋などはつかないように手袋はしていたし、抜かりはなかった。
駅を下り、ばあちゃんの指定の橋に向かう。なんでも、健太がこどものときによく散歩で連れてってもらった場所らしい。
しかし、道が入り組んでいて複雑だったので、改めてばあちゃんに電話をかけながら場所に行くことにした。
「もしもし!俺、健太だけど」
「……おお。健太かぁ。ばあちゃんはもう着くよ。着いたのかぁ」
「いや、ちょっと久しぶりだから迷っちゃって。橋ってさ、大きい看板の方に行くんだっけ」
「そうだぁ。そこを真っ直ぐだぁ」
「そうかぁ。ちょっと思い出したかも。そして左だよね。ならあとちょっとだ」
「おー、待ってるよぉ……ツーツー」
「あれ、ばあちゃん?ばあちゃん?」
突然、通話が切れてしまった。
慌ててかけ直してみるが、全く電話は繋がらなくなってしまった。
ーーただ単に電源が切れただけか?それとも騙されたか?いや、きっと、電源が切れただけに違いない。
爺婆は携帯を小まめに充電するクセがない。今までもそういったやつは多く、通話の途中で切れることも多かった。
そう考えることにして、約束の橋が見えるだろう角を曲がった。
橋には犬の散歩をする人はいたが、よくておばさんで、ばあちゃんと呼べる年齢の人ではなかった。
こちらを見ても何も声もかけてこなかった。
ーーもう着くとは言っていたが、俺が急ぎすぎたか。歩くのも遅いだろうし……。
時計に目をやると、指定の時間を十分ほど過ぎていた。
更に十分ほど待ってみたが、やっぱりばあちゃんは来なかった。通りかがる人にも目をやっていたが、それらしい人はいなかった。
ーークソっ。騙されたか。
なんとなく足元にあった石を蹴飛ばすと、カンっと近くにあった、工事現場の場所を示す看板にあたった。
「ん?」
音を立てた看板に何かがぶら下がっているのが見えた。
携帯だった。携帯が看板にぶら下がっていたのだった。
電源はつかなかった。そしてその携帯には「もしこの携帯を拾ったら連絡をください」の文言とばあちゃんの苗字が書かれたシールが貼られていたのだった。
何か変な気がして、俺は直感的にその番号に電話をかけてみることにした。
ーープルルル。ガチャ。
「もしもし」
ばあちゃんとは違う女の人の声が聞こえた。
「あ、あの携帯を拾ったんですが」
「わざわざ連絡くれてありがとうございます」
「いえ」
「もう見つかることはないかと思っていました」
「ご高齢の方が無くされたのですか?」
「はい。実は、数ヶ月前に亡くなったおばあちゃんが無くしたものなんです」
「え」
「少し、ボケてしまったのか、孫の名前を呼びながら、毎日あちこちを歩き回っていたみたいで、その時なくしたものみたいで」
ーーブツ。
また通話が切れてしまった。
びっくりして携帯を落としそうになるのを拾った。
急なことに頭が変になりそうだった。
ーー今の話がばあちゃんの話なら、俺はいったい誰と話をしていたんだよ。
青ざめそうになった時、確かに耳元でこう聞こえたんだ。
ーーおかえり。
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