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短編
鼻歌
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カイと真(+ジーノ)
Xにのせたものの続きです。モブ×真の描写が少しだけあるのでご注意ください。
「ふーん、ふふふーん」
カイがミーティングルームに入るとテーブルいっぱいに資料や本を広げた真が奇妙な歌を口ずさみながらパソコンの画面を睨みつけていた。
「なんだあれ」
カイに続いて部屋に入ったジーノが眉をひそめる。
「シンさんが鼻歌うたってる……」
初めて見る光景に驚きつつ、切迫した様子で仕事をしている真の邪魔をしないようカイは離れた場所に座った。
「めっちゃ歌ってますね」
「忙しすぎて頭おかしくなったんじゃね」
「確かに顔やばいっすね」
顔色が良くないのは当然として、睡眠不足が限界を突破したのか目はむしろ爛爛とし、即興の鼻歌を歌いながら乱雑にキーボードを叩く様子は狂気すら感じられた。
「こわ……あいつ最近ここ泊まってんの? 部屋汚ねーし服もだせーし、この部屋外から丸見えだからやめさせて欲しいんだけど」
「俺に言ってます? 無理に決まってますよね?」
「俺が言ってもキレられるだけだし」
「俺が言ったら殺されますよ」
「こんな惨状みたら見学に来た新人がびびっちゃうだろ?」
「そいつは適性ないんで雇わないほうがいいですよ」
「やっぱ屋根ついてるだけのボロ屋に住める奴じゃないと駄目か」
「そうですよ水だけのシャワー浴びれる奴じゃないと」
「今どき居るかよそんな奴」
「ここに居ますよ逸材が」
「お前らうるせーんだよさっきからごちゃごちゃ話してるだけなら外でやれ!」
怒号と共にエナジードリンクの空き缶が飛んできてカイの頭の横を通り抜け壁にぶつかって派手な音を立てて床に落ちた。
「出てけ!」
扉を指差され、カイはジーノと共に逃げるように部屋を出た。
「なんだよ引っ張るなよ」
「やっぱ怒られたじゃないですか! 何あの缶すげー音しましたよ超怖いんですけど!」
「ぶつらないから大丈夫だろ、あいつコントロール良いし」
「そんな話じゃなくて!」
ラウンジまで移動し、ソファに腰を下ろしたジーノが長い脚を組んで煙草に火をつける。
「お前あいつに気遣いすぎじゃね?」
「ジーノさんが緩すぎなんすよ。もっと常識的な人だと思ってました」
「あいつと一緒に居るからそう見えるだけだろ」
「それはそうですね」
「なんか俺だけ暇みたいな」
「いや言ってないです誰もそんな事」
とはいえ真に比べるとジーノのスケジュールには余裕があるように見える。こうして仕事の合間にカイに付き合ってくれているのがその証拠だ。
「シンさんはなんであんなに忙しいんですか?」
カイはジーノの隣に座り、パソコンを開いた。
「俺はすぐ部下に仕事振っちゃうけど、あいつはそれで出来た時間に新しい仕事入れるから永遠に余裕なんて生まれないんだよ」
「死んじゃいません?」
「病気だなあれは最早。ま、だからお前が頑張るんだろ?」
「そうでした!」
本来の目的を思い出し、カイは開いたパソコンをジーノに渡した。
「二つあります。この資料のチェックとこっちのプロジェクトの仕組み作りを相談したいです」
「いいよ」
ジーノは煙草を消し、眼鏡をかけた。
「資料はどこまでチェックしたらいいんだ?」
「どこまでというのは……」
「どこまで細かく見ればいい?」
「まだ完全じゃないのでストーリーと使うデータが適切か見て頂きたいです」
「へぇ」
意外そうな顔をしたジーノが改めてモニターを眺める。
「いいよ、説明して」
「え?」
「この資料使って俺に話してみな」
予想外の指示に戸惑いながらも作成した資料を元にプレゼンする。台本を作成していないので上手く伝えられない部分もあったがどうにか最後まで話し終えるとジーノが手を打った。
「いいじゃん。初めてのわりによくまとまってる。納得感もある」
「えっ、ほんとですか、嬉しい……ありがとうございます」
「成長したな。相当頑張ったんじゃないか?」
「そ、そんな事言われたら泣きます……」
「大袈裟だな」
ジーノが資料を見返しながら修正点のアドバイスをくれる。一通りの指示を出し終えるとジーノは眼鏡を外した。
「何やってんだお前ら」
急に現れた真にカイは驚いて立ち上がった。
「シンさん! お疲れ様です! さっきは申し訳ありませんでした!」
謝罪するカイを横目に淹れたばかりのコーヒーに口をつけた真にジーノがパソコンの画面を向ける。
「カイが作った資料見ろよ。結構よく出来てるから」
「なんの?」
一瞥してすぐ理解した様子の真がいすに座り画面を見つめる。
「誰が作ったって?」
「俺です!」
「ふーん」
一通り確認した真が画面を指差す。
「ここと」
「え?」
「ここ、あとここも修正。ストーリーは良い。イメージだけ変更してもう一回だして」
「はい!」
慌てて指摘をメモしながら修正内容を反芻する。
「何時までに出来る?」
「えーと、六時までには……」
「その程度の修正に何時間かける気だよ暇すぎだろ仕事しろ」
「すみません……」
「一時間でレイアウトまでやれ」
「は、はい!」
間に合うかどうかの緊張感があるがこの段階まで進めるのは初めてで焦り以上に高揚していた。わずかではあるが成長に喜ぶ自身を抑え、カイは作業に取り掛かった。
Xにのせたものの続きです。モブ×真の描写が少しだけあるのでご注意ください。
「ふーん、ふふふーん」
カイがミーティングルームに入るとテーブルいっぱいに資料や本を広げた真が奇妙な歌を口ずさみながらパソコンの画面を睨みつけていた。
「なんだあれ」
カイに続いて部屋に入ったジーノが眉をひそめる。
「シンさんが鼻歌うたってる……」
初めて見る光景に驚きつつ、切迫した様子で仕事をしている真の邪魔をしないようカイは離れた場所に座った。
「めっちゃ歌ってますね」
「忙しすぎて頭おかしくなったんじゃね」
「確かに顔やばいっすね」
顔色が良くないのは当然として、睡眠不足が限界を突破したのか目はむしろ爛爛とし、即興の鼻歌を歌いながら乱雑にキーボードを叩く様子は狂気すら感じられた。
「こわ……あいつ最近ここ泊まってんの? 部屋汚ねーし服もだせーし、この部屋外から丸見えだからやめさせて欲しいんだけど」
「俺に言ってます? 無理に決まってますよね?」
「俺が言ってもキレられるだけだし」
「俺が言ったら殺されますよ」
「こんな惨状みたら見学に来た新人がびびっちゃうだろ?」
「そいつは適性ないんで雇わないほうがいいですよ」
「やっぱ屋根ついてるだけのボロ屋に住める奴じゃないと駄目か」
「そうですよ水だけのシャワー浴びれる奴じゃないと」
「今どき居るかよそんな奴」
「ここに居ますよ逸材が」
「お前らうるせーんだよさっきからごちゃごちゃ話してるだけなら外でやれ!」
怒号と共にエナジードリンクの空き缶が飛んできてカイの頭の横を通り抜け壁にぶつかって派手な音を立てて床に落ちた。
「出てけ!」
扉を指差され、カイはジーノと共に逃げるように部屋を出た。
「なんだよ引っ張るなよ」
「やっぱ怒られたじゃないですか! 何あの缶すげー音しましたよ超怖いんですけど!」
「ぶつらないから大丈夫だろ、あいつコントロール良いし」
「そんな話じゃなくて!」
ラウンジまで移動し、ソファに腰を下ろしたジーノが長い脚を組んで煙草に火をつける。
「お前あいつに気遣いすぎじゃね?」
「ジーノさんが緩すぎなんすよ。もっと常識的な人だと思ってました」
「あいつと一緒に居るからそう見えるだけだろ」
「それはそうですね」
「なんか俺だけ暇みたいな」
「いや言ってないです誰もそんな事」
とはいえ真に比べるとジーノのスケジュールには余裕があるように見える。こうして仕事の合間にカイに付き合ってくれているのがその証拠だ。
「シンさんはなんであんなに忙しいんですか?」
カイはジーノの隣に座り、パソコンを開いた。
「俺はすぐ部下に仕事振っちゃうけど、あいつはそれで出来た時間に新しい仕事入れるから永遠に余裕なんて生まれないんだよ」
「死んじゃいません?」
「病気だなあれは最早。ま、だからお前が頑張るんだろ?」
「そうでした!」
本来の目的を思い出し、カイは開いたパソコンをジーノに渡した。
「二つあります。この資料のチェックとこっちのプロジェクトの仕組み作りを相談したいです」
「いいよ」
ジーノは煙草を消し、眼鏡をかけた。
「資料はどこまでチェックしたらいいんだ?」
「どこまでというのは……」
「どこまで細かく見ればいい?」
「まだ完全じゃないのでストーリーと使うデータが適切か見て頂きたいです」
「へぇ」
意外そうな顔をしたジーノが改めてモニターを眺める。
「いいよ、説明して」
「え?」
「この資料使って俺に話してみな」
予想外の指示に戸惑いながらも作成した資料を元にプレゼンする。台本を作成していないので上手く伝えられない部分もあったがどうにか最後まで話し終えるとジーノが手を打った。
「いいじゃん。初めてのわりによくまとまってる。納得感もある」
「えっ、ほんとですか、嬉しい……ありがとうございます」
「成長したな。相当頑張ったんじゃないか?」
「そ、そんな事言われたら泣きます……」
「大袈裟だな」
ジーノが資料を見返しながら修正点のアドバイスをくれる。一通りの指示を出し終えるとジーノは眼鏡を外した。
「何やってんだお前ら」
急に現れた真にカイは驚いて立ち上がった。
「シンさん! お疲れ様です! さっきは申し訳ありませんでした!」
謝罪するカイを横目に淹れたばかりのコーヒーに口をつけた真にジーノがパソコンの画面を向ける。
「カイが作った資料見ろよ。結構よく出来てるから」
「なんの?」
一瞥してすぐ理解した様子の真がいすに座り画面を見つめる。
「誰が作ったって?」
「俺です!」
「ふーん」
一通り確認した真が画面を指差す。
「ここと」
「え?」
「ここ、あとここも修正。ストーリーは良い。イメージだけ変更してもう一回だして」
「はい!」
慌てて指摘をメモしながら修正内容を反芻する。
「何時までに出来る?」
「えーと、六時までには……」
「その程度の修正に何時間かける気だよ暇すぎだろ仕事しろ」
「すみません……」
「一時間でレイアウトまでやれ」
「は、はい!」
間に合うかどうかの緊張感があるがこの段階まで進めるのは初めてで焦り以上に高揚していた。わずかではあるが成長に喜ぶ自身を抑え、カイは作業に取り掛かった。
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