160 / 172
note(Xまとめ)
note 7
しおりを挟む
#教育 カイと真 仕事の話
「チェックお願いします!」
メッセージと共に共有された資料を開き、真は大きく舌を打った。
同じ部屋に居るにも関わらず、真の仕事の邪魔をしないため敢えて口頭ではなくチャット上で連絡してきた無駄な気遣いに対して同様の手法で返答するには言いたい事があり過ぎた。
「おい」
怒りを込めて呼びかけると、舌打ちの時点で既に緊張した様子でこちらを伺っていたカイが一瞬の硬直の後、いすをひっくり返しそうな勢いで近くに来た。
「は、はい!」
「パソコン持って来い」
「はい!」
隣に座らせたカイに先ほど彼自身が送ってきた資料を突きつける。
「俺が言いたい事がわかるかるか?」
「えーと、ダメ出し?」
「具体的に」
「……すみません、わかりません。正直、今回は渾身の出来でした」
こいつは正気なのかと思い、一度カイの顔を見てから資料を表示させたモニターに視線を戻す。
「もういいから全部AIにやらせろよ。表も書式も関数も構成も秒で作ってくれるから」
「そ、それはそうですけど、自分でもちゃんと出来るようになっておきたいって言うか、ほら、修正は必要じゃないですか! 俺がそこ出来たらシンさんももっと楽に……」
「まず」
うるさい御託を遮ると、聞き逃したら最後だと理解した様子のカイが急いでメモアプリを起動する。
「ぱっと見でこの資料のどこがゴミなのかと言うと、書式が揃ってなくて見づらい。言葉のレベルが合ってない。タイトルに主観を入れるな。語彙が貧弱。そして退屈」
「……すみません、一つずつ教えてもらえますか」
「そのままだろ。書式は統一しろよ。てか事前にテンプレ共有したんだからそれ使え。言葉のレベルが合ってないのはこことここ。ここは誤字ってるから直せ。タイトルはタイトルだから主張は内容でしろ。語彙はAIに頼れ。退屈なのはどうしようもないから勉強したら?」
「えー……と、改善の優先順位はありますか?」
「なめてんの? 全部に決まってんだろ。まぁ、強いて言うなら内容だな。先に言った点は中身が面白ければ見逃して貰える可能性もある」
「なるほど!」
「が、基本的な部分がおざなりだと信頼が下がるし軽んじられるリスクが高い。よって全部重要だし出来て当たり前だと俺は思っている」
「はい……」
「落ち込んだふりとかいいから、やる気あるならさっさと修正したら?」
「はい!」
席に戻り、猛然と作業を再開するカイを見て、こういう馬鹿なところはこいつの長所だなと思う。後でコーヒーくらい淹れてやるかと気まぐれに思い、後回しにすると忘れると考え直し、真はすぐに席を立った。
#クールビズ カイと真 暑い日
「暑くないんすか?」
まだまだ真夏の気温ではないがスーツが辛い季節になってきた。カイは下っ端だし上司の手前勝手に装いを軽くする事はできないので耐えるしかないが、その上司がいつも涼しい顔でジャケットを着ているのが不思議でならない。
「は? 暑いに決まってんだろ。頭だいじょ……」
キレ気味の返答が途中で止まったのは先日、ユーリやジーノから部下への暴言を指摘されたせいだろう。今のせりふの続きは「頭大丈夫か?」だ。
「それ面倒じゃないですか? いいですよ、俺に対してはいつも通りで。なんか俺も調子狂うし」
「おーそうだな終わり終わり! とか出来るかよ。お前がどうとか関係ねーんだよ。俺がボスと約束したんだから」
「そうですね……」
「てか暑苦しいから髪切れよ。鬱陶しいんだよ」
「ん? 言ってる側からそれはアウトでは?」
「事実を言ってるだけだろ。見苦しいから髪を切れ」
「酷くなってません?」
真の苛立ち具合から、見た目に変化がなくとも暑さに辟易しているのは事実のようなので少しでも涼をとろうとコーヒースタンドに立ち寄った。本当は店内で涼みたいところだがこの後も予定があるためゆっくりはしていられない。
「ミルクいりますか?」
「いらない」
購入したアイスコーヒーを真に渡すと、スマートフォンで誰かへのメッセージを入力していた彼は勢いよくストローで中身を吸い上げた。
「はや、めっちゃ喉乾いてるじゃないですか。もっとこまめに水分補給して下さいよ。倒れますよ?」
「うるせーな。お前の気がきかねーのが悪いんだろ」
「それはそうですけど……てかそんな一気にコーヒー飲むと気持ち悪くなりません?」
「ならねーよ。ガキかよ」
真の中で、ユーリとの約束は完全に反故にされたらしい。それを言うとまた怒られそうなので話題を変えることにする。
「てかマジで暑いっすね。そろそろクールビズにしません?」
「夏用スーツ着てるじゃん」
「そうなんすけど、もっとこう、ノーネクタイノージャケット的な」
「すれば? 誰も駄目って言ってないだろ」
「いやシンさんがスーツ着てんのに俺だけラフに出来ないっすよ」
「なら我慢しろ。時間だ、行くぞ」
時計を一瞥した真はコーヒーを飲み干し、照りつける日差しの暑さなど微塵も感じさせない軽快さで歩き出す。眩しさに目を細め、カイは慌てて後を追った。
「チェックお願いします!」
メッセージと共に共有された資料を開き、真は大きく舌を打った。
同じ部屋に居るにも関わらず、真の仕事の邪魔をしないため敢えて口頭ではなくチャット上で連絡してきた無駄な気遣いに対して同様の手法で返答するには言いたい事があり過ぎた。
「おい」
怒りを込めて呼びかけると、舌打ちの時点で既に緊張した様子でこちらを伺っていたカイが一瞬の硬直の後、いすをひっくり返しそうな勢いで近くに来た。
「は、はい!」
「パソコン持って来い」
「はい!」
隣に座らせたカイに先ほど彼自身が送ってきた資料を突きつける。
「俺が言いたい事がわかるかるか?」
「えーと、ダメ出し?」
「具体的に」
「……すみません、わかりません。正直、今回は渾身の出来でした」
こいつは正気なのかと思い、一度カイの顔を見てから資料を表示させたモニターに視線を戻す。
「もういいから全部AIにやらせろよ。表も書式も関数も構成も秒で作ってくれるから」
「そ、それはそうですけど、自分でもちゃんと出来るようになっておきたいって言うか、ほら、修正は必要じゃないですか! 俺がそこ出来たらシンさんももっと楽に……」
「まず」
うるさい御託を遮ると、聞き逃したら最後だと理解した様子のカイが急いでメモアプリを起動する。
「ぱっと見でこの資料のどこがゴミなのかと言うと、書式が揃ってなくて見づらい。言葉のレベルが合ってない。タイトルに主観を入れるな。語彙が貧弱。そして退屈」
「……すみません、一つずつ教えてもらえますか」
「そのままだろ。書式は統一しろよ。てか事前にテンプレ共有したんだからそれ使え。言葉のレベルが合ってないのはこことここ。ここは誤字ってるから直せ。タイトルはタイトルだから主張は内容でしろ。語彙はAIに頼れ。退屈なのはどうしようもないから勉強したら?」
「えー……と、改善の優先順位はありますか?」
「なめてんの? 全部に決まってんだろ。まぁ、強いて言うなら内容だな。先に言った点は中身が面白ければ見逃して貰える可能性もある」
「なるほど!」
「が、基本的な部分がおざなりだと信頼が下がるし軽んじられるリスクが高い。よって全部重要だし出来て当たり前だと俺は思っている」
「はい……」
「落ち込んだふりとかいいから、やる気あるならさっさと修正したら?」
「はい!」
席に戻り、猛然と作業を再開するカイを見て、こういう馬鹿なところはこいつの長所だなと思う。後でコーヒーくらい淹れてやるかと気まぐれに思い、後回しにすると忘れると考え直し、真はすぐに席を立った。
#クールビズ カイと真 暑い日
「暑くないんすか?」
まだまだ真夏の気温ではないがスーツが辛い季節になってきた。カイは下っ端だし上司の手前勝手に装いを軽くする事はできないので耐えるしかないが、その上司がいつも涼しい顔でジャケットを着ているのが不思議でならない。
「は? 暑いに決まってんだろ。頭だいじょ……」
キレ気味の返答が途中で止まったのは先日、ユーリやジーノから部下への暴言を指摘されたせいだろう。今のせりふの続きは「頭大丈夫か?」だ。
「それ面倒じゃないですか? いいですよ、俺に対してはいつも通りで。なんか俺も調子狂うし」
「おーそうだな終わり終わり! とか出来るかよ。お前がどうとか関係ねーんだよ。俺がボスと約束したんだから」
「そうですね……」
「てか暑苦しいから髪切れよ。鬱陶しいんだよ」
「ん? 言ってる側からそれはアウトでは?」
「事実を言ってるだけだろ。見苦しいから髪を切れ」
「酷くなってません?」
真の苛立ち具合から、見た目に変化がなくとも暑さに辟易しているのは事実のようなので少しでも涼をとろうとコーヒースタンドに立ち寄った。本当は店内で涼みたいところだがこの後も予定があるためゆっくりはしていられない。
「ミルクいりますか?」
「いらない」
購入したアイスコーヒーを真に渡すと、スマートフォンで誰かへのメッセージを入力していた彼は勢いよくストローで中身を吸い上げた。
「はや、めっちゃ喉乾いてるじゃないですか。もっとこまめに水分補給して下さいよ。倒れますよ?」
「うるせーな。お前の気がきかねーのが悪いんだろ」
「それはそうですけど……てかそんな一気にコーヒー飲むと気持ち悪くなりません?」
「ならねーよ。ガキかよ」
真の中で、ユーリとの約束は完全に反故にされたらしい。それを言うとまた怒られそうなので話題を変えることにする。
「てかマジで暑いっすね。そろそろクールビズにしません?」
「夏用スーツ着てるじゃん」
「そうなんすけど、もっとこう、ノーネクタイノージャケット的な」
「すれば? 誰も駄目って言ってないだろ」
「いやシンさんがスーツ着てんのに俺だけラフに出来ないっすよ」
「なら我慢しろ。時間だ、行くぞ」
時計を一瞥した真はコーヒーを飲み干し、照りつける日差しの暑さなど微塵も感じさせない軽快さで歩き出す。眩しさに目を細め、カイは慌てて後を追った。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。



塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる