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選べない手を伸ばしたまま
#16
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凛太朗の声が聞こえ、間もなく照明が落ちた。闇の中、ホールの開口部の先から飛んできた銃弾にテロリスト達が撃たれていく。
真は暗視装置を通してフィオーレとBR社の人間が客を避難させている事を確認し、騒ぎに乗じて敵を撃った。
「ジャック!」
呼びかけるとすぐに反応があった。無線は完全に復旧したようだ。
「聞こえてる。二人プールの方に向かった」
辺りを見回し開口部から外へ逃げようとしていた一人を撃つ。もう一人を狙った弾は外れ、運悪く残弾も尽きた。
撃ち返された弾丸が肩を掠める。立て続けに狙われ舌を打つ。柱に身を隠し新しいマガジンを装填する。
再び狙いを定めると別の方向から飛んできた銃弾に男が倒れた。
弾丸の飛んできた先を確認すると、右肩に犬のシルエットのパッチを付けた男がサイトを覗き込んでいた。
「彼が君の新しい犬?」
無線から聞こえてきたのは烏の声だった。
「お前今までどこに居た?」
「話せば長いよ。おしゃべりしてる暇あるの?」
「リンは?」
「無事だよ。電気室に居る」
「無線の件といい、お前なにか隠してるだろ」
「保険だよ。君と同じだろ」
真は通信を切り、残りの敵に照準を合わせた。烏の指摘は正しいが、妙に不快な気分だった。
照明が落ちる直前に真と目が合い、気づけば体が動いていた。
身を屈め、事前に渡された暗視装置をつけ、銃を構える。
目を凝らし、仲間の一人一人に照準を合わせ、引き金を引く。
倒れていく仲間を見ながら、アルはなぜ自分が彼らを撃ち殺しているのか不思議に思った。
作戦が失敗した後、仲間と共に拘束されたアルはホールへ移動する前に真に呼び止められた。
「座れ」
短く命じられ、応じずにいると真の部下に肩を押さえられた。手近ないすに強制的に座らされ、正面に腰を下ろした真が口を開く。
「腕は痛むか?」
黙っていると背後の男に負傷した方の腕を掴まれた。
「質問に答えろ!」
「やめろ」
すぐに真が制止したため腕は解放されたが、強さを増した痛みにアルは顔を顰めた。
「我慢強いな。若い奴にしては珍しい」
真は部下に目配せするとアルの拘束を解かせた。腕の傷を確認し、簡易的な道具で手当を始める。
「……何が目的だ」
慣れた手つきで応急処置を行う真の真意がわからず、アルは眉を寄せた。
「保険をかけようと思って。このまま何事もなければいいが、そうじゃなかった時のために使える駒を増やしておく。動けない程の傷じゃないだろ」
「は?」
「協力しろって言ってんだよ。命は保証してやる」
「正気か? なぜ俺がそんな事を」
「お前が一番使えそうだから。さっき俺の動きに反応したのはお前だけだったし」
まだ思考が追いつかない。なぜこの男は当然だと言わんばかりに、到底受け入れられない要求を口にするのだろう。
「仲間を大勢殺したお前達に協力? 笑わせるな」
「仲間、ね。命懸けで拒否するほどその仲間とやらに執着してないだろ」
真の言葉にどきりとする。
「そんなに仲間が大事なら、あの時なぜ俺を撃たなかった? お前なら、死ぬ気でやれば俺一人くらい止められた筈だ」
アルはテオの顔を思い出した。眩しい彼の笑顔が蒼白な死に顔にかき消される。
いつ死んでもいいと思っていた。だから今日の作戦に参加した。それなのに、あの時、銃口を向けられたアルは動けなかった。土壇場で生に縋ってしまった事が恥ずかしく、失われた命を思うと罪悪感がずしりと心を重くした。
「お前は若いし、死ぬにはまだ早い。生きて仲間を弔ってやれ」
免罪符のような真の言葉に従い、アルは仲間を裏切った。肩には彼への服従を証明するパッチが貼られている。
「私はシンの犬です」
犬のシルエットと共に記載された言葉を体現するため、アルはまた一人、かつての仲間を撃ち殺した。
真は暗視装置を通してフィオーレとBR社の人間が客を避難させている事を確認し、騒ぎに乗じて敵を撃った。
「ジャック!」
呼びかけるとすぐに反応があった。無線は完全に復旧したようだ。
「聞こえてる。二人プールの方に向かった」
辺りを見回し開口部から外へ逃げようとしていた一人を撃つ。もう一人を狙った弾は外れ、運悪く残弾も尽きた。
撃ち返された弾丸が肩を掠める。立て続けに狙われ舌を打つ。柱に身を隠し新しいマガジンを装填する。
再び狙いを定めると別の方向から飛んできた銃弾に男が倒れた。
弾丸の飛んできた先を確認すると、右肩に犬のシルエットのパッチを付けた男がサイトを覗き込んでいた。
「彼が君の新しい犬?」
無線から聞こえてきたのは烏の声だった。
「お前今までどこに居た?」
「話せば長いよ。おしゃべりしてる暇あるの?」
「リンは?」
「無事だよ。電気室に居る」
「無線の件といい、お前なにか隠してるだろ」
「保険だよ。君と同じだろ」
真は通信を切り、残りの敵に照準を合わせた。烏の指摘は正しいが、妙に不快な気分だった。
照明が落ちる直前に真と目が合い、気づけば体が動いていた。
身を屈め、事前に渡された暗視装置をつけ、銃を構える。
目を凝らし、仲間の一人一人に照準を合わせ、引き金を引く。
倒れていく仲間を見ながら、アルはなぜ自分が彼らを撃ち殺しているのか不思議に思った。
作戦が失敗した後、仲間と共に拘束されたアルはホールへ移動する前に真に呼び止められた。
「座れ」
短く命じられ、応じずにいると真の部下に肩を押さえられた。手近ないすに強制的に座らされ、正面に腰を下ろした真が口を開く。
「腕は痛むか?」
黙っていると背後の男に負傷した方の腕を掴まれた。
「質問に答えろ!」
「やめろ」
すぐに真が制止したため腕は解放されたが、強さを増した痛みにアルは顔を顰めた。
「我慢強いな。若い奴にしては珍しい」
真は部下に目配せするとアルの拘束を解かせた。腕の傷を確認し、簡易的な道具で手当を始める。
「……何が目的だ」
慣れた手つきで応急処置を行う真の真意がわからず、アルは眉を寄せた。
「保険をかけようと思って。このまま何事もなければいいが、そうじゃなかった時のために使える駒を増やしておく。動けない程の傷じゃないだろ」
「は?」
「協力しろって言ってんだよ。命は保証してやる」
「正気か? なぜ俺がそんな事を」
「お前が一番使えそうだから。さっき俺の動きに反応したのはお前だけだったし」
まだ思考が追いつかない。なぜこの男は当然だと言わんばかりに、到底受け入れられない要求を口にするのだろう。
「仲間を大勢殺したお前達に協力? 笑わせるな」
「仲間、ね。命懸けで拒否するほどその仲間とやらに執着してないだろ」
真の言葉にどきりとする。
「そんなに仲間が大事なら、あの時なぜ俺を撃たなかった? お前なら、死ぬ気でやれば俺一人くらい止められた筈だ」
アルはテオの顔を思い出した。眩しい彼の笑顔が蒼白な死に顔にかき消される。
いつ死んでもいいと思っていた。だから今日の作戦に参加した。それなのに、あの時、銃口を向けられたアルは動けなかった。土壇場で生に縋ってしまった事が恥ずかしく、失われた命を思うと罪悪感がずしりと心を重くした。
「お前は若いし、死ぬにはまだ早い。生きて仲間を弔ってやれ」
免罪符のような真の言葉に従い、アルは仲間を裏切った。肩には彼への服従を証明するパッチが貼られている。
「私はシンの犬です」
犬のシルエットと共に記載された言葉を体現するため、アルはまた一人、かつての仲間を撃ち殺した。
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