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選べない手を伸ばしたまま
#14
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「この作戦は連中に気付かれたら終わりだ。だから参加者は厳選され、全容は一部にしか知らされていない。客の中にもこれが本物のパーティーだと思って参加している者もいる。お前が担当した少女達もそうだ」
「なんだよ、それ……」
クラウディオの服を掴んだ手から力が抜ける。知らなかった。自分だけ。いや、他にも知らされていない人間はいたのだろう。しかし、自分がここに居る目的と、知らされるに値しなかったという評価の乖離が突きつける現実に衝撃を受ける。
決して自分を楽観視していたわけではない。自信があったわけでもない。でもやれる事は全てやった。ひと時も妥協せず今日を迎えた。悩み迷うことはあったが最後まで自分で選んだ。それなのに、自分は最初から、参加させる価値もないと思われていたのか。
「そっか、だからレイが……」
あなたは私が守ると、レイに言われたことを思い出す。
「だから言いたくなかったんだよ」
クラウディオがため息をつく。襟を直した彼は正面から凛太朗を見据えた。
「いいか、リン、よくきけ。前にも言ったが、俺はお前には別の道を歩んでほしい。だから正直、お前がここに居ることすら良く思ってない。でもお前は今日、ここに居る。この大事な日に、絶対に失敗できない大事な仕事に参加してる。出来ると思うか? 自分の気持ちだけで。フィオーレの力は知ってるだろ? その気になればお前を強制的に日本に送り返すことも出来た。でもお前はここに居る。俺たちの仲間として彼女たちを守るという仕事を任されてる。それがどういうことかよく考えてみろ」
「そんなの……」
なんの慰めにもならないと思う。事実、凛太朗は何も知らされていなかった。本当の作戦に影響のない範囲で、自己満足程度に走り回ることを許されていただけだ。
「悩む前に今すべきことを考えろって言ってんだよ!」
今度は凛太朗がクラウディオに胸倉を掴まれた。
「さっきの威勢はどうした! 俺に食って掛かった時のお前はどこ行ったんだよ! この程度で萎えるくらいの覚悟だったのか? ならお前に出来ることは何もない! 今すぐ日本に帰れ!」
急に頭が冷えた気がした。クラウディオの言う通りだ。誰に何を言われようと、どう思われようと、自分の価値を証明する。二度と真にあんな思いをさせることのないように、彼を守ることが出来るほど強くなると誓った。
「ごめん」
悲観していても仕方がない。そんな感情からは何も生まれない。
「美玲は無事? 兄さんは?」
「二人とも無事だ。この通り無線が使えないし、カメラに映ったお前らがレイとはぐれたことがわかって急遽保護させた」
「保護?」
美玲を連れて行ったのはBR社の人間だし、その場面はどうしたって保護には見えなかった。
「BR社の元々の雇い主は俺たちなんだよ。それを隠してテロリスト連中の思惑に従い、俺たちを嵌めるためにアインツに雇われた、と見せかけて連中を罠に嵌めた」
「そういうこと……」
確かに、最初の作戦からしてレイを中心に組まれたものだった。
「……レイは?」
BR社が味方で、テロリスト達も全て無力化したのだとしたら、レイはなぜ倒れている?
「レイは繭に飲まされた薬で倒れたんだ」
「は? なんでそんなこと……」
「レイが言ってた。美玲を一人にするなって」
「まさか……」
同じ事を考えたであろうクラウディオと目を合わせ、凛太朗は走り出した。
「リン!」
「レイを頼む!」
クラウディオに伝えて階段へ向かうと、烏が追いかけてきた。
「俺も一緒に行くよ」
「ホールまでの最短ルートは?」
「この階段でも行けるけど、君の予感が当たってるなら気付かれないよう外から回り込んだほうがいいかもね」
先を走る烏は一つ下のフロアに降りて廊下に出た。手すりを掴み、軽々とそれを越えて地上へ飛び降りる。
先ほど同じことをしようとしていた凛太朗は烏のおかげで思いとどまったというのに、結局こうなるのか。
烏を追い、凛太朗は手すりを飛び越えた。
「なんだよ、それ……」
クラウディオの服を掴んだ手から力が抜ける。知らなかった。自分だけ。いや、他にも知らされていない人間はいたのだろう。しかし、自分がここに居る目的と、知らされるに値しなかったという評価の乖離が突きつける現実に衝撃を受ける。
決して自分を楽観視していたわけではない。自信があったわけでもない。でもやれる事は全てやった。ひと時も妥協せず今日を迎えた。悩み迷うことはあったが最後まで自分で選んだ。それなのに、自分は最初から、参加させる価値もないと思われていたのか。
「そっか、だからレイが……」
あなたは私が守ると、レイに言われたことを思い出す。
「だから言いたくなかったんだよ」
クラウディオがため息をつく。襟を直した彼は正面から凛太朗を見据えた。
「いいか、リン、よくきけ。前にも言ったが、俺はお前には別の道を歩んでほしい。だから正直、お前がここに居ることすら良く思ってない。でもお前は今日、ここに居る。この大事な日に、絶対に失敗できない大事な仕事に参加してる。出来ると思うか? 自分の気持ちだけで。フィオーレの力は知ってるだろ? その気になればお前を強制的に日本に送り返すことも出来た。でもお前はここに居る。俺たちの仲間として彼女たちを守るという仕事を任されてる。それがどういうことかよく考えてみろ」
「そんなの……」
なんの慰めにもならないと思う。事実、凛太朗は何も知らされていなかった。本当の作戦に影響のない範囲で、自己満足程度に走り回ることを許されていただけだ。
「悩む前に今すべきことを考えろって言ってんだよ!」
今度は凛太朗がクラウディオに胸倉を掴まれた。
「さっきの威勢はどうした! 俺に食って掛かった時のお前はどこ行ったんだよ! この程度で萎えるくらいの覚悟だったのか? ならお前に出来ることは何もない! 今すぐ日本に帰れ!」
急に頭が冷えた気がした。クラウディオの言う通りだ。誰に何を言われようと、どう思われようと、自分の価値を証明する。二度と真にあんな思いをさせることのないように、彼を守ることが出来るほど強くなると誓った。
「ごめん」
悲観していても仕方がない。そんな感情からは何も生まれない。
「美玲は無事? 兄さんは?」
「二人とも無事だ。この通り無線が使えないし、カメラに映ったお前らがレイとはぐれたことがわかって急遽保護させた」
「保護?」
美玲を連れて行ったのはBR社の人間だし、その場面はどうしたって保護には見えなかった。
「BR社の元々の雇い主は俺たちなんだよ。それを隠してテロリスト連中の思惑に従い、俺たちを嵌めるためにアインツに雇われた、と見せかけて連中を罠に嵌めた」
「そういうこと……」
確かに、最初の作戦からしてレイを中心に組まれたものだった。
「……レイは?」
BR社が味方で、テロリスト達も全て無力化したのだとしたら、レイはなぜ倒れている?
「レイは繭に飲まされた薬で倒れたんだ」
「は? なんでそんなこと……」
「レイが言ってた。美玲を一人にするなって」
「まさか……」
同じ事を考えたであろうクラウディオと目を合わせ、凛太朗は走り出した。
「リン!」
「レイを頼む!」
クラウディオに伝えて階段へ向かうと、烏が追いかけてきた。
「俺も一緒に行くよ」
「ホールまでの最短ルートは?」
「この階段でも行けるけど、君の予感が当たってるなら気付かれないよう外から回り込んだほうがいいかもね」
先を走る烏は一つ下のフロアに降りて廊下に出た。手すりを掴み、軽々とそれを越えて地上へ飛び降りる。
先ほど同じことをしようとしていた凛太朗は烏のおかげで思いとどまったというのに、結局こうなるのか。
烏を追い、凛太朗は手すりを飛び越えた。
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