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選べない手を伸ばしたまま
#10
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「どういうことですか? ドン・フィオーレ、停電や電波障害が起こるなんて聞いていません! 負傷者が出なかったから良かったものの、万が一お客様が巻き込まれたらどうするつもりだったんですか!」
アインツの警備担当者から質問責めにあうユーリの後ろに控えながら、真はメインホールに視線を走らせた。
照明が回復し、安全確認のとれたホールにはシェルターから戻ってきた本物の客やフィオーレの面々、BR社の人間、そして彼らに拘束されたテロリストの生き残りが集まっていた。
部下の一人が近づいてきて耳打ちした。
「アインツ側は全員の無事を確認できました。現在、負傷者の手当てを行っています」
「負傷って、どうせ逃げる時に自分で転んだとかだろ。手当なんていいから他のとこに人を回せ。こっちの被害状況は?」
「無線が使えないのでまだ確かなことは言えませんが、今のところ重傷者はいません」
「無線の回復予定は?」
「ただいま原因を特定中です」
「急げよ」
部下が下がると真は再びホールに視線を戻した。
拘束されたテロリストたちはいやに大人しい。逃げられないと悟って諦めているのか、始めからたいした覚悟もなく、件の上海マフィアに唆されて計画に加担しただけなのか、まだ何か策を残しているのか。三つ目の可能性について考えながら、ホールに弟の姿を探す。
少し離れた所で繭と美玲が抱き合い、再会と互いの無事を喜んでいた。美玲が泣きながら繭に何かを訴えている。繭はそんな美玲を穏やかに見つめている。今日の出来事が二人の関係に何らかの変化をもたらしたのかもしれない。
それにしても、繭はいつの間に戻ってきたのだろう。彼女も美玲と同様、凛太朗やレイとはぐれてから行方がわからず、BR社が美玲の保護に向かった際も彼女の姿はなかったと聞いている。
「乃木くん!」
名前を呼ばれ視線を転じさせると柳田が近づいてきた。真はとっさに表情を作った。
「柳田専務、お怪我はありませんか?」
「ああ、おかげさまで無事だよ。美玲も怪我がないようだし。一時はどうなるかと思ったけど、ほんとに良かった」
「申し訳ありませんでした」
「大丈夫大丈夫。こうしてみんな無事だし、確かにハラハラしたけど非日常的というか、今まで経験したことのないスリルを味わった感じで少し気持ちが高ぶってしまったよ。こんなことを言ったら不謹慎かもしれないけど」
恥ずかしそうに言う柳田に笑いそうになる。確かに彼の人生にはこんな経験をする機会も、その必要もなかっただろう。
とはいえ、直前まであんなに参加を渋っていたのに、この変わりようはなんだ。あまりに現実離れした体験をしたせいで気分が高揚しているのかもしれない。
「そういえば弟くんは一緒じゃないのか? 美玲を必死に守ろうとしてくれたと聞いたよ。ぜひお礼を言いたいんたが」
柳田が周囲を見回す。
真もそれが気になっていた。繭は戻って来ているのに、凛太朗とレイの姿が見当たらない。
「私も探しているんですが……」
無線は未だ通じず、電話も使えないままだ。ジーノが部下と共に状況確認も兼ねて見回りに行っているが、誰も戻って来ないところを見るとまだ進展はないのだろう。
アインツの警備担当者から質問責めにあうユーリの後ろに控えながら、真はメインホールに視線を走らせた。
照明が回復し、安全確認のとれたホールにはシェルターから戻ってきた本物の客やフィオーレの面々、BR社の人間、そして彼らに拘束されたテロリストの生き残りが集まっていた。
部下の一人が近づいてきて耳打ちした。
「アインツ側は全員の無事を確認できました。現在、負傷者の手当てを行っています」
「負傷って、どうせ逃げる時に自分で転んだとかだろ。手当なんていいから他のとこに人を回せ。こっちの被害状況は?」
「無線が使えないのでまだ確かなことは言えませんが、今のところ重傷者はいません」
「無線の回復予定は?」
「ただいま原因を特定中です」
「急げよ」
部下が下がると真は再びホールに視線を戻した。
拘束されたテロリストたちはいやに大人しい。逃げられないと悟って諦めているのか、始めからたいした覚悟もなく、件の上海マフィアに唆されて計画に加担しただけなのか、まだ何か策を残しているのか。三つ目の可能性について考えながら、ホールに弟の姿を探す。
少し離れた所で繭と美玲が抱き合い、再会と互いの無事を喜んでいた。美玲が泣きながら繭に何かを訴えている。繭はそんな美玲を穏やかに見つめている。今日の出来事が二人の関係に何らかの変化をもたらしたのかもしれない。
それにしても、繭はいつの間に戻ってきたのだろう。彼女も美玲と同様、凛太朗やレイとはぐれてから行方がわからず、BR社が美玲の保護に向かった際も彼女の姿はなかったと聞いている。
「乃木くん!」
名前を呼ばれ視線を転じさせると柳田が近づいてきた。真はとっさに表情を作った。
「柳田専務、お怪我はありませんか?」
「ああ、おかげさまで無事だよ。美玲も怪我がないようだし。一時はどうなるかと思ったけど、ほんとに良かった」
「申し訳ありませんでした」
「大丈夫大丈夫。こうしてみんな無事だし、確かにハラハラしたけど非日常的というか、今まで経験したことのないスリルを味わった感じで少し気持ちが高ぶってしまったよ。こんなことを言ったら不謹慎かもしれないけど」
恥ずかしそうに言う柳田に笑いそうになる。確かに彼の人生にはこんな経験をする機会も、その必要もなかっただろう。
とはいえ、直前まであんなに参加を渋っていたのに、この変わりようはなんだ。あまりに現実離れした体験をしたせいで気分が高揚しているのかもしれない。
「そういえば弟くんは一緒じゃないのか? 美玲を必死に守ろうとしてくれたと聞いたよ。ぜひお礼を言いたいんたが」
柳田が周囲を見回す。
真もそれが気になっていた。繭は戻って来ているのに、凛太朗とレイの姿が見当たらない。
「私も探しているんですが……」
無線は未だ通じず、電話も使えないままだ。ジーノが部下と共に状況確認も兼ねて見回りに行っているが、誰も戻って来ないところを見るとまだ進展はないのだろう。
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