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選べない手を伸ばしたまま
#09
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拘束された真とユーリはテロリストグループの居るモニタールームへ連行された。
薄暗い部屋を照らすモニターには事前に準備した偽の映像が映し出されている。
思わず失笑すると見張りの一人に気づかれた。慌てて顔を背けるも遅く、真は胸倉を掴まれた。
「何がおかしい?」
「何も」
返答が気に食わなかったのか顔を張られた。分厚い手のひらで打たれたのは先程ジャックに殴られたのと同じ場所で、痛みと熱がじわじわと広がるのを感じる。
「自分の立場がわかってないらしいな」
立て続けに蹴り上げられ、衝撃と痛みに呻く。
部屋にひしめく男たちは歓声を上げ、勝利の愉悦に浸っている。耳障りだ。男の蹴りの威力が思いのほか大きく、痛む体に腹が立つ。ジャックに目配せし、タイミングを見て腕の拘束を解く。
仲間を扇動し、声を張り上げる男は完全に真から注意を逸らしている。
近くに居るのはこの男を除いて二人、一人は真へ、もう一人はユーリへ銃を突き付けている。
手始めに真は背後の男の銃を掴んだ。捻るように手首を回して指の骨を折る。痛みにわめく男から銃を奪い、ユーリの後ろの男の頭を撃ち抜く。
もう一人、先ほど真が殴られた男へ銃口を向ける。
「なっ……」
男が言葉を発する前に引き金を引く。一瞬の沈黙の後、怒号が飛び交う室内で、モニターの側に居た若い男が動くのが見えた。銃に伸ばされた腕に向けて発砲する。
撃たれた腕を押さえ、呆然とこちらを見つめる男に向けて命じる。
「動くな」
凍り付いたように動きを止めたのはその男だけではなかった。
「な、なぜ……」
困惑するテロリストグループの一人一人に、BR社の銃口が向いている。
「貴様、我々を裏切ったのか!」
「その言い方は心外だな。俺たちにだって雇い主を選ぶ権利はある」
「ふざけるな!」
非難を受けたジャックは思いもよらない指摘だとばかりに肩をすくめる。
「ひどい言われようだ。そう思いませんか? ドン・フィオーレ」
真はジャックを睨みつつ、自力で拘束を解いたユーリが立ち上がるのに手を貸した。
縛られていた手首をさすりながら、ユーリは部屋を見渡した。銃口を向けられ呆然とする男たちを眺め、穏やかに口を開く。
「随分と、念入りに準備したようですね」
静かで、落ち着いた声だった。それでもこの部屋の中で、彼の言葉を聞き逃す者は居ないだろう。
「あらかじめあなた達と契約を結んだBR社をパーティーの警備に潜り込ませ、そのためにテロまで起こして無関係な人々を大勢殺した。そんなに俺が憎いですか?」
「わかり切ったことを言うな! お前らのせいでどれだけの同胞が苦しんだと思っている!」
「そのためなら無関係な市民を犠牲にしてもいいと? おかしな理屈ですね。そこまでして追い求める理想があるんですか?」
「貴様が理想を語るな! 我々の苦しみも憎しみも塵ほども理解しない貴様が!」
ユーリは変わらず微笑んでいる。しかしその表情が、静かに温度を失っていくのがわかる。
「人の言葉が通じないことは理解しています。だから我々もこういう策に出た」
再度室内に視線を巡らせたユーリは、手近な椅子に腰を下ろし、美しいスーツに包まれた脚を組んだ。
「意味のないお喋りは終わりにしましょう。全員、跪きなさい」
薄暗い部屋を照らすモニターには事前に準備した偽の映像が映し出されている。
思わず失笑すると見張りの一人に気づかれた。慌てて顔を背けるも遅く、真は胸倉を掴まれた。
「何がおかしい?」
「何も」
返答が気に食わなかったのか顔を張られた。分厚い手のひらで打たれたのは先程ジャックに殴られたのと同じ場所で、痛みと熱がじわじわと広がるのを感じる。
「自分の立場がわかってないらしいな」
立て続けに蹴り上げられ、衝撃と痛みに呻く。
部屋にひしめく男たちは歓声を上げ、勝利の愉悦に浸っている。耳障りだ。男の蹴りの威力が思いのほか大きく、痛む体に腹が立つ。ジャックに目配せし、タイミングを見て腕の拘束を解く。
仲間を扇動し、声を張り上げる男は完全に真から注意を逸らしている。
近くに居るのはこの男を除いて二人、一人は真へ、もう一人はユーリへ銃を突き付けている。
手始めに真は背後の男の銃を掴んだ。捻るように手首を回して指の骨を折る。痛みにわめく男から銃を奪い、ユーリの後ろの男の頭を撃ち抜く。
もう一人、先ほど真が殴られた男へ銃口を向ける。
「なっ……」
男が言葉を発する前に引き金を引く。一瞬の沈黙の後、怒号が飛び交う室内で、モニターの側に居た若い男が動くのが見えた。銃に伸ばされた腕に向けて発砲する。
撃たれた腕を押さえ、呆然とこちらを見つめる男に向けて命じる。
「動くな」
凍り付いたように動きを止めたのはその男だけではなかった。
「な、なぜ……」
困惑するテロリストグループの一人一人に、BR社の銃口が向いている。
「貴様、我々を裏切ったのか!」
「その言い方は心外だな。俺たちにだって雇い主を選ぶ権利はある」
「ふざけるな!」
非難を受けたジャックは思いもよらない指摘だとばかりに肩をすくめる。
「ひどい言われようだ。そう思いませんか? ドン・フィオーレ」
真はジャックを睨みつつ、自力で拘束を解いたユーリが立ち上がるのに手を貸した。
縛られていた手首をさすりながら、ユーリは部屋を見渡した。銃口を向けられ呆然とする男たちを眺め、穏やかに口を開く。
「随分と、念入りに準備したようですね」
静かで、落ち着いた声だった。それでもこの部屋の中で、彼の言葉を聞き逃す者は居ないだろう。
「あらかじめあなた達と契約を結んだBR社をパーティーの警備に潜り込ませ、そのためにテロまで起こして無関係な人々を大勢殺した。そんなに俺が憎いですか?」
「わかり切ったことを言うな! お前らのせいでどれだけの同胞が苦しんだと思っている!」
「そのためなら無関係な市民を犠牲にしてもいいと? おかしな理屈ですね。そこまでして追い求める理想があるんですか?」
「貴様が理想を語るな! 我々の苦しみも憎しみも塵ほども理解しない貴様が!」
ユーリは変わらず微笑んでいる。しかしその表情が、静かに温度を失っていくのがわかる。
「人の言葉が通じないことは理解しています。だから我々もこういう策に出た」
再度室内に視線を巡らせたユーリは、手近な椅子に腰を下ろし、美しいスーツに包まれた脚を組んだ。
「意味のないお喋りは終わりにしましょう。全員、跪きなさい」
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