ねむれない蛇

佐々

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選べない手を伸ばしたまま

#06

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 作業を終えたノートパソコンを閉じると電話が鳴った。
 薄暗いホテルの電気室の床に座り込んだまま、カイは片耳のイヤホンを操作して応答した。
「無事に終わった。後はよろしく」
 彼女は簡潔に伝えると、カイが返事をするより先に通話を切った。
 カイは荷物を纏めて立ち上がり、端末を操作して建物の照明を落とした。
 ライトを頼りに外に出る。パーティー会場の方から悲鳴や銃声が聞こえてくる。
 フィオーレは今、テロリストとそれに与するBR社の襲撃を受けている。
 カイの仕事は彼女の合図で照明を落とすことと、彼らの使う無線の妨害だった。
 叫び声と銃声、ガラスの割れる音などを聞きながら、カイは事前に確認した安全な通路を進む。
 こちらが圧倒的に有利であることは間違いないのに、喧騒が聞こえるたび嫌な汗が流れる。
 念のため右手に持った銃も、もしもフィオーレに見つかったらなんの役にも立たないだろう。
 遠回りをしてたどり着いた部屋の扉を叩く。
 すぐに返事があり、短く応えると扉が空いた。
 目の前に立っていたのは武装したBR社の人間だ。小銃を向けられ、カイは両手を上げた。別の男に銃を取り上げられ、更に体中を調べられる。
「勘弁してよ。丸腰で連中とやり合えって?」
 男は壁に設置された監視カメラの映像を映すモニターを一瞥し、必要ないだろと笑った。
 照明意外の電気は生きているため、暗視モードに切り替わったカメラは会場の様子を克明に映し出していた。
 ガラスは割れ、飾られた花が散り、客や給仕が倒れている。さすがの真もこれだけの数には対抗できなかったのか、ユーリと共に床に押さえつけられている。
「口ほどにもない」
 武器を取られ拘束されるユーリ達を嘲るように男が言った。同様の映像を見て、勝利を確信した仲間たちが歓声を上げる。
 浮ついた空気の中で一人、カイは彼女のことを考えた。当初の計画から変更がなければ、彼女はどこかに身を隠しているはずだ。この作戦が問題なく進行すれば、彼女の役目は既に終わっている。
 フィオーレの連携を崩すために行った電波妨害はカイ達の通信も妨げている。こちらの目的はフィオーレの動きを封じることだったため、作戦上は通信が遮断されても特に問題ないと考えられていた。
 事実、彼らはフィオーレを制圧した。程なくしてこの部屋に連行されるユーリや真も彼らに処刑されるだろう。
 段取り通り、命じられたことはやった。モニターを見ても、この部屋に居る者たちの様子からも、フィオーレの敗北は明らかだ。
 それなのに、胸騒ぎがするのはなぜだろう。
 視界の端で、後ろ手に拘束された真の唇が、わずかに笑みを浮かべたように見えた。
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