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すごく短い話をまとめました。いつかちゃんと書きたいです。
#繁忙期 カイと真とジーノと凛太朗
「来週のターゲットはこちら!」
ジーノがアクリル板に貼られた写真を叩く。いつになく意気揚々としている彼を不思議には思わない。ここ数日の徹夜がたたりきっとおかしくなっている。それはジーノだけでなくこの部屋でカイ除いた全員に言えることだ。
「なんとチェレスティーノ家御令嬢! とそのご学友!」
「ターゲット?」
「消す対象ってこと?」
崩れた体勢のまま、辛うじて席についた凛太朗と真が言う。
「依頼主を消す奴があるか! 護衛対象に決まってんだろ!」
「紛らわしい言い方すんなよ」
「御令嬢いくつ? 学生?」
貼られた写真が最近のものだとしたらまだ子供に見える。
「喜べ諸君、現役のハイスクール生だ! はい拍手!」
室内に沈黙が落ちる。テーブルに脚を投げ出した真が煙草に火をつける。
「なんだお前ら嬉しくないのか? ハイスクール生の護衛だぞ? もっと喜べよ!」
「俺忙しいからパス。リン、お前に任せた」
「俺だってスケジュール空いてねーよ」
「そっち手伝うからお前この件処理しろよ」
「なら俺も手伝うから兄さんがやればいいだろ!」
醜い押し付け合いに切れたジーノがテーブルを叩く。
「お前らいい加減にしろ! どっちでもいいから大人しく引き受けろよ!」
「嫌だ」
「俺だって嫌だ!」
「なんでだよ! 若い女とか得意分野だろ!」
ジーノは相当疲弊しているのかよくわからない主張をしている。大変だなと見守ることしか出来ないカイは自分の無力さをもどかしく感じたりすることは特になかった。
「若いってかただのガキだろ高校生とか!」
「そうだなクソガキだな。ネットの記事とか鵜呑みにして自分の頭で考えられないくせに声だけはでかい世間知らずの馬鹿ガキだろ。地獄だな」
「いいだろ適当に優しくしてやりゃイケメンーとかキャーキャー言われて終わるんだから!」
「それが面倒なんだよな……」
なんとも腹立たしい発言をして凛太朗が額を押さえる。目の下には隈が出来、いつにも増して目つきが鋭い。
会議室に三人の大きなため息が重なる。
「とりあえず飲み行かね?」
真の提案にカイは耳を疑った。
「賛成」
驚くべきことに凛太朗も同意する。
「飲みながら考えるか」
この部屋で唯一まともだと思っていたジーノまでそんなことを言い出す始末だ。
「よっしゃ行こう!」
凛太朗が立ち上がる。全然寝てなくて顔色最悪のくせに、今抱えている仕事も終わっていない上に新しい仕事を振られてスケジュールの過密さが増したというのに、全て無視して酒を飲むことを選ぶ彼らがカイには理解できない。気乗りしない仕事を先延ばしにするにしても、カイだったら少なくとも休息を優先するだろう。それをこの大人たちは酒を飲むなどと、まともじゃない。そもそもまともな状態じゃないからそんなことを考えるのかもしれないが。
呆然とするカイをよそに三人はさっさと部屋を出ていく。
「カイ!」
真に呼ばれ、カイは慌てて彼らの後を追った。
「俺も飲んでいいんすか?」
「お前が飲んだら誰が運転して帰るんだよ」
「いいんじゃないか? たまには。帰りは誰か迎えを頼めばいい」
「ばーか。甘やかすな。飲んで仕事さぼるなんて百年はえーんだよ」
ジーノの優しい提案は真に一蹴された。
改めて見るまでもなく、三人ともひどい顔色だ。この状態で酒なんか入れたらどうなることか。悲惨な結果になることは明白だ。
とはいえカイに彼らを手助けできるほどの力はまだない。ならば酔っぱらいの送迎くらい甘んじて受け入れよう。今のカイに出来るのはそれが精一杯だ。
#あなたの良い犬でありたい カイと真
「カイ!」
呼ばれて振り向くとガラスで区切られた会議スペースで真が手招きしながら舌を鳴らしていた。
俺は犬かよと思いながらカイは走って真の元へ向かう。
会議スペースには真の他にジーノと烏がいた。彼らが見つめる壁に貼られた大きなアクリル板には何かの図や走り書きのメモが見えるが、カイには解読出来なかった。
「お呼びですか?」
「表に車回しとけ。そろそろ出る」
「かしこまりました!」
しばらく時間が空いてしまい手持ち無沙汰だったので指示が嬉しい。
「冷房きかせときます!」
「おー」
真はもうこちらを見ていなかったがカイは軽い足取りで部屋を出た。
「犬かよ」
「犬だね」
背後からジーノと烏の声が聞こえた。確かに先ほどカイ自身もそう思ったが、よく考えてみれば真の犬になれるならそれほど幸福なことはない。
#雑談 凛太朗とカイ
「リンさん今なにしてますか?」
シャワーを浴びてスマートフォンを確認するとカイからメッセージが届いていた。
「走ってた」
簡潔に返答してソファに座り、濡れた頭をタオルでふくとまたしてもスマートフォンが振動した。
「俺はねー暇してます」
返信が速い。面倒に思いながらも画面に指を滑らせる。
「仕事は?」
「今シンさん待ってて」
「俺はただの運転手なんで」
「何それ」
「兄さんと一緒に仕事してます自慢?」
「いや自慢できるほどしてないですよ。車で待ってるだけなんで」
「てか暇だから美容院のカタログ見てるんすけど」
「仕事しろよ」
「どれが似合うと思います?」
「興味ない」
そう伝えたにも関わらずカイは次々と写真を送ってくる。
うるせーなブロックしてやろうかと思いながら凛太朗はとりあえず写真を眺めた。
「全部駄目だろ」
「まず顔が違う」
「顔はいいんですよ!」
「髪型!」
「てか3枚目俺じゃねーか!」
「なに勝手に保存してんだ!」
「イケメンはフリー素材でしょ?」
「ぶっ殺すぞ」
「リンさんこれ何色ですか?」
「?」
「髪の色」
尋ねられ、気が進まないが自分の写真を確認する。
「覚えてないけど」
「たぶん灰色」
「今は染めてないんすか?」
「うん」
「地毛が一番似合うから」
「あーたしかに」
「明るい髪色似合わなさそうですよね」
「お前と違ってな」
「棘あるーw」
そろそろやり取りが面倒になってきたためスマートフォンを放置して煙草に火をつける。
「俺の髪型考えてくれました?」
「ねーねー」
「無視?」
「あれ?」
「既読だよ?」
「おーい」
開かれたままのトーク画面に流れるメッセージをことごとく無視しているとついに電話がかかってきた。
「なんだよ!」
「あ、ほらやっぱ見てるんじゃないすかー無視しないでくださいよ」
「仕事しろよ」
「だから待ち時間で暇なんすよ」
「他にやることあんだろ」
「ないんだなーこれが。シンさんいつ戻るかわかんないし」
「それで給料もらえんの?」
「なんと時給千円」
「日本円で?」
「うん」
「最低賃金割ってるじゃん」
「ヨーロッパ物価高いからアストリアの最低賃金も割ってます」
「うける」
「でも怪しい街多いから全然困んないの。中華街とか三百円で腹一杯」
「ちょうどいいじゃん」
「良くないよもー治安悪いし家はぼろいしシャワー水っすからね?」
「今は兄貴んち住んでるくせに?」
「……まぁ、そうなんすけど」
「何その間。ぶん殴りてー」
「そろそろ俺の髪型決めてくださいよー」
「話逸らすなってかその話まだ生きてたんだ」
「いやいや勝手に殺さないでくださいよ」
#繁忙期 カイと真とジーノと凛太朗
「来週のターゲットはこちら!」
ジーノがアクリル板に貼られた写真を叩く。いつになく意気揚々としている彼を不思議には思わない。ここ数日の徹夜がたたりきっとおかしくなっている。それはジーノだけでなくこの部屋でカイ除いた全員に言えることだ。
「なんとチェレスティーノ家御令嬢! とそのご学友!」
「ターゲット?」
「消す対象ってこと?」
崩れた体勢のまま、辛うじて席についた凛太朗と真が言う。
「依頼主を消す奴があるか! 護衛対象に決まってんだろ!」
「紛らわしい言い方すんなよ」
「御令嬢いくつ? 学生?」
貼られた写真が最近のものだとしたらまだ子供に見える。
「喜べ諸君、現役のハイスクール生だ! はい拍手!」
室内に沈黙が落ちる。テーブルに脚を投げ出した真が煙草に火をつける。
「なんだお前ら嬉しくないのか? ハイスクール生の護衛だぞ? もっと喜べよ!」
「俺忙しいからパス。リン、お前に任せた」
「俺だってスケジュール空いてねーよ」
「そっち手伝うからお前この件処理しろよ」
「なら俺も手伝うから兄さんがやればいいだろ!」
醜い押し付け合いに切れたジーノがテーブルを叩く。
「お前らいい加減にしろ! どっちでもいいから大人しく引き受けろよ!」
「嫌だ」
「俺だって嫌だ!」
「なんでだよ! 若い女とか得意分野だろ!」
ジーノは相当疲弊しているのかよくわからない主張をしている。大変だなと見守ることしか出来ないカイは自分の無力さをもどかしく感じたりすることは特になかった。
「若いってかただのガキだろ高校生とか!」
「そうだなクソガキだな。ネットの記事とか鵜呑みにして自分の頭で考えられないくせに声だけはでかい世間知らずの馬鹿ガキだろ。地獄だな」
「いいだろ適当に優しくしてやりゃイケメンーとかキャーキャー言われて終わるんだから!」
「それが面倒なんだよな……」
なんとも腹立たしい発言をして凛太朗が額を押さえる。目の下には隈が出来、いつにも増して目つきが鋭い。
会議室に三人の大きなため息が重なる。
「とりあえず飲み行かね?」
真の提案にカイは耳を疑った。
「賛成」
驚くべきことに凛太朗も同意する。
「飲みながら考えるか」
この部屋で唯一まともだと思っていたジーノまでそんなことを言い出す始末だ。
「よっしゃ行こう!」
凛太朗が立ち上がる。全然寝てなくて顔色最悪のくせに、今抱えている仕事も終わっていない上に新しい仕事を振られてスケジュールの過密さが増したというのに、全て無視して酒を飲むことを選ぶ彼らがカイには理解できない。気乗りしない仕事を先延ばしにするにしても、カイだったら少なくとも休息を優先するだろう。それをこの大人たちは酒を飲むなどと、まともじゃない。そもそもまともな状態じゃないからそんなことを考えるのかもしれないが。
呆然とするカイをよそに三人はさっさと部屋を出ていく。
「カイ!」
真に呼ばれ、カイは慌てて彼らの後を追った。
「俺も飲んでいいんすか?」
「お前が飲んだら誰が運転して帰るんだよ」
「いいんじゃないか? たまには。帰りは誰か迎えを頼めばいい」
「ばーか。甘やかすな。飲んで仕事さぼるなんて百年はえーんだよ」
ジーノの優しい提案は真に一蹴された。
改めて見るまでもなく、三人ともひどい顔色だ。この状態で酒なんか入れたらどうなることか。悲惨な結果になることは明白だ。
とはいえカイに彼らを手助けできるほどの力はまだない。ならば酔っぱらいの送迎くらい甘んじて受け入れよう。今のカイに出来るのはそれが精一杯だ。
#あなたの良い犬でありたい カイと真
「カイ!」
呼ばれて振り向くとガラスで区切られた会議スペースで真が手招きしながら舌を鳴らしていた。
俺は犬かよと思いながらカイは走って真の元へ向かう。
会議スペースには真の他にジーノと烏がいた。彼らが見つめる壁に貼られた大きなアクリル板には何かの図や走り書きのメモが見えるが、カイには解読出来なかった。
「お呼びですか?」
「表に車回しとけ。そろそろ出る」
「かしこまりました!」
しばらく時間が空いてしまい手持ち無沙汰だったので指示が嬉しい。
「冷房きかせときます!」
「おー」
真はもうこちらを見ていなかったがカイは軽い足取りで部屋を出た。
「犬かよ」
「犬だね」
背後からジーノと烏の声が聞こえた。確かに先ほどカイ自身もそう思ったが、よく考えてみれば真の犬になれるならそれほど幸福なことはない。
#雑談 凛太朗とカイ
「リンさん今なにしてますか?」
シャワーを浴びてスマートフォンを確認するとカイからメッセージが届いていた。
「走ってた」
簡潔に返答してソファに座り、濡れた頭をタオルでふくとまたしてもスマートフォンが振動した。
「俺はねー暇してます」
返信が速い。面倒に思いながらも画面に指を滑らせる。
「仕事は?」
「今シンさん待ってて」
「俺はただの運転手なんで」
「何それ」
「兄さんと一緒に仕事してます自慢?」
「いや自慢できるほどしてないですよ。車で待ってるだけなんで」
「てか暇だから美容院のカタログ見てるんすけど」
「仕事しろよ」
「どれが似合うと思います?」
「興味ない」
そう伝えたにも関わらずカイは次々と写真を送ってくる。
うるせーなブロックしてやろうかと思いながら凛太朗はとりあえず写真を眺めた。
「全部駄目だろ」
「まず顔が違う」
「顔はいいんですよ!」
「髪型!」
「てか3枚目俺じゃねーか!」
「なに勝手に保存してんだ!」
「イケメンはフリー素材でしょ?」
「ぶっ殺すぞ」
「リンさんこれ何色ですか?」
「?」
「髪の色」
尋ねられ、気が進まないが自分の写真を確認する。
「覚えてないけど」
「たぶん灰色」
「今は染めてないんすか?」
「うん」
「地毛が一番似合うから」
「あーたしかに」
「明るい髪色似合わなさそうですよね」
「お前と違ってな」
「棘あるーw」
そろそろやり取りが面倒になってきたためスマートフォンを放置して煙草に火をつける。
「俺の髪型考えてくれました?」
「ねーねー」
「無視?」
「あれ?」
「既読だよ?」
「おーい」
開かれたままのトーク画面に流れるメッセージをことごとく無視しているとついに電話がかかってきた。
「なんだよ!」
「あ、ほらやっぱ見てるんじゃないすかー無視しないでくださいよ」
「仕事しろよ」
「だから待ち時間で暇なんすよ」
「他にやることあんだろ」
「ないんだなーこれが。シンさんいつ戻るかわかんないし」
「それで給料もらえんの?」
「なんと時給千円」
「日本円で?」
「うん」
「最低賃金割ってるじゃん」
「ヨーロッパ物価高いからアストリアの最低賃金も割ってます」
「うける」
「でも怪しい街多いから全然困んないの。中華街とか三百円で腹一杯」
「ちょうどいいじゃん」
「良くないよもー治安悪いし家はぼろいしシャワー水っすからね?」
「今は兄貴んち住んでるくせに?」
「……まぁ、そうなんすけど」
「何その間。ぶん殴りてー」
「そろそろ俺の髪型決めてくださいよー」
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