ねむれない蛇

佐々

文字の大きさ
上 下
165 / 172
あの季節

#04

しおりを挟む
「でねー凛太朗が助けてくれてねーめっちゃかっこ良かったんだよ!」
「その話何回目だよ酔っ払い」
「真はその場に居なかったから教えてあげようと思って!」
「はいはい」
 楓の後ろにある大きな窓から見える夜景が美しい。
 真が予約してくれたのは雰囲気のあるダイニングバーで、クリスマスということもあり店内は混雑していたが、個室ではそれも気にならない。温かい料理の並んだテーブルに肘をつき、凛太朗は義理の姉と兄の平和なやり取りを眺めていた。
「あーお酒が美味しい。すみませーん! おかわりくださーい!」
「ボタン押せよ恥ずかしい!」
 真が楓のかわりに店員を呼ぶ。
「リンも何か飲むか?」
「うん。メニュー取って」
「お酒はだめだよー」
 楓がにこにこしながら言う。酔っ払った楓はとても可愛い。アイシャドウできらきらした目元で見つめられるとどうしていいかわからなくなる。
「ノンアルのサングリアにしよ」
「それもうサングリアじゃないだろ」
「真はお酒いいの?」
「俺が飲んだら誰が運転して帰るんだよ」
「たしかにー」
「おい、この酔っ払いどうにかしろよ」
 真が助けを求めてくる。今日の彼はいつになく饒舌で、表情も柔らかい。そんな彼に愛おしさが込み上げてくる。
「兄さん可愛い。好き」
 隣に座る真に身を寄せ、抱きつくと良いにおいがした。
「なんだなんだ、お前は酒飲んでないだろ」
「凛太朗が甘えてる! 可愛い」
 楓が嬉々としてスマートフォンのカメラを構える。
「おい!」
「リンこっち向いてー」
「撮ってないで助けろ! リン、お前も離れなさい!」
「兄さん大好き!」
「わかった! わかったから!」
「いいなー真。私も凛太朗にぎゅってされたい」
 楓の言葉で凛太朗は彼女に抱きついているところを想像してしまい、顔が熱くなるのを感じた。
「したいなら楓にすればいいだろ?」
 楓がトイレに立ったタイミングで囁かれ、凛太朗は耳を押さえて顔を上げた。
「できるわけないじゃん……」
「だからって俺を代わりにするなよ」
「兄さんを好きなのも本当だよ?」
「はいはい」
 雑に頭をなでられる。ちょうど店員が来たので楓の分と一緒に注文を済ませた。


 楓がトイレから戻ってきたところで凛太朗は二人にプレゼントを渡した。
「はい、これは姉さん」
「ありがとう! 開けていい?」
「うん。兄さんはこっちね」
「ああ、ありがとう……」
 真が戸惑った様子で小さな紙袋を受け取る。そういえば凛太朗から真にちゃんとしたプレゼントをするのは初めてかもしれない。誕生日やクリスマスは何かしらのお祝いをしてきたが、欲しい物をきいても特にないとはぐらかされてしまうので、プレゼントはいつも家族や楓が選んでくれていた。今年のクリスマスは今日の夕食をご馳走しようと思っていたのたが、それも真によって阻止されてしまったため、凛太朗は初めて自分で真へのプレゼントを選んだ。
「あ、可愛い! ボールペンだ!」
 最初に箱を開けたのは楓だった。華奢なデザインの白いボールペンを色々な角度から眺めている。
「ちょうど欲しいと思ってたんだー」
「営業のくせに安物使ってるからな」
「うるさいなぁ。もうこれで大丈夫! 成績伸びそうだよ。凛太朗ありがとね」
「どういたしまして。兄さんも開けてみて」
 真がそっと紙袋を開ける。
「手袋だ」
「きれいな色」
「サイズもぴったり……」
「似合ってるね」
「うん」
「ありがとう……」
「真ちょっと耳赤くない? てか泣いてない?」
「泣いてねーよ!」
「赤いのは認めるんだ」
「兄さん可愛いなぁ」
「リンは良い弟だね。優しい子で私はほんとに嬉しいよ」
「母親かよ」
 冷静に指摘しながらも真は穏やかな瞳で凛太朗の贈った手袋を見つめている。凛太朗はまだ子供だし、幸せの定義なんてよくわからないが、今のこの感情はそう表現するのにぴったりな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...