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たとえ全てが嘘であっても
#08
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ずっと遊んでいたわけじゃない。ジュリオが用意してくれた食事をとった後は、ちゃんと仕事の話をした。
「いいか? もう一度説明するぞ。最悪の事態はパーティーの参加者に被害を出すことだ」
「うん」
「だから俺たちはなんとしてでも客を守らなきゃいけない。ここまではいいな?」
凛太朗が頷く。
「けど相手はプロなんだろ? そう簡単にいくかな」
「簡単にはいかないさ」
ジーノは煙草に火をつけた。
「さっき説明した通り、アインツの雇ったBR社は味方じゃない。テロリストの仲間だ。だから俺たちが圧倒的に不利な状況であることに変わりはない」
「そんな状況でどうやって客を守るわけ?」
「そのための地下シェルターだ。騒ぎが起きたら客は全員シェルターに避難させる。経路はいくつかあるから、全部頭に入れておけよ」
ジーノは凛太朗のスマートフォンに見取り図を送信した。
「騒ぎが起きたらみんな混乱する。そんな状況で冷静に避難できるかな」
「それをさせるのが俺たちの仕事だ。ま、お前はレイと一緒だから心配するな。あいつにくっついてれば安心だろ」
「ジーノ、それで俺が合格できると思う?」
凛太朗の顔を見て、ジーノは失言に気づいた。
「あー……」
どうしよう。ユーリの命令で、凛太朗は作戦に参加しないことになっている。しかし当の本人はやる気に満ち溢れている。
「そうだな、もう一度経路を確認しよう。できれば現地で下見もしたほうがいいな。本番までに手配しておくよ」
頷いた凛太朗はもう手元の資料に視線を戻している。罪悪感をごまかすように、ジーノは時間の許す限り、出来るだけのことを教えてやろうと思った。
「なんでBR社がテロに加担してることをアインツに言わないわけ? 全部話して別の会社を使うなり、パーティーそのものを中止にするなりすればいいじゃん」
凛太朗がきいた。流れでBR社のことを話したらこの通りだ。
「まあ、それはもっともな意見なんだが、色々大人の事情でね。今更パーティーの中止はありえない。あのホテルの完成には色んなものがかかってる。金も時間も、政府からの期待もな。俺たちはアインツから仕事をもらってる身だ。依頼人がやると言ったらやるしかない。この国の政府もそれを望んでる」
「それで参加者に被害を出すななんてよく言えるね」
「そんなもんだろ、企業や国なんて。そういう無茶な要求に応えるために、俺たちはいるわけだしな」
「アインツに話さない理由は? パーティーを中止にしないまでも、BR社を使い続ける理由はないだろ」
「敵を出し抜くためにはこちらが連中の正体に気づいてることを悟られないほうがいいんだよ。今日ユーリにも、アインツとの打ち合わせでとりあえず連中の要求は全部呑むように言われたしな」
「あの時の電話か……」
凛太朗には思い当たる節があるようだ。
「そういやお前あいつと飯行ったんだっけ」
ユーリが電話をかけてきたのはちょうどその頃だったのだろう。
「なんで知ってるの?」
「ユーリが写真上げてたぞ。あいつはしゃぎ過ぎだろ」
ユーリのSNSに投稿された写真を見せる。
「ボスって童顔で可愛いよね」
「いやお前止めろよ。コメント欄めっちゃ荒れてんじゃねーか」
「うわ、みんなボスのこと好きすぎ。うける」
フィオーレには真の他にもユーリを崇拝する者が多い。コメント欄には当然のように嫉妬の声があふれていた。
「その後またユーリに電話してきいたんだが、あいつは始めから全部承知の上だったよ」
スマートフォンを置いて話を戻す。
「全部って?」
「ドロップで子供を買ってたのがアインツの人間で、その商売に上海マフィアが絡んでるのも、そいつらが俺たちを陥れるためにテロリストを使ってパーティーの襲撃を目論んでいるのも、警備強化のために起用された軍事会社が、弱みを握られたアインツの人間が半ば脅されて紹介させられた会社だってことも、全てわかった上で、その計画に乗ってやることにしたんだ」
「それがわかったところでなんだって言うんだよ。状況が良くないのは変わらないんだろ? だいたい、そのアインツの男が敵に脅されてるならこっちの動きは全部筒抜けじゃん。さっき言ってたシェルターの情報も漏れてないとは言い切れないんじゃない?」
「まぁ、それがばれたところで問題はない。避難させる人間は大して多くないし……」
途中で言葉を切る。喋りすぎた。
「どういうこと?」
案の定、凛太朗が不思議そうな瞳を向けてくる。
「あー……いや、警備には十分な人間を回すから、分担すればそれぞれの負担は少ないって意味だよ。お前とレイだって、担当するのは柳田の姪だけだろ?」
「まぁ、確かに」
凛太朗はそれ以上突っ込んではこなかった。危ない。ユーリとの約束をいきなり破るところだった。
「俺たちは騙されたふりをしてやってるんだ。何も知らないアインツはPMCの起用で警備体制は万全だと思ってるし、PMC側も、俺たちが奴らを信用していないことには気づいていない」
凛太朗はまだ状況が飲み込めていないようだ。
「敵を欺くにはまず味方からって言うだろ? とにかく、お前は自分の仕事に集中しろ。柳田の姪の安全はお前にかかってるんだからな」
「いいか? もう一度説明するぞ。最悪の事態はパーティーの参加者に被害を出すことだ」
「うん」
「だから俺たちはなんとしてでも客を守らなきゃいけない。ここまではいいな?」
凛太朗が頷く。
「けど相手はプロなんだろ? そう簡単にいくかな」
「簡単にはいかないさ」
ジーノは煙草に火をつけた。
「さっき説明した通り、アインツの雇ったBR社は味方じゃない。テロリストの仲間だ。だから俺たちが圧倒的に不利な状況であることに変わりはない」
「そんな状況でどうやって客を守るわけ?」
「そのための地下シェルターだ。騒ぎが起きたら客は全員シェルターに避難させる。経路はいくつかあるから、全部頭に入れておけよ」
ジーノは凛太朗のスマートフォンに見取り図を送信した。
「騒ぎが起きたらみんな混乱する。そんな状況で冷静に避難できるかな」
「それをさせるのが俺たちの仕事だ。ま、お前はレイと一緒だから心配するな。あいつにくっついてれば安心だろ」
「ジーノ、それで俺が合格できると思う?」
凛太朗の顔を見て、ジーノは失言に気づいた。
「あー……」
どうしよう。ユーリの命令で、凛太朗は作戦に参加しないことになっている。しかし当の本人はやる気に満ち溢れている。
「そうだな、もう一度経路を確認しよう。できれば現地で下見もしたほうがいいな。本番までに手配しておくよ」
頷いた凛太朗はもう手元の資料に視線を戻している。罪悪感をごまかすように、ジーノは時間の許す限り、出来るだけのことを教えてやろうと思った。
「なんでBR社がテロに加担してることをアインツに言わないわけ? 全部話して別の会社を使うなり、パーティーそのものを中止にするなりすればいいじゃん」
凛太朗がきいた。流れでBR社のことを話したらこの通りだ。
「まあ、それはもっともな意見なんだが、色々大人の事情でね。今更パーティーの中止はありえない。あのホテルの完成には色んなものがかかってる。金も時間も、政府からの期待もな。俺たちはアインツから仕事をもらってる身だ。依頼人がやると言ったらやるしかない。この国の政府もそれを望んでる」
「それで参加者に被害を出すななんてよく言えるね」
「そんなもんだろ、企業や国なんて。そういう無茶な要求に応えるために、俺たちはいるわけだしな」
「アインツに話さない理由は? パーティーを中止にしないまでも、BR社を使い続ける理由はないだろ」
「敵を出し抜くためにはこちらが連中の正体に気づいてることを悟られないほうがいいんだよ。今日ユーリにも、アインツとの打ち合わせでとりあえず連中の要求は全部呑むように言われたしな」
「あの時の電話か……」
凛太朗には思い当たる節があるようだ。
「そういやお前あいつと飯行ったんだっけ」
ユーリが電話をかけてきたのはちょうどその頃だったのだろう。
「なんで知ってるの?」
「ユーリが写真上げてたぞ。あいつはしゃぎ過ぎだろ」
ユーリのSNSに投稿された写真を見せる。
「ボスって童顔で可愛いよね」
「いやお前止めろよ。コメント欄めっちゃ荒れてんじゃねーか」
「うわ、みんなボスのこと好きすぎ。うける」
フィオーレには真の他にもユーリを崇拝する者が多い。コメント欄には当然のように嫉妬の声があふれていた。
「その後またユーリに電話してきいたんだが、あいつは始めから全部承知の上だったよ」
スマートフォンを置いて話を戻す。
「全部って?」
「ドロップで子供を買ってたのがアインツの人間で、その商売に上海マフィアが絡んでるのも、そいつらが俺たちを陥れるためにテロリストを使ってパーティーの襲撃を目論んでいるのも、警備強化のために起用された軍事会社が、弱みを握られたアインツの人間が半ば脅されて紹介させられた会社だってことも、全てわかった上で、その計画に乗ってやることにしたんだ」
「それがわかったところでなんだって言うんだよ。状況が良くないのは変わらないんだろ? だいたい、そのアインツの男が敵に脅されてるならこっちの動きは全部筒抜けじゃん。さっき言ってたシェルターの情報も漏れてないとは言い切れないんじゃない?」
「まぁ、それがばれたところで問題はない。避難させる人間は大して多くないし……」
途中で言葉を切る。喋りすぎた。
「どういうこと?」
案の定、凛太朗が不思議そうな瞳を向けてくる。
「あー……いや、警備には十分な人間を回すから、分担すればそれぞれの負担は少ないって意味だよ。お前とレイだって、担当するのは柳田の姪だけだろ?」
「まぁ、確かに」
凛太朗はそれ以上突っ込んではこなかった。危ない。ユーリとの約束をいきなり破るところだった。
「俺たちは騙されたふりをしてやってるんだ。何も知らないアインツはPMCの起用で警備体制は万全だと思ってるし、PMC側も、俺たちが奴らを信用していないことには気づいていない」
凛太朗はまだ状況が飲み込めていないようだ。
「敵を欺くにはまず味方からって言うだろ? とにかく、お前は自分の仕事に集中しろ。柳田の姪の安全はお前にかかってるんだからな」
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