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短編
シトラスブルーフィクション
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やっぱり情緒不安定な凛太朗と真の話です。真×凛太朗に加えてモブ男女との性描写を含みますのでご注意ください。
両親と姉が立て続けに死んで、それでも俺の日常はあまり変わらなかった。
両親の事故はともかく、姉の件は、普通なら大騒ぎになるような事件だ。でも、彼女の死は事故として処理された。報道もされなければ俺がその場に居たことすら、誰も知らないようだった。
兄の真が手を回したのは明白だ。真か、彼と一緒に居た、俺の知らない男たちが、俺の想像も及ばないような力を使って事実をねじ曲げたのだろう。
両親が死に、かわりに俺を育ててくれた姉が死んでも、俺の生活はあまり変わらなかった。兄は既に就職していたし、乃木さんの残してくれたお金がかなりあったので、俺たちは煩わしい他人の手を借りずに生きることができた。親戚とは少し揉めた様子もあったが、真はかなり強気で、今後一切の援助を求めないかわりに、一切の干渉を拒否していた。彼はもともと乃木の親族とは一線を引きたがっていたようだから、いい口実になったのかもしれない。
俺は今までと同じように学校に通い、今までと同じように勉強をして、今までと同じように友達と遊んだ。でも、クラスメイトの明るさや、素直な笑顔が時折、俺をたまらない気分にさせた。こんなにも平凡で、穏やかな日常がある裏で、人はあんなに残酷に死ぬ。普通の日々を過ごしながらも、俺はあの夜から逃れられずにいた。
大学に入ると付き合う人間も一変した。そこそこの成績じゃないと入れないくらいの私立大学は、俺の通っていた高校よりも都心にあるためか、派手な遊びをする連中が多かった。大学生にありがちな、安い居酒屋で大騒ぎ、などではなく、高級ホテルで合コン、リムジンでパーティー、クラブは当然VIPルームという感じだ。
どれも楽しいとは思わなかったが、親の金で好き勝手やってる連中の、クソみたいな言動を見てるほうが、心は自然と穏やかだった。
「りーんくーん」
背後から肩を抱かれ、振り向くと中途半端に長い髪を後ろでまとめた男が笑っていた。俺は兵藤というこの男に呼ばれ、ホテルの一室で数人の男女と共に酒を飲んでいた。女の子の酔いが回り始めると乱行が始まったので、辟易して隣の部屋に避難したのだった。
「なに?」
「なにじゃないよ! 超つまんなそうじゃん? また満足できない? 今日はかなりレベル高い子そろえたんだけどなぁ」
兵藤は大学の知り合いではない。どこで繋がったのか覚えていないが、いつの間にか連絡先を交換していて、定期的に遊びに誘われた。普段付き合ってる連中の中ではこいつが一番頭がおかしい。見た目は整っていて身長も高いから女の子もたくさん寄ってくる。詳しくは知らないが、俳優だかモデルだか、そういう仕事もしてるらしい。だからこういう場に呼ばれる女の子も総じて可愛いし、頭も股も緩い。
「べつにつまんなくないよ。ちょっと休憩してるだけ」
「えー? んなこと言って、リンは全然混ざらないじゃん」
ソファに座った俺の横に腰を下ろして、兵藤が顔を寄せてくる。
「今日のはマジでやばいから、試してみなよ。あれ使った女、締まりが全然違うよ」
兵藤は時折、どこかから仕入れた怪しげな薬を女の子に飲ませていた。兵藤曰く、違法な薬じゃないし、危険もないし、無理強いもしていないということだが、俺は気乗りしなかった。
「悪いけど、趣味じゃないから」
少し前まで酒を飲んで馬鹿騒ぎしていたのに、今や部屋中でセックスが始まっている。兵藤の言うように混ざる気にもなれず、俺は立ち上がった。
「待ってよ、まさか帰る気?」
「そうだけど。人に見られてセックスする趣味はないし」
「へぇ? そういやリンがしてるとこ、一度も見たことないな」
「見る必要ないだろ」
「とか言って、見られるの嫌いじゃないだろ?」
胸倉を掴まれ、引き寄せられる。気付いたら唇を塞がれていた。舌と一緒に小さな錠剤をねじ込まれる。
「おいっ」
慌てて突き飛ばすもソファに押し倒され、その辺にあった酒を流し込まれた。どうしようもなくなって飲み込むと、喉や胃が焼けるように熱くなった。
「あーあ、大丈夫? リンお酒弱いのに」
自分で飲ませたくせに他人事のように言った兵藤が、今度は水を取り上げる。
「ほら、口開けな」
水を含んだ兵藤に再び口付けられる。熱をもった粘膜はその水の温さすら心地良くて、俺は与えられるままそれを飲んだ。
「なにを飲ませた……」
「あの子らと同じやつだよ。大丈夫。副作用も依存性もないから。ちょっとセックスが気持ち良くなるだけだって」
信用できない。度数の高いアルコールのせいか、得体の知れない薬のせいか、全身が熱くてたまらない。そして頭が割れそうなほど痛い。
「ふざけ……んなよ……」
「酒と一緒に一気はまずかったかな?」
兵藤の声が遠くに聞こえる。視界が悪い。瞼が重い。
「ほんと酒弱いなぁ。子供みたい」
馬鹿にするような口調に怒る気も起きないまま、俺は意識を手放した。
両親と姉が立て続けに死んで、それでも俺の日常はあまり変わらなかった。
両親の事故はともかく、姉の件は、普通なら大騒ぎになるような事件だ。でも、彼女の死は事故として処理された。報道もされなければ俺がその場に居たことすら、誰も知らないようだった。
兄の真が手を回したのは明白だ。真か、彼と一緒に居た、俺の知らない男たちが、俺の想像も及ばないような力を使って事実をねじ曲げたのだろう。
両親が死に、かわりに俺を育ててくれた姉が死んでも、俺の生活はあまり変わらなかった。兄は既に就職していたし、乃木さんの残してくれたお金がかなりあったので、俺たちは煩わしい他人の手を借りずに生きることができた。親戚とは少し揉めた様子もあったが、真はかなり強気で、今後一切の援助を求めないかわりに、一切の干渉を拒否していた。彼はもともと乃木の親族とは一線を引きたがっていたようだから、いい口実になったのかもしれない。
俺は今までと同じように学校に通い、今までと同じように勉強をして、今までと同じように友達と遊んだ。でも、クラスメイトの明るさや、素直な笑顔が時折、俺をたまらない気分にさせた。こんなにも平凡で、穏やかな日常がある裏で、人はあんなに残酷に死ぬ。普通の日々を過ごしながらも、俺はあの夜から逃れられずにいた。
大学に入ると付き合う人間も一変した。そこそこの成績じゃないと入れないくらいの私立大学は、俺の通っていた高校よりも都心にあるためか、派手な遊びをする連中が多かった。大学生にありがちな、安い居酒屋で大騒ぎ、などではなく、高級ホテルで合コン、リムジンでパーティー、クラブは当然VIPルームという感じだ。
どれも楽しいとは思わなかったが、親の金で好き勝手やってる連中の、クソみたいな言動を見てるほうが、心は自然と穏やかだった。
「りーんくーん」
背後から肩を抱かれ、振り向くと中途半端に長い髪を後ろでまとめた男が笑っていた。俺は兵藤というこの男に呼ばれ、ホテルの一室で数人の男女と共に酒を飲んでいた。女の子の酔いが回り始めると乱行が始まったので、辟易して隣の部屋に避難したのだった。
「なに?」
「なにじゃないよ! 超つまんなそうじゃん? また満足できない? 今日はかなりレベル高い子そろえたんだけどなぁ」
兵藤は大学の知り合いではない。どこで繋がったのか覚えていないが、いつの間にか連絡先を交換していて、定期的に遊びに誘われた。普段付き合ってる連中の中ではこいつが一番頭がおかしい。見た目は整っていて身長も高いから女の子もたくさん寄ってくる。詳しくは知らないが、俳優だかモデルだか、そういう仕事もしてるらしい。だからこういう場に呼ばれる女の子も総じて可愛いし、頭も股も緩い。
「べつにつまんなくないよ。ちょっと休憩してるだけ」
「えー? んなこと言って、リンは全然混ざらないじゃん」
ソファに座った俺の横に腰を下ろして、兵藤が顔を寄せてくる。
「今日のはマジでやばいから、試してみなよ。あれ使った女、締まりが全然違うよ」
兵藤は時折、どこかから仕入れた怪しげな薬を女の子に飲ませていた。兵藤曰く、違法な薬じゃないし、危険もないし、無理強いもしていないということだが、俺は気乗りしなかった。
「悪いけど、趣味じゃないから」
少し前まで酒を飲んで馬鹿騒ぎしていたのに、今や部屋中でセックスが始まっている。兵藤の言うように混ざる気にもなれず、俺は立ち上がった。
「待ってよ、まさか帰る気?」
「そうだけど。人に見られてセックスする趣味はないし」
「へぇ? そういやリンがしてるとこ、一度も見たことないな」
「見る必要ないだろ」
「とか言って、見られるの嫌いじゃないだろ?」
胸倉を掴まれ、引き寄せられる。気付いたら唇を塞がれていた。舌と一緒に小さな錠剤をねじ込まれる。
「おいっ」
慌てて突き飛ばすもソファに押し倒され、その辺にあった酒を流し込まれた。どうしようもなくなって飲み込むと、喉や胃が焼けるように熱くなった。
「あーあ、大丈夫? リンお酒弱いのに」
自分で飲ませたくせに他人事のように言った兵藤が、今度は水を取り上げる。
「ほら、口開けな」
水を含んだ兵藤に再び口付けられる。熱をもった粘膜はその水の温さすら心地良くて、俺は与えられるままそれを飲んだ。
「なにを飲ませた……」
「あの子らと同じやつだよ。大丈夫。副作用も依存性もないから。ちょっとセックスが気持ち良くなるだけだって」
信用できない。度数の高いアルコールのせいか、得体の知れない薬のせいか、全身が熱くてたまらない。そして頭が割れそうなほど痛い。
「ふざけ……んなよ……」
「酒と一緒に一気はまずかったかな?」
兵藤の声が遠くに聞こえる。視界が悪い。瞼が重い。
「ほんと酒弱いなぁ。子供みたい」
馬鹿にするような口調に怒る気も起きないまま、俺は意識を手放した。
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