ねむれない蛇

短編

#03＊

「ここもパンパンだ。溜まってた？　シンはオナニーとかしないの？」
　先端を舐られながら睾丸に触れられる。
「そ、んなことっ……」
「え、ほんとにしないの？」
「い、言えません……」
「上品だね、君は。汚したくなるよ」
　そんな事はない。証拠に、ユーリに触れられた性器はこれ以上ないくらい硬くなり、だらだらと粘液を溢れさせている。睾丸や尻の方まで流れたそれに触れると、ユーリは穴に指を差し入れた。
「あっ、ボス、そんなとこ、ほんとに駄目です！」
　そこは本当にユーリに触らせていい場所じゃない。いや、それを言うなら全部そうなのたが。
「いいから、じっとして」
　穏やかなのに有無を言わせぬ声でユーリは真を黙らせる。身じろぎもままならない真はユーリの指から意識を逸らそうと試みたが、折り曲げられた彼の指が弱い場所に添えられたのを感じて息を飲んだ。
「ん、ここ好きなの？　中が吸い付いてくる」
「んっ……」
　唇をひき結んで耐えていると、ユーリが指を動かした。覚えた箇所から外さず、優しくなでるような動きを繰り返す。
「あ、ぁー……っ」
　唇がわななく。先走りが漏れるのを感じる。
　真を責める指の動きは単調なのに、意外に長い彼の指は的確に弱点を突いてくる。淡々と同じ動きで同じ箇所を責められるのはたまらなかった。
「中を触られるほうが気持ちいいんだ。えっちだね」
　楽しそうに言うユーリに体が跳ねる。
「ん、いま締まったよ。わかる？」
　覆いかぶさり、間近で顔を覗き込まれる。視線を逸らすと耳に唇が触れた。
「ねぇ、もうぐちゃぐちゃだよ。いつもかっこ良くて仕事もできるシンが、お尻の穴でこんなに気持ち良くなっていいの？　ほら、もう一本入れるよ」
　二本目が挿入される。心臓が破裂しそうだ。全身が熱くてたまらない。
「ボス、もう、許してください……」
「なんで？　べつに許しを乞う必要なんてないだろ？　それとも何か悪いことでもしたの？」
　顔を合わせられ、再び唇を重ねられる。優しいのに巧みなキスに翻弄される。
「んっ、ぅん……」
　強張る体は無意識の内にユーリの背中に腕を回し、縋るように彼の寝巻きを掴んでいた。
　優しい色の瞳を必死に見つめる。懇願に近い行為だったが、彼がその意図を汲んでくれるはずもなく、それどころか粘膜に押し付けられる指の力が増し、頭から足の先まで痺れるような重たい快感に支配される。
　真は気づけば自分からユーリの唇をねだっていた。震える舌を絡ませ、普段、感じることのないユーリの熱を求めるように口づけを繰り返す。
　そうしている内に込み上げる衝動を抑えきれず、真は射精した。快感の頂点を超えてなお、柔らかい場所をこするユーリの指は止まらず、真は長引く心地よさに歯を食いしばった。
　ようやく息を吐き、体の力を抜くとユーリの指がずるりと引き抜かれた。さんざん触れられていた場所はいまだ熱をもっている。その疼きに耐えながらユーリを見上げる。その瞳の冷たさにぞっとする。
　酔いが覚めたのであれば晒した醜態を詫びなければ。
　そう思い、身を起こしかけた真は再びベッドに押さえつけられた。呼び掛けようと開いた口は、噛みつくようなキスで塞がれる。先ほどまでの穏やかさはもうない。控えめな見た目からは想像もつかないほど激しいキスだった。
　ユーリは少し前までの酩酊状態からは完全に脱したようだ。ならばどうして自分はこんな目にあっているのだろう。今の状況が真には理解できない。
　やがて唇が離れると、ユーリは唾液に濡れた真のそこを優しく拭った。
「俺はあんまり、寛容なほうじゃないんだよ」
　ユーリの声は落ち着いている。真が何も言えずにいると、彼はため息をついて、真の肩のあたりに顔を伏せた。
「ごめん、少し嫉妬したのかもしれない」
　続けられた言葉の意味が理解できない。
「ボス？　どういう……」
　ことですか、と続けようとした唇に、再びユーリのそこが押し付けられる。柔らかな感触に真は口を噤まされる。
「君にこういうことをするのは、俺だけじゃない……わかってたし、わかった上で君にそういう仕事もさせてきた。でも、腹が立たないわけじゃない」
　真は焦った。この人は、変な酔い方をして、よくない方向へ向かおうとしている。言ってはならないことを口にしようとしている。
「ボス、お言葉ですが、俺はあなたの……」
　真の発言はやはり、ユーリに封じられる。今度は先ほどよりも長めのキスだ。角度を変えて啄むようなキスの合間に、彼の手は真のネクタイを緩め、シャツのボタンを外し始めていた。
「あっ、ボス！」
　慌てて止めるも、下半身に押し付けられたユーリの熱の感触に真は声を飲んだ。
「他の誰かが良くて、俺がだめな理由はないよね？　君にとっての一番は俺だろ？」
　耳元で囁かれる声がかすれている。低められたその声に、頭が痺れるよう気がした。
「ボス……だめです……」
「だめ？　欲しくないの？　ここに」
　先ほどまでユーリの指を飲み込んでいた場所に、もっと硬い、大きなものが押しつけられる。いまだ疼く粘膜がざわめき、いっとき落ち着いた体の熱が急速に戻るのを感じる。