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短編
#03
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帰宅するとリビングの明かりがついていた。ソファに姉の物と思われるコートとジャケットが放り出されている。
俺は慌ててバッグを置き、廊下に出た。浴室の扉が開いている。明かりのもれるそこを覗くと、姉の楓が浴槽の掃除をしていた。
「姉さんごめん。遅くなっちゃって」
脱衣所から声をかけると楓が振り返った。まだスーツのままで、ワイシャツの袖をまくり上げた彼女は化粧も落としていないようだった。
「凛太朗、おかえり」
「ただいま。掃除かわるよ」
「ありがとう。でももう終わるとこだから」
「俺なにしたらいい?」
「んー……ご飯作ってくれる?」
言いにくそうに伝える彼女に自然と頬が緩む。なんでも出来るように見える彼女は意外にも不器用で、料理が苦手だ。
「いいよ。何食べたい?」
尋ねながら着ていたニットを脱ぐと楓が不思議そうな顔をする。
「先にお風呂入る?」
「いや、ついでに洗濯機回そうと思って」
「あ、いいね。私も……」
言いながら彼女が自分のストッキングに手をかけるので、俺は慌てて目を逸らした。すぐに視界から追い出したにもかかわらず、頭にはスカートから覗く楓の脚の白さが焼き付いていた。
「こ、ここで脱がないでよ。すぐ出てくから」
「ごめんごめん。リンが脱ぎだしたからつい」
「俺はインナー着てるだろ!」
姉は笑いながら浴槽をシャワーで流し始める。
「夕ご飯、ロールキャベツがいいな」
「いいけど、ちょっと時間かかるよ」
「大丈夫。私も手伝うし、待ってる間に仕事するから」
「了解」
浴室を出るとついついため息が漏れる。家に二人きりだというのに、まるで男として見られていない。まぁ、彼女にとっての俺は、子供の頃から知ってる、「弟」でしかないのだろう。今さら腹も立たないが、少し口惜しくはある。
炊飯器に米は炊かれているようだったので、冷蔵庫を開けて夕食の材料を取り出す。ついでに副菜を考える。
メインをパスタにしたら簡単だが、米が炊かれているということは、楓はパンよりも麺よりも米が食べたい気分なのだろう。もらい物の明太子をそろそろ消費しないとまずいから、それとじゃが芋を使って小さめのグラタンでも作ろうか。
湯を沸かしながら下ごしらえをしていると、楓がリビングに戻ってきた。化粧を落とし、部屋着に着替えた彼女は長い髪を頭の上でまとめている。
「お待たせー手伝うよー」
ちょうど玉ねぎをを切り終えたところだったので、流しで手を洗った彼女にロールキャベツの具材を混ぜてもらうことにした。
「そういえば乃木さんと母さんは?」
楓の隣でキャベツを茹でながら尋ねる。父はともかく、母がこの時間まで居ないのは珍しい。
「お父さんは出張、雪音さんは友達と温泉旅行。明後日まで帰らないって、ちょっと前に話してたじゃん。雪音さん、今朝も言ってたでしょ?」
「あー……」
そういえば数日前の夕食時に、そんな話を聞いた気がする。
「今日、寝坊したから、母さんに会ってないや」
「えー大丈夫? 私、朝早いから起こしてあげられないよ」
「頑張る」
「心配だなぁ。あ、これいつまで混ぜればいいの?」
楓に尋ねられ、俺はボウルの中身を確認した。
「もういいよ。八等分しておいて」
「はーい」
茹でがったキャベツの粗熱を取る間にグラタン用のじゃが芋を洗う。
「姉さん、じゃが芋むける?」
「任せて!」
楓は意気揚々と芋の置かれたまな板の前に立つ。
「お願いします」
俺は包丁のかわりに皮むきを渡した。楓は不服そうな顔で俺を睨んだ。
「馬鹿にしてるでしょ」
「いや、怪我したら危ないから」
「それが馬鹿にしてるって言ってるの!」
騒がしい彼女を無視して、俺は彼女に握らせないと決めた包丁で芋の皮をむき始めた。
「ほら、速くしないと全部俺がやっちゃうよ」
「あっ、ずるい、待って待って」
「慌てて怪我しないでよ」
「だから大丈夫だって。皮むきくらいちゃんと……」
楓が手を動かすとまな板に分厚い皮が落ちた。
「姉さん、むくのは皮だけでいいからね」
俺は慌ててバッグを置き、廊下に出た。浴室の扉が開いている。明かりのもれるそこを覗くと、姉の楓が浴槽の掃除をしていた。
「姉さんごめん。遅くなっちゃって」
脱衣所から声をかけると楓が振り返った。まだスーツのままで、ワイシャツの袖をまくり上げた彼女は化粧も落としていないようだった。
「凛太朗、おかえり」
「ただいま。掃除かわるよ」
「ありがとう。でももう終わるとこだから」
「俺なにしたらいい?」
「んー……ご飯作ってくれる?」
言いにくそうに伝える彼女に自然と頬が緩む。なんでも出来るように見える彼女は意外にも不器用で、料理が苦手だ。
「いいよ。何食べたい?」
尋ねながら着ていたニットを脱ぐと楓が不思議そうな顔をする。
「先にお風呂入る?」
「いや、ついでに洗濯機回そうと思って」
「あ、いいね。私も……」
言いながら彼女が自分のストッキングに手をかけるので、俺は慌てて目を逸らした。すぐに視界から追い出したにもかかわらず、頭にはスカートから覗く楓の脚の白さが焼き付いていた。
「こ、ここで脱がないでよ。すぐ出てくから」
「ごめんごめん。リンが脱ぎだしたからつい」
「俺はインナー着てるだろ!」
姉は笑いながら浴槽をシャワーで流し始める。
「夕ご飯、ロールキャベツがいいな」
「いいけど、ちょっと時間かかるよ」
「大丈夫。私も手伝うし、待ってる間に仕事するから」
「了解」
浴室を出るとついついため息が漏れる。家に二人きりだというのに、まるで男として見られていない。まぁ、彼女にとっての俺は、子供の頃から知ってる、「弟」でしかないのだろう。今さら腹も立たないが、少し口惜しくはある。
炊飯器に米は炊かれているようだったので、冷蔵庫を開けて夕食の材料を取り出す。ついでに副菜を考える。
メインをパスタにしたら簡単だが、米が炊かれているということは、楓はパンよりも麺よりも米が食べたい気分なのだろう。もらい物の明太子をそろそろ消費しないとまずいから、それとじゃが芋を使って小さめのグラタンでも作ろうか。
湯を沸かしながら下ごしらえをしていると、楓がリビングに戻ってきた。化粧を落とし、部屋着に着替えた彼女は長い髪を頭の上でまとめている。
「お待たせー手伝うよー」
ちょうど玉ねぎをを切り終えたところだったので、流しで手を洗った彼女にロールキャベツの具材を混ぜてもらうことにした。
「そういえば乃木さんと母さんは?」
楓の隣でキャベツを茹でながら尋ねる。父はともかく、母がこの時間まで居ないのは珍しい。
「お父さんは出張、雪音さんは友達と温泉旅行。明後日まで帰らないって、ちょっと前に話してたじゃん。雪音さん、今朝も言ってたでしょ?」
「あー……」
そういえば数日前の夕食時に、そんな話を聞いた気がする。
「今日、寝坊したから、母さんに会ってないや」
「えー大丈夫? 私、朝早いから起こしてあげられないよ」
「頑張る」
「心配だなぁ。あ、これいつまで混ぜればいいの?」
楓に尋ねられ、俺はボウルの中身を確認した。
「もういいよ。八等分しておいて」
「はーい」
茹でがったキャベツの粗熱を取る間にグラタン用のじゃが芋を洗う。
「姉さん、じゃが芋むける?」
「任せて!」
楓は意気揚々と芋の置かれたまな板の前に立つ。
「お願いします」
俺は包丁のかわりに皮むきを渡した。楓は不服そうな顔で俺を睨んだ。
「馬鹿にしてるでしょ」
「いや、怪我したら危ないから」
「それが馬鹿にしてるって言ってるの!」
騒がしい彼女を無視して、俺は彼女に握らせないと決めた包丁で芋の皮をむき始めた。
「ほら、速くしないと全部俺がやっちゃうよ」
「あっ、ずるい、待って待って」
「慌てて怪我しないでよ」
「だから大丈夫だって。皮むきくらいちゃんと……」
楓が手を動かすとまな板に分厚い皮が落ちた。
「姉さん、むくのは皮だけでいいからね」
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