ねむれない蛇

佐々

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短編

#03*

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「わ、シンは下着まで可愛いんだね……」
 白地に小さな模様の入った下着を見てアレックスが微笑む。今日はデザインより快適さを優先したどちらかと言えば手抜きなパンツだ。恥ずかしいから見ないでほしい。
「もうこんなに……すごく大きくなってる」
 アレックスの見つめる先で真の性器は限界近くまで張り詰めていた。得体の知れない薬のせいでいつもの何倍も射精への欲が高まるのが早い。
 限界まで脚を開かれ、軽く腰を持ち上げられる。
「小さいお尻も可愛いね。ここも触られると気持ちいいの?」
 アレックスは両手で尻を揉み、漏れ出した精液のせいでぬるつく狭間を開くように指を食い込ませる。
「んっ……」
 真が息を詰めるとアレックスは尻の割れ目をなぞる指はそのままに、一方の手で性器を扱き始めた。
「ぅあっ、あ、あっ」
 急な刺激に対処しきれず、幾度か擦り立てられると真は簡単に射精した。一度の射精で萎えることのない性器を、まとわりつく薄い布ごと執拗にさすられる。絶頂したばかりで辛いのを知っているからか、アレックスはじれったいほどの優しさで真に触れ、睾丸やその奥で密かに疼く箇所にも刺激を与える。
「はぁ……っ、しんど……これ、いつまで続くの?」
 浅い呼吸を繰り返しながら尋ねると、アレックスは腕時計に視線を落とした。
「まだ一度しか出してないし、しばらくは治らないと思うよ」
「きっつ……」
 アレックスの言う通り、体の熱が引く気配はない。それどころか射精の快感を知った体はますます敏感になっている気がする。鳥肌の立つ肌には触れないよう慎重に、アレックスの手が下半身をなで回す。
「濡れすぎて透けちゃってるね。色が……」
 股間に顔を寄せたアレックスが頬を赤らめて口ごもる。
「自分で言っといて照れるなよ……あと顔が近い」
「こ、この少し色の濃いところがシンの気持ちいいところ?」
 下着に透ける性器の先の方をこすられる。触れられた箇所が熱をおび、精液が漏れるのを感じる。
「そこっ……」
「気持ちいい? もっと強めにしてあげるね」
 にちゃにちゃと音を立てながらアレックスの手が敏感な部分を責める。全身に広がる心地良さに歯を食いしばって耐えていると、アレックスが間近で顔を覗き込んできた。
 初めて会った時の控えめな印象からは想像もつかないくらい熱のこもった視線を向けられ、逃れるように腕で顔を覆う。
「隠さないで」
 アレックスに腕を取られ、顔を寄せられる。額が密着するほどの距離で凝視されながら、真は二度目の射精の気配に身を強張らせた。
 しかし始め、あれだけ呆気なく訪れた快感はなかなかやって来ない。嫌な予感がして視線を上げるとアレックスに抱きしめられた。
「ご、ごめんねシン、君に触れられるだけで満足だったんだけど、や、やっぱり我慢できないよ……」
 力強い抱擁の最中、先ほどよりも荒いアレックスの息遣いを感じて真は肌が粟立つのを感じた。アレックスは手早く真の体をひっくり返すと中途半端に引っかかっていたジャケットを脱がせ、うつ伏せた体を押さえつけた。
「ア、アレックス、嘘だろ」
 なんだかんだこの真面目な男は約束を違えることなどないと思っていた。見くびっていたと言ってもいいかもしれない。甘かった。そもそもこんな状況になっている時点で信用できるはずなどないのに。
「シン、ごめんね、ちょっとだけ……」
「ま、待てっ」
 制止も聞かず、熱くて硬いものが脚の間に滑り込む。
「うわっ」
 素股だからいいとかそういう問題ではないが、アレックスにまだ理性が残っているようで少しだけ安堵したのも束の間、本当のセックスみたいに激しく腰を打ち付けられる。
「あっ、シン、どうしよう、気持ちよくて、すぐに出ちゃいそうっ」
「い、いいから、さっさと終わらせろっ」
「ごめんね、シンのことも気持ちよくするからね」
「いらなっ、ぁ、あっ」
 下着の上から太ももの隙間に性器を挟まれているだけだというのに、真の体はしっかり快感を拾う。わななく体を力任せに押さえつけられ、勃起したままの性器を掴まれて無理矢理射精させられる。
「シン、シンっ……」
 欲にまみれた声で名前を呼ばれるのがどうしようもなく嫌だった。彼のことが嫌いなわけじゃない。でも、もっと違う関係を築きたかった。
「シン、本当は、君を……」
 何か言いかけたアレックスはそこで果てた。股間や太ももや尻の方まで汚されながら、真は最後の彼の言葉を聞かなくてよかったと思った。


 アレックスは予定より早く部屋を出てきた。その顔はダル・カントの予想より遥かに暗く険しいものだった。
「おやおや、どうしたいんだい?」
 ダル・カントはソファを立ってアレックスに近づいた。途端に彼は子供のように顔を歪める。
「ぼ、僕は、なんてことを……」
 今にも泣きだしそうな男に苦笑しながら、彼を伴ってソファへ戻る。
「私の用意した時間は君を満足させられるものではなかったかな?」
 促されるまま腰を下ろしたアレックスは緩慢に首を振った。
「いえ、あなたには感謝しています。今まで、画面越しに眺めるだけだった彼に会って、言葉を交わすことができた。そればかりか彼は僕の名を呼び、笑いかけてくれさえした。それなのに、僕は彼に、ひどいことをっ……」
 言葉を詰まらせるアレックスに嘆息しそうになるのをこらえて、ダル・カントは微笑んだ。
「彼がそう言ったのか? 君にひどい仕打ちを受けたと」
「いえ……でも、彼はきっと、身勝手な欲望をぶつけられたことを怒ってる。もう僕の顔も見たくないはずだ」
 ダル・カントは失笑した。もうそれを取り繕う気も起らなかった。
「君は本当に優しい男だな。でもね、考えてみなさい。こうでもしなければ君が彼に触れることなどできなかった。違うかい? 君は大企業の優秀な研究者だ。その肩書がなければ凡庸で、いや、それ以下と言ってもいい。真面目なだけのつまらない男だ。何か一つでも彼を引き付けることのできる要素が君にあるか? ないだろう。でもね、君の肩書はそれら全てを補って余りあるほどの力を持つんだよ。だからこそ彼は君に体を許した。私や君の薬が多少の後押しをしたとはいえ、これは彼自身が選択したことだ。君が彼にしたことは当然の権利だよ。君が非難される謂れはない。まぁ、聡明な彼のことだからそんな心配は不要だと思うがね」
 言い聞かせるように優しく伝えても、アレックスの表情は晴れない。扱いやすい男だと思っていたが、この頭の悪さは予想外だ。やはり仕事以外では無能か。
「それでも……」
 口を開いたアレックスが弱々しく言葉を放つ。
「それでも僕は、本当に彼を好きになってしまったんです……」
 醜く太った男の子供のような純粋な好意に笑みがにじむ。どこまでも愚かで優しいアレックス。これはこれで別の使い道があるかもしれない。
 新たな奸計を巡らしながら、ダル・カントは彼の勇気を労うように、肉付きのいい背中をなでた。
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