ねむれない蛇

佐々

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短編

#02*

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「さて、気分はどうかな?」
 息を荒げる真を見下ろして、ダル・カントが尋ねる。
「一体どういうつもりですか……」
 彼の意図がわからない訳ではなかったが、信じたくはなかった。
 ベッドの端に腰掛けたダル・カントに頬をなでられる。そんな些細な接触がやたら心地良くて、真は眉を寄せた。
「なに、心配しなくても君を傷つけるようなことはしないよ。君が飲んだのは彼が開発した薬だ」
「俺は実験台ですか?」
「いや、これは彼の個人的な望みだよ」
 ダル・カントにつられて視線を転じさせると、アレックスが所在なさげにベッドの側に立っていた。
「もっと近くに来たらどうだ?」
 躊躇いがちにベッドに近づくアレックスは、意図的に逸らしていたらしい視線を真に向けた。とたんに目を見開いたアレックスがベッドに乗り上げてくる。
「シ、シン!」
 温かい脂肪に包まれた大きな体に抱きしめられ、真は息を飲んだ。力強い抱擁は今のところなんら性的な意図を含んでいないのに、過敏になった体は容易に勘違いする。
「ごめんね、辛い? でも体に悪い影響はないから、変な薬じゃないから心配しないで」
 耳元でぼそぼそ話されるだけで肌が粟立つ。もっとはっきり喋れ! なよなよするな! と怒りたいのに、そんな気力も湧いてこない。どこが変な薬じゃないだ。絶対やばいじゃねぇか。
 そうこうしている内にアレックスの大きな手が体をなで回し始める。声が出そうになって慌てて唇を引き結ぶ。
「大丈夫だよ。君が嫌がることはしないから……」
 シャツの上から腰や背中を這い回る手に舌打ちしそうになるのをどうにかこらえた。
「素敵なネクタイだね……このスーツも似合ってるよ」
 後ろから抱きしめられ、うっとりと囁くアレックスの荒い呼吸が耳に触れる。うるせーよデブ! そう罵りながら頭突きをかましてやりたい。本音を悟られたのか、ダル・カントが口を開いた。
「もちろん、フィオーレも承知しているよ。君の体を傷つけないという条件でね」
「そうですか……」
 絶望的だ。逃げ道はない。元より、フィオーレの最大の支援者であるこの男に逆らうことなど出来るはずもないのだが。
「それと、これは私が彼に出した条件だが、君の体に直接触れることは禁じている」
「どういうことでしょうか……」
「言葉通りだよ。彼は本当に君が好きでね。暴走しかねないから、保険だよ」
 確かにアレックスはダル・カントとの約束を守っているのか、抱きしめたり体をなでたりすることはあるものの、直接肌に触れてこようとはしない。
「どうするかは君の自由だよ。薬が切れるまでそのまま耐えるのも、彼にサービスしてあげるのもね」
 なんだそれは。理解できない真を放置して、ダル・カントは立ち上がる。
「さて、私は外すからあとは二人でゆっくりするといい。頃合いを見て戻ってくるよ」
 真の頬に挨拶のキスをして、ダル・カントは本当に出て行ってしまった。
 静まり返った部屋にアレックスの息遣いがやけに大きく聞こえる。
「だ、大丈夫? 気分は悪くない?」
 相変わらず背後からしっかりと真を抱きしめたまま、アレックスが尋ねる。不埒な欲にまみれてはいるが、自分への気遣いに嘘はなさそうだ。しかしそれで全てが許されるわけではない。
「大丈夫に見えますか?」
 真は自分を落ち着けるように深呼吸を繰り返した。何か別のことを考えて気を紛れさせようと、抱えている仕事を頭の中で整理してみる。
「ごめんね、辛いよね……」
 ああ苛々する。そんな申し訳なさそうな声を出すなら馬鹿げた話に乗らなければいいのに。今日のことを仕組んだのは全てダル・カントだろう。理由は不明だが、きっと彼は個人的にアレックス、もしくは彼の会社を利用したいと考えている。そのためにアレックスにこんな話を持ち掛けた。とはいえアレックスの会社との関係がフィオーレにとって有益なのは確かだ。それがわかれば真が逆らえないと踏んだのだろう。足元見やがって。
「シン、何か僕に出来ることは……」
「あの、結構頑張ってがまんしてるので、黙っててもらえますか?」
 体は限界に近かった。もう本当にかなり辛い。鼓動は速いし体というか主に股間が熱い。なのに衣服が肌に触れるとぞわぞわする。誰でもいいからセックスしたい。いや、誰でもはよくない。愛しい弟の顔を思い浮かべて、すぐにかき消した。駄目だ。こんな状態で弟の前で冷静さを保っていられる自信がない。
「がまん、は無理だと思うよ」
 相変わらず弱々しい声でアレックスが言った。
「この薬ね、危険性はないし、中毒も起きないけど、一般に流通させられないくらいの効果が出るようになってるんだ。だから、ほら……」
 胸の上を這うアレックスの指が乳首をかすめた。
「あっ」
「ね? ちょっとなでただけなのに、もう勃起してる。シャツの上からでも形がわかっちゃうね」
 急に襲ってきた快感と羞恥に顔が熱くなる。
「ちょっ、やめっ」
「可愛いよ、シン、気持ちいいんだね。たくさん触ってあげるね……」
「ちが、まっ、ほんとに……っ」
 身をよじって逃れようにもがっちりと抱きしめられていて身じろぎもままならない。アレックスの柔らかく大きな手のひらが胸をなで回し、優しく先端を引っかく。
「ぁ、あっ、んっ……」
「先っぽかりかりされるの気持ちいい? 本当はなめてあげたいんだけど……」
 囁かれた言葉に体が跳ねる。
「期待した? ごめんね。かわりにこっちも触ってあげるね」
 アレックスの片手が股間に伸びる。
「だ、だめだ、触るなっ」
「どうして? 乳首を触る度にここが反応して、苦しそうなのが気になってたんだ」
「ひっ、あぁっ……」
 開かされた脚の付け根をなでられる。くすぐったいはずなのに、快感のほうが勝って思わず脚を閉じる。
「だめだよ、ちゃんと見せて」
 力任せに再び開脚させられ、スラックスごしに膨らんだ箇所を凝視したアレックスが躊躇いがちに指先でそこをなぞる。
「んっ、く……」
 固く目を閉じ、歯を食いしばる。
「ああ、すごい、がちがちだね……」
 恍惚とした様子でため息を漏らしたアレックスの手がそこに乗せられ、優しくさすり始める。たったそれだけの刺激で性器が濡れるのがわかった。
「信じられないよ……僕があのシンに触れてるなんて……しかもこんなにいやらしいことを……」
 ぶつぶつ言いいながらアレックスは観察するように念入りに真の性器の形を確かめ、睾丸や尻の割れ目の方にまで手を伸ばしてきた。
「濡れてる感触がするね。苦しい? 脱ぎたい?」
 指先で乳首を弾かれ、もう一方の手で性器を扱かれながら問われ、真は自分でも気づかないうちに頷いていた。
「脱ぎたっ……」
 そう口走ったとき我に返るも既に遅く、アレックスの手がベルトにかかっていた。先ほどまでよりも荒い息が耳に触れてくすぐったい。
「だ、大丈夫だよ。君が嫌がることはしないし、ちょ、直接触らない約束も守るからね」
 下着を履いていれば直接触れることにはならないということか。俺がノーパンだったらどうするんだ、などと考えながら、真はスラックスが引き抜かれるのを黙って見ていた。
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