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短編
愚者の恋*
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真が枕営業する話です。中身のない性病写を含むのでご注意ください。気弱で優しいモブ攻めです。素股しかしてません。
仕事の帰り道、スマートフォンにユーリからのメッセージが入った。ダル・カントの屋敷に行ってほしいという簡潔な内容で、真はすぐに嫌な予感がしたが、それを言えるはずもなく、了解の旨だけを返した。
屋敷に着くと、いつものように使用人の男が出迎えた。真はリコと呼ばれるこの男が好きではなかった。はっきりとした精悍な面立ちも、鍛え抜かれた体躯も、まるで自分への嫌味のように感じられて腹立たしい。
通されたのは応接用の部屋だった。フィオーレやカンドレーヴァの屋敷が近代的な造りをしているのに対し、ここはいかにも金持ちの家といった感じで、重厚な家具や調度品が置かれている。決して趣味が悪いわけではなく、落ち着いた色調で統一された室内は高級感がありながらもくつろげる空間に整えられている。
いくらもしない内にダル・カントが現れた。
「すまないね、急に呼び出したりして」
「いえ、とんでもありません」
「外は寒かっただろう。奥へ行こう。暖炉に火を入れてある」
促されるまま隣の部屋へ向かう。
「今日は君に紹介したい人がいてね」
「私にですか?」
暖炉の側に置かれたソファに一人の男が座っていた。こちらに気づくと慌てた様子で立ち上がり、足早に近づいてくる。
「は、初めまして乃木くん、わ、私は……」
恰幅がいい中年の男はなぜか赤面し、真から目を逸らした。口籠る男にダル・カントが助け舟を出す。
「彼はこの国の製薬会社に勤める研究者でね、少し恥ずかしがり屋だが、社内ではいくつもの研究チームを率いている優秀な男なんだよ」
紹介された男に挨拶を返し、握手を交わす。力強く手を握ってくるくせに目を合わせようとしない男に真は内心苛立った。それを知ってか、ダル・カントが苦笑する。
「彼は君のファンでね、一度でいいから君に会いたいと言っていたんだよ」
「そう、ですか」
「社名はまだ教えられないが、この国で彼の会社のもつ影響力はとても大きい。彼の会社と君たちが良い関係を築くことは、両者にとって有益だと思うんだが、どうかな?」
真は納得した。そういうことなら話が早い。
「ありがとうございます。光栄です。ミスター」
ともすれば険しくなりそうな表情を無理矢理緩めて、男に笑いかける。
「ア、アレックスでいいよ。その、そう呼んでもらえると嬉しい……」
「わかりました、アレックス。私のこともシンと呼んでください」
男の目が輝く。アレックス。本名はアレクサンダーか。内向的な印象の男には似つかわしくない名前だと思った。
「それでアレックス、我々はどうすればあなたたちに協力できますか?」
フィオーレに近づく企業は資金提供の見返りに企業側では対処できない問題の処理を要求してくることが多い。競合他社の調査、妨害など内容は様々だが、アレックスもそれが狙いでフィオーレと関係を持ちたがっているのだろう。
「ぼ、僕はその、個人的に君に……」
「私個人の力などたかが知れていますが、ユーリ・フィオーレを通して正式に依頼を頂ければ、私の数倍の戦力を提供できます」
「いや、でも……」
言葉に詰まるアレックスに、ダル・カントが口を挟む。
「今はまだ、そこまでの話をする段階ではないのだよ」
「と、言うと?」
「今後、彼の会社がフィオーレへ仕事を依頼するかどうかは、今日の君次第というわけだ」
いまいち話が見えない。アレックスの企業との関係を深めたほうがフィオーレにとって良いのは明らかだ。先方にまだその気がないのだとすれば、真はその気になってもらうように動くしかない。そのために設けられた席なのだろう。
「私は一体どうすれば?」
「言っただろう? 彼は君のファンだと」
それがよくわからない。アイドルでもあるまいし。握手は先ほどしたし、一緒に写真でも撮れば満足するのか?
答えは出ないまま、真はダル・カントに勧められるまま酒を飲んだ。アレックスは特別何も要求してこないが、時折他愛もない話をするだけで満足げな顔をしていた。こうして酒を飲みながら話が出来れば十分ということなのだろうか。だとすれば無欲な男だ。
酩酊感は急にやってきた。客前ということもあり、酒量には気をつけていたにもかかわらず、泥酔した時のように頭が重い。額に触れるとかなり熱かった。出された酒が強すぎたのか、体調の問題で存外酒の回りが速かったのか。いずれにしても少し冷ましたほうが良さそうだ。
「失礼、お手洗いに……」
断りを入れて席を立つ。とたんに足がふらついた。倒れそうになったところをアレックスに抱き留められる。
「だ、大丈夫かい? 顔が真っ赤だよ」
覗き込んでくるアレックスの顔がよく見えない。目眩がする。頭が痛い。
「珍しいな、君が酒に酔うなんて。そこまできつい物ではなかったんだが」
ダル・カントのわざとらしい言い方ですぐに悟る。どうやら自分は嵌められたらしい。
「すみません、少し気分が優れないので、今日は……」
面倒なことにならない内に退散しようと思うのに、自力で立つこともままならない。傾く体は再びアレックスの逞しい腕に支えられる。
「無理は良くない。落ち着くまで休んでいきなさい」
真は半ば担がれるようにして二階に運ばれ、薄暗い部屋のベッドに下ろされた。
仕事の帰り道、スマートフォンにユーリからのメッセージが入った。ダル・カントの屋敷に行ってほしいという簡潔な内容で、真はすぐに嫌な予感がしたが、それを言えるはずもなく、了解の旨だけを返した。
屋敷に着くと、いつものように使用人の男が出迎えた。真はリコと呼ばれるこの男が好きではなかった。はっきりとした精悍な面立ちも、鍛え抜かれた体躯も、まるで自分への嫌味のように感じられて腹立たしい。
通されたのは応接用の部屋だった。フィオーレやカンドレーヴァの屋敷が近代的な造りをしているのに対し、ここはいかにも金持ちの家といった感じで、重厚な家具や調度品が置かれている。決して趣味が悪いわけではなく、落ち着いた色調で統一された室内は高級感がありながらもくつろげる空間に整えられている。
いくらもしない内にダル・カントが現れた。
「すまないね、急に呼び出したりして」
「いえ、とんでもありません」
「外は寒かっただろう。奥へ行こう。暖炉に火を入れてある」
促されるまま隣の部屋へ向かう。
「今日は君に紹介したい人がいてね」
「私にですか?」
暖炉の側に置かれたソファに一人の男が座っていた。こちらに気づくと慌てた様子で立ち上がり、足早に近づいてくる。
「は、初めまして乃木くん、わ、私は……」
恰幅がいい中年の男はなぜか赤面し、真から目を逸らした。口籠る男にダル・カントが助け舟を出す。
「彼はこの国の製薬会社に勤める研究者でね、少し恥ずかしがり屋だが、社内ではいくつもの研究チームを率いている優秀な男なんだよ」
紹介された男に挨拶を返し、握手を交わす。力強く手を握ってくるくせに目を合わせようとしない男に真は内心苛立った。それを知ってか、ダル・カントが苦笑する。
「彼は君のファンでね、一度でいいから君に会いたいと言っていたんだよ」
「そう、ですか」
「社名はまだ教えられないが、この国で彼の会社のもつ影響力はとても大きい。彼の会社と君たちが良い関係を築くことは、両者にとって有益だと思うんだが、どうかな?」
真は納得した。そういうことなら話が早い。
「ありがとうございます。光栄です。ミスター」
ともすれば険しくなりそうな表情を無理矢理緩めて、男に笑いかける。
「ア、アレックスでいいよ。その、そう呼んでもらえると嬉しい……」
「わかりました、アレックス。私のこともシンと呼んでください」
男の目が輝く。アレックス。本名はアレクサンダーか。内向的な印象の男には似つかわしくない名前だと思った。
「それでアレックス、我々はどうすればあなたたちに協力できますか?」
フィオーレに近づく企業は資金提供の見返りに企業側では対処できない問題の処理を要求してくることが多い。競合他社の調査、妨害など内容は様々だが、アレックスもそれが狙いでフィオーレと関係を持ちたがっているのだろう。
「ぼ、僕はその、個人的に君に……」
「私個人の力などたかが知れていますが、ユーリ・フィオーレを通して正式に依頼を頂ければ、私の数倍の戦力を提供できます」
「いや、でも……」
言葉に詰まるアレックスに、ダル・カントが口を挟む。
「今はまだ、そこまでの話をする段階ではないのだよ」
「と、言うと?」
「今後、彼の会社がフィオーレへ仕事を依頼するかどうかは、今日の君次第というわけだ」
いまいち話が見えない。アレックスの企業との関係を深めたほうがフィオーレにとって良いのは明らかだ。先方にまだその気がないのだとすれば、真はその気になってもらうように動くしかない。そのために設けられた席なのだろう。
「私は一体どうすれば?」
「言っただろう? 彼は君のファンだと」
それがよくわからない。アイドルでもあるまいし。握手は先ほどしたし、一緒に写真でも撮れば満足するのか?
答えは出ないまま、真はダル・カントに勧められるまま酒を飲んだ。アレックスは特別何も要求してこないが、時折他愛もない話をするだけで満足げな顔をしていた。こうして酒を飲みながら話が出来れば十分ということなのだろうか。だとすれば無欲な男だ。
酩酊感は急にやってきた。客前ということもあり、酒量には気をつけていたにもかかわらず、泥酔した時のように頭が重い。額に触れるとかなり熱かった。出された酒が強すぎたのか、体調の問題で存外酒の回りが速かったのか。いずれにしても少し冷ましたほうが良さそうだ。
「失礼、お手洗いに……」
断りを入れて席を立つ。とたんに足がふらついた。倒れそうになったところをアレックスに抱き留められる。
「だ、大丈夫かい? 顔が真っ赤だよ」
覗き込んでくるアレックスの顔がよく見えない。目眩がする。頭が痛い。
「珍しいな、君が酒に酔うなんて。そこまできつい物ではなかったんだが」
ダル・カントのわざとらしい言い方ですぐに悟る。どうやら自分は嵌められたらしい。
「すみません、少し気分が優れないので、今日は……」
面倒なことにならない内に退散しようと思うのに、自力で立つこともままならない。傾く体は再びアレックスの逞しい腕に支えられる。
「無理は良くない。落ち着くまで休んでいきなさい」
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