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おさない凶器
#16
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会計と荷物の手配を済ませて店を出る。ユーリに先立って歩き、辺りを見回す。相変わらず通りに人は多いが、一体どこに危険があるのかわからない。通行人も、客引きをする店員も、老若男女すべてが怪しく見えてくる。この中の誰が、どれほどの人間、彼に恨みを持っているのだろう。
「そんなに心配なら手でも繋ぐ?」
「気が散るので話しかけないでください」
隣に寄り添うユーリを睨むと彼はなぜか嬉しそうな顔をした。
「怒った? その顔ちょっとシンに似てるね」
「適当なこと言わないで下さい。あと怒ってません」
血の繋がらない兄に似てるところなど一つもないはずだ。
「一気に表情がなくなるとことかそっくりだよ? 俺わりとその顔好きなんだよね。だからいつも怒らせちゃう」
無邪気なユーリの顔を見て、凛太朗は兄の苦労の一端を知った気がした。
なるべく人通りの多い道を選んで歩く。今のところさしたる危険はない。どうかこのまま終わってくれ。そう願った時、隣を歩くユーリに腕を引かれ、脇道に入らされた。
「ちょ」
なんでわざわざ人気のない道を行こうとするのか。
投げかけようとした疑問は、人差し指を立てたユーリに遮られた。
「つけられてる」
声を潜めて言ったユーリに思わず振り返ろうとしたのを制される。
「気づかないふりをして。君、銃は?」
「いえ……」
ジーノには適当なものを携帯しろと言われていたがどうにも躊躇われ、持ち出すことはないままだった。
「ならこれを」
取り出した銃を渡される。名前はわからないが、凛太朗も触れたことのある自動拳銃だった。
「使い方は?」
「なんとなく……」
「一般的なモデルだから大丈夫だよ。次の角で別れよう」
「え?」
「バラバラに逃げて車で落ち合う作戦で」
「いやいやいや」
そんなの作戦でもなんでもないことくらい凛太朗にもわかる。しかもどう考えても賢いやり方ではない。
そもそも彼を守ることが自分の課題だったはずだ。
「試験は」
「もちろん続行だよ」
「なら」
別れてしまってはユーリを守れない。
「君が相手を引きつけてくれたらいい」
「なるほど」
その間にユーリは逃げられるというわけか。納得しかけてすぐに気づく。
「いや、一人のときに狙われたらどうするんですか。相手が単独とは限らない」
「俺逃げ足速いから大丈夫だよ」
「承諾できません」
「シンみたいなこと言わないでよ。大丈夫だって。一瞬別れて、その間に君が片付けて、その後すぐ合流すればいいじゃん」
「そんな無茶苦茶な」
「はいはい。だらだらしてると気取られるからそろそろ行くよ」
「ちょ、あっ」
戸惑う凛太朗を置き去りに、ユーリは駆け出した。どんどん狭く、複雑になっていく裏道を、彼はスーツに革靴とは思えない身のこなしで走り抜けていく。その後ろ姿を呆然と眺めていた凛太朗はすぐに我に返った。早く彼を追いかけなければ。いや、まずは彼を狙っていた人間を始末するのが先か。
先ほどユーリには気づかないふりをしろと言われたがもうその必要はないだろう。むしろ先に見つけてさっさと片を付けるべきだ。この国に来てから無駄に好戦的になった自分の思考をどこか不思議に思いながら、凛太朗は辺りを見回した。
「動くな」
すぐ近くで人の声がした。同時に、背中に硬いものが押し付けられる。
「両手を上げて、それをこちらに渡せ」
言われた通りにすると、先ほどユーリから預かった銃を取り上げられた。視界の端に映った手は白く華奢で、聞こえてくる声と合わせて相手が若い女であることを確信する。
「なぜボスを狙っていた?」
女の問いに、凛太朗は内心首を傾げた。
「どういうこと?」
「とぼけるな。お前は何者だ。過激派の一員か? それともどこかのファミリーの犬か?」
「俺はただ、ボスと一緒に飯食って、買い物の帰りに彼を車まで護衛してただけなんだけど……」
沈黙が流れた。凛太朗は両手を上げたまま、後ろを振り向いた。
「そんなに心配なら手でも繋ぐ?」
「気が散るので話しかけないでください」
隣に寄り添うユーリを睨むと彼はなぜか嬉しそうな顔をした。
「怒った? その顔ちょっとシンに似てるね」
「適当なこと言わないで下さい。あと怒ってません」
血の繋がらない兄に似てるところなど一つもないはずだ。
「一気に表情がなくなるとことかそっくりだよ? 俺わりとその顔好きなんだよね。だからいつも怒らせちゃう」
無邪気なユーリの顔を見て、凛太朗は兄の苦労の一端を知った気がした。
なるべく人通りの多い道を選んで歩く。今のところさしたる危険はない。どうかこのまま終わってくれ。そう願った時、隣を歩くユーリに腕を引かれ、脇道に入らされた。
「ちょ」
なんでわざわざ人気のない道を行こうとするのか。
投げかけようとした疑問は、人差し指を立てたユーリに遮られた。
「つけられてる」
声を潜めて言ったユーリに思わず振り返ろうとしたのを制される。
「気づかないふりをして。君、銃は?」
「いえ……」
ジーノには適当なものを携帯しろと言われていたがどうにも躊躇われ、持ち出すことはないままだった。
「ならこれを」
取り出した銃を渡される。名前はわからないが、凛太朗も触れたことのある自動拳銃だった。
「使い方は?」
「なんとなく……」
「一般的なモデルだから大丈夫だよ。次の角で別れよう」
「え?」
「バラバラに逃げて車で落ち合う作戦で」
「いやいやいや」
そんなの作戦でもなんでもないことくらい凛太朗にもわかる。しかもどう考えても賢いやり方ではない。
そもそも彼を守ることが自分の課題だったはずだ。
「試験は」
「もちろん続行だよ」
「なら」
別れてしまってはユーリを守れない。
「君が相手を引きつけてくれたらいい」
「なるほど」
その間にユーリは逃げられるというわけか。納得しかけてすぐに気づく。
「いや、一人のときに狙われたらどうするんですか。相手が単独とは限らない」
「俺逃げ足速いから大丈夫だよ」
「承諾できません」
「シンみたいなこと言わないでよ。大丈夫だって。一瞬別れて、その間に君が片付けて、その後すぐ合流すればいいじゃん」
「そんな無茶苦茶な」
「はいはい。だらだらしてると気取られるからそろそろ行くよ」
「ちょ、あっ」
戸惑う凛太朗を置き去りに、ユーリは駆け出した。どんどん狭く、複雑になっていく裏道を、彼はスーツに革靴とは思えない身のこなしで走り抜けていく。その後ろ姿を呆然と眺めていた凛太朗はすぐに我に返った。早く彼を追いかけなければ。いや、まずは彼を狙っていた人間を始末するのが先か。
先ほどユーリには気づかないふりをしろと言われたがもうその必要はないだろう。むしろ先に見つけてさっさと片を付けるべきだ。この国に来てから無駄に好戦的になった自分の思考をどこか不思議に思いながら、凛太朗は辺りを見回した。
「動くな」
すぐ近くで人の声がした。同時に、背中に硬いものが押し付けられる。
「両手を上げて、それをこちらに渡せ」
言われた通りにすると、先ほどユーリから預かった銃を取り上げられた。視界の端に映った手は白く華奢で、聞こえてくる声と合わせて相手が若い女であることを確信する。
「なぜボスを狙っていた?」
女の問いに、凛太朗は内心首を傾げた。
「どういうこと?」
「とぼけるな。お前は何者だ。過激派の一員か? それともどこかのファミリーの犬か?」
「俺はただ、ボスと一緒に飯食って、買い物の帰りに彼を車まで護衛してただけなんだけど……」
沈黙が流れた。凛太朗は両手を上げたまま、後ろを振り向いた。
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