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おさない凶器
#14
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「BR社って聞いたことあるか?」
「ブラック・リバー社? あのアメリカの? 超大手じゃん。俺らいらなくね?」
ジーノの思考回路は真に似ていた。
「それが別の会社なんだと。本社はアメリカだが、アジア拠点での活動が多いらしい。ブラック・リバーじゃなくてブラック・レイン社」
真はポケットから取り出した名刺をジーノに渡した。それを眺めたジーノが眉を寄せる。
「完全にパクりじゃん。よく本家に怒られなかったな」
「拠点は被ってないから見逃されてるって言ってたぞ。中東とか」
「中東は被ってるだろ」
「微妙な住み分けがあんじゃねーの? それか本家がやりたがらないような仕事を請け負ってるとか」
「本家って、会社同士の繋がりはないんだろ?」
「まーそうだな、表向きかもしれないが」
「だいたいアジア拠点の軍事会社がなんだってアストリアに」
「こっちに拠点を持ちたいんだろ。どんな繋がりでアインツの仕事を請け負うことになったのかわからないけど……」
真はスマートフォンで件の会社を調べているようだ。ネットに落ちている情報には限りがあるから、部下を使ってもっと踏み込んだ内容を集めているのかもしれない。ちなみに彼のスマートフォンは今度こそカイが責任をもって充電を完了させた。
聞きなれない企業名にジーノは未だ得心がいかない様子だ。
「ドイツの大企業がそんな小さい軍事会社を使うか? しかも大事なパーティーの本番に。本家の方のBR社と間違えた可能性はないのか? 連中もそれ狙って紛らわしい名前をつけたとか」
「さすがにそれは舐めすぎだろ」
カイも同意だった。大企業の役員をなんだと思っているのか。
「あまりクリーンな会社ではなさそうだな」
「そんなの一目見てわかるだろ。その辺のチンピラと変わんねーぞあいつら」
確かに彼らの様相は統率の取れた警備員というより、柄の悪い傭兵に近かった。会社のロゴの入った揃いのポロシャツを着ていても、彼らには担いだM4がよく似合った。
「かといってクリーン過ぎても役に立たないしな」
「そうそう、アインツの元々用意してた警備会社とかな。あいつらテロリストに襲われても発砲を躊躇うぞ」
「さすが大企業の関連会社。クリーンな仕事ばかり請け負ってきたのが裏目に出たな」
「もー最悪。どうすんのこれ。失敗したら俺が責任取らされんの?」
真がうんざりした様子で煙草をくわえる。カイは後部座席の窓を開けてやった。
「まさか、全責任を取らされるのはユーリだ」
「そっかー良かったーって思えるわけないだろ。なおさらミスれねーわ」
「BR社の連中をうまく使って乗り切るしかないな。その辺の調整もしてきたんだろ?」
「まぁ……」
真は先ほどのジャックとの話し合いの内容を共有した。カイにはよくわからない部分も多かったが、重要そうなのでひとまず頭に入れておく。
「あ、そうそう、リンが担当するお嬢様の側にレイをつけるから」
思い出したようにジーノが言った。
「マジかよ」
真が眉をひそめる。
「レイって誰っすか?」
聞いたことがあるようなないような名前にカイが反応すると、ミラー越しに真と目が合った。
「こいつの妹だよ。ゴリラ並みに凶暴な」
「えーまさかぁ……」
ジーノの妹ならきっと優しい美女だろう。いや、ゴリラ並みに強い美女もそれはそれで惹かれるが。
「さすがにこの状況でリン一人に任せられないし、当初予定してたアインツの警備体制は頼りないからな。役員の身内を危険に晒すわけにはいかないだろ? それになんだかんだ、女の子のガードは同性のほうが都合いいからな」
「うわお前それセクハラだぞキモ」
「お前の思考の方がキモいからな」
「てかお前、家どうすんだ?」
唐突に真に声をかけられ、カイは鏡に映る彼を見た。
「え?」
「アパート吹っ飛んだだろうが」
「あー!」
そうだった。忘れていたが今朝、カイのアパートもテロの被害にあったのだった。
「マジ? うわお前あんなとこ泊まってたのかよ。ボロすぎて誰も住んでないぞあの社宅」
「そうだったんすか?」
通りで人が生活している気配がしないはずだ。シャワーは水だし雨漏りはするし、浮浪者や柄の悪い若者の溜まり場、果てはヤリ部屋として使われている節すらあった。自分はそんな場所を寝床としてあてがわれていたのか。
「かわいそうに。もっとまともなとこ住まわせてやれよ。うちに来るか? 部屋は死ぬほど余ってるし」
ジーノから優しい言葉がかけられる。本当にこの人はイケメン……
「だめだ」
うっとりしていたカイを真の厳しい声が現実に引き戻す。
「でも家がなくなちゃ困るだろ?」
「だからってカンドレーヴァに置く必要がなんである」
「じゃあどうすんだよ」
しばし考えていた真はポケットに手を入れ、取り出した物をカイに渡した。
「これ……」
どう見てもカードキーだ。
「仕方ねぇから俺の家を使わせてやる」
「い、いいんすか?」
「汚したら殺すからな」
「は、はい! ありがとうございます!」
この展開は予想していなかった。まさか真が部屋に泊めてくれるなんて。彼の隣でジーノも驚いている様子だ。
「ほんとに何者だよ、お前」
「ブラック・リバー社? あのアメリカの? 超大手じゃん。俺らいらなくね?」
ジーノの思考回路は真に似ていた。
「それが別の会社なんだと。本社はアメリカだが、アジア拠点での活動が多いらしい。ブラック・リバーじゃなくてブラック・レイン社」
真はポケットから取り出した名刺をジーノに渡した。それを眺めたジーノが眉を寄せる。
「完全にパクりじゃん。よく本家に怒られなかったな」
「拠点は被ってないから見逃されてるって言ってたぞ。中東とか」
「中東は被ってるだろ」
「微妙な住み分けがあんじゃねーの? それか本家がやりたがらないような仕事を請け負ってるとか」
「本家って、会社同士の繋がりはないんだろ?」
「まーそうだな、表向きかもしれないが」
「だいたいアジア拠点の軍事会社がなんだってアストリアに」
「こっちに拠点を持ちたいんだろ。どんな繋がりでアインツの仕事を請け負うことになったのかわからないけど……」
真はスマートフォンで件の会社を調べているようだ。ネットに落ちている情報には限りがあるから、部下を使ってもっと踏み込んだ内容を集めているのかもしれない。ちなみに彼のスマートフォンは今度こそカイが責任をもって充電を完了させた。
聞きなれない企業名にジーノは未だ得心がいかない様子だ。
「ドイツの大企業がそんな小さい軍事会社を使うか? しかも大事なパーティーの本番に。本家の方のBR社と間違えた可能性はないのか? 連中もそれ狙って紛らわしい名前をつけたとか」
「さすがにそれは舐めすぎだろ」
カイも同意だった。大企業の役員をなんだと思っているのか。
「あまりクリーンな会社ではなさそうだな」
「そんなの一目見てわかるだろ。その辺のチンピラと変わんねーぞあいつら」
確かに彼らの様相は統率の取れた警備員というより、柄の悪い傭兵に近かった。会社のロゴの入った揃いのポロシャツを着ていても、彼らには担いだM4がよく似合った。
「かといってクリーン過ぎても役に立たないしな」
「そうそう、アインツの元々用意してた警備会社とかな。あいつらテロリストに襲われても発砲を躊躇うぞ」
「さすが大企業の関連会社。クリーンな仕事ばかり請け負ってきたのが裏目に出たな」
「もー最悪。どうすんのこれ。失敗したら俺が責任取らされんの?」
真がうんざりした様子で煙草をくわえる。カイは後部座席の窓を開けてやった。
「まさか、全責任を取らされるのはユーリだ」
「そっかー良かったーって思えるわけないだろ。なおさらミスれねーわ」
「BR社の連中をうまく使って乗り切るしかないな。その辺の調整もしてきたんだろ?」
「まぁ……」
真は先ほどのジャックとの話し合いの内容を共有した。カイにはよくわからない部分も多かったが、重要そうなのでひとまず頭に入れておく。
「あ、そうそう、リンが担当するお嬢様の側にレイをつけるから」
思い出したようにジーノが言った。
「マジかよ」
真が眉をひそめる。
「レイって誰っすか?」
聞いたことがあるようなないような名前にカイが反応すると、ミラー越しに真と目が合った。
「こいつの妹だよ。ゴリラ並みに凶暴な」
「えーまさかぁ……」
ジーノの妹ならきっと優しい美女だろう。いや、ゴリラ並みに強い美女もそれはそれで惹かれるが。
「さすがにこの状況でリン一人に任せられないし、当初予定してたアインツの警備体制は頼りないからな。役員の身内を危険に晒すわけにはいかないだろ? それになんだかんだ、女の子のガードは同性のほうが都合いいからな」
「うわお前それセクハラだぞキモ」
「お前の思考の方がキモいからな」
「てかお前、家どうすんだ?」
唐突に真に声をかけられ、カイは鏡に映る彼を見た。
「え?」
「アパート吹っ飛んだだろうが」
「あー!」
そうだった。忘れていたが今朝、カイのアパートもテロの被害にあったのだった。
「マジ? うわお前あんなとこ泊まってたのかよ。ボロすぎて誰も住んでないぞあの社宅」
「そうだったんすか?」
通りで人が生活している気配がしないはずだ。シャワーは水だし雨漏りはするし、浮浪者や柄の悪い若者の溜まり場、果てはヤリ部屋として使われている節すらあった。自分はそんな場所を寝床としてあてがわれていたのか。
「かわいそうに。もっとまともなとこ住まわせてやれよ。うちに来るか? 部屋は死ぬほど余ってるし」
ジーノから優しい言葉がかけられる。本当にこの人はイケメン……
「だめだ」
うっとりしていたカイを真の厳しい声が現実に引き戻す。
「でも家がなくなちゃ困るだろ?」
「だからってカンドレーヴァに置く必要がなんである」
「じゃあどうすんだよ」
しばし考えていた真はポケットに手を入れ、取り出した物をカイに渡した。
「これ……」
どう見てもカードキーだ。
「仕方ねぇから俺の家を使わせてやる」
「い、いいんすか?」
「汚したら殺すからな」
「は、はい! ありがとうございます!」
この展開は予想していなかった。まさか真が部屋に泊めてくれるなんて。彼の隣でジーノも驚いている様子だ。
「ほんとに何者だよ、お前」
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