ねむれない蛇

佐々

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おさない凶器

#13

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「あーだるかったなー」
 帰りの車の中でネクタイを緩めながら真が言った。
 行きと同じく運転はカイが務めた。上司とカンドレーヴァのボスは後部座席に座っている。来るとき道を間違えただけに、助手席に誰も居ないのは不安だった。べつに行きの道中も真の案内はあてにならず、むしろ彼のせいで到着が遅れたのだが。
「ボスの手前全部イエスで返したけど上手くいく気がしねーってか絶対無理だろ」
 真は本当にに疲れた様子で窓ガラスに頭をもたれている。昨夜あれだけ酒を飲んで睡眠もとらずに活動しているのだから当然か。その責任の一端はカイにもあるが、あえて考えないようにする。
「元々無茶な要求なんだ。それでいいんだよ」
 スマートフォンをいじりながらジーノが言った。本当にそれでいいのか? カイは疑問に思った。
「あ、ユーリの奴、リンと飯食いに行ったみたいだぞ」
「マジで?」
 勢いよく姿勢を戻した真がジーノのスマートフォンを覗き込む。
「うっわマジだ! やばすぎ超熱いじゃん。ちょっと貸せよいいね押すから」
「は? 嫌だよ。なんでなんの面白みもない飯の写真にいいねしなきゃなんねーんだよ」
「バカお前ボスの投稿は全部押すだろ!」
「押さねーよ」
「忠誠心の足りない奴だな。カイ! お前は押せよ!」
「えっ、あ、何をですか?」
「SNSだよ! ボスの投稿は全部いいね押せって言ってんの! ていうかお前ちゃんとフォローしてんだろうな?」
 ミラー越しに睨まれカイはうろたえた。わざわざ日本語で言い直してくれるほど大事なことだったのか。
「す、すぐにフォローさせて頂きます!」
「は? てめーやってなかったのかよ。マジありえないな」
「申し訳ありません!」
「お前らなんか軍隊みたいだな」
 ジーノが笑う。
「お前は黙っていいねを押せ」
「お、リンと一緒の写真も上がってる」
「マジで? その写真送ってくんね? 待ち受けにするわ」
「お前ほんとすごいな」
 呆れ顔のジーノはそれでもちゃんと写真を送っているようだ。
「昨日のドロップの件、ユーリはまだアインツには伏せてるらしいな」
「そうだな。なんでか知らんけど。まぁボスのお考えに間違いはないけど」
「お前はどう思う?」
「何が? ボスの計画を俺らが読めるわけないだろ。考えるだけ時間の無駄だって」
「俺は自分の部下にはちゃんと俺の考えを理解してほしいけどな」
「そんなんだからお前は先代を超えられねぇんだよ」
 冷静な指摘にジーノの顔が曇る。しかし彼は真のように声を荒げたり胸倉を掴んだりすることはない。ただ黙ってスマートフォンのカメラを真に向け、窓枠に頬杖を突く彼の横顔を撮影した。シャッターの音に気づいた真がジーノを睨む。
「なんだよ、勝手に撮るな」
「リンに送ってやろうと思って」
「チェックするから貸せ」
 ジーノからスマートフォンを奪った真が写真を確認する。
「隈のせいで目つき悪く見えるなぁ……イケメンだからいいけど」
「お前なんなの? タレント気取り? あと目つき悪いのは元々だぞ?」
「せめて俳優って言えよ」
「俺にもその写真送ってください!」
 カイは運転席から必死に要求した。
「いいけど、お前ほんとシンのこと好きだな」
「へへ、だって……」
「カイ、てめー余計なこと言ったらぶっ殺すからな」
 真の目は本気だ。カイは大人しく口をつぐんだ。
「話変わるんだけど、連中との打ち合わせはどうだったんだ?」
 当初の宣言通り、真の写真を彼の弟に送信しながらジーノがきいた。ほぼ同時にカイのスマートフォンも振動する。自分にも写真を送ってくれたらしい。カイの今日のハイライトはジーノとの写真撮影と、連絡先の交換を果たしたことだ。
「アインツが用意したPMCの連中か? どうもこうも……」
 真の言葉でカイは数時間前に会った男たちを思い出した。カーゴパンツにポロシャツという一見、民間人と変わらない服装の彼らはM4とグロックで武装した軍事会社の人間だった。
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