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おさない凶器
#03
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「シンさーん! 寝ないで! もうちょっとだから頑張ってくださーい!」
送迎で何度か訪れたことのある真のマンションは、当たり前だが自分の住んでいるアパートとは比べものにならない広さだった。
「んーむりー……」
カイは自分よりだいぶ上背のある上司を支え、半ば引きずるように、時折バランスを崩した彼に引きずられるようにしながらどうにか真の部屋の前までたどり着いた。
「シンさん! 鍵! 手貸してください!」
エントランスを解除した時と同様に、生体認証でロックされる扉に真の手を触れさせる。
「やべーマジ疲れたー!」
ドアを開けたところで力尽き、カイはその場にへたり込んだ。酔っ払いの上司はその間もなぜか自分の首に腕を回したままだ。
「シンさん! 離して! 俺帰るよ!」
「えー……やだ……」
「やだって……キャラ違いすぎでしょ! 誰と間違えてるんすか?」
聞いてみても上司からの返事はない。
「はー……どうすっかな……」
ため息をつき、ドアに寄りかかって天井を仰ぐ。このまま彼を放置して帰ってもいいのだが、というか彼を自宅まで送り届けた時点で自分の仕事は終了していると思うのだが、いまいちすっきりしない。珍しく泥酔したという真を車に運び、帰り際、ユーリにも「シンをよろしくね」と頼まれ、時間外手当までもらってしまったからだろうか。いやでもそれでも十分だろう。やっぱり帰ろう!
回された腕を持ち上げ、下からくぐるようにして抜け出す。支えを失った真はそのまま玄関に倒れこんだ。気にしていたらきりがない。ドアを開けて外に出ようとしたときだ。
「きもちわるい……」
冷たい床に倒れた真が青白い顔で呻いている。
「勘弁してくれよ……シンさん! 起きて! トイレ行くよ!」
真を引き起こし、だいぶ形が崩れている高そうなネクタイを引き抜く。ついでにシャツのボタンもいくつか外し、背広も脱がしてやって手洗いを目指す。
「トイレ……トイレどこだよ!」
目につく部屋の扉を片っ端から開けてようやくたどり着く。海外だから当然のようにユニットバスだが高級マンションだけあってそれぞれのスペースがかなり広い。
「いいなー……じゃなくて、シンさん、トイレついたよ。吐ける?」
便器に顔を突っ込みそうな彼の上半身を支えてやると、勢いよく戻し始めた。嘔吐の反射で痙攣する薄い背中をさする。しばらくしてもう出るものもなくなったのか、再びぐったりしだした真を支えて洗面所に向かう。無理やり口をゆすがせて、それから寝室へ連れて行き、どうにかベッドに寝かせた。
「か、勘弁してくれ……」
酔っ払いの介護は慣れているが、アストリアに来てまでこんな目にあうなんて。
確かに真はかなり飲まされているようだったが、もっと早い段階でセーブしておけばこんな事態にはならなかったのではないかと思わずにはいられない。
これで本当にフィオーレの幹部? 元殺し屋? ここに来て色々耳にした彼についての噂の真偽が怪しくなってきた。
上品な顔をしているくせに、この酒癖の悪さはなんだ。
寝顔をガン見していたら真が目を開けた。
「お前なにやってんの……」
この後に及んでそんなことを言うのかこいつは。
「何言ってんすか。ここまで介護させといて。服、脱がないと皺になりますよ?」
「あー……」
真はまだ意識が朦朧としているらしい。寝返りを打ち、仰向けの体勢のままボタンを外そうとしている。そしてどうにか全部外し終えたところで再び意識を失った。
「おい! 脱がせるぞもう!」
シャツを開いてやけに白い体をひっくり返しながら袖を抜く。ベルトも外してスラックスも脱がせてやった。パンイチの真は早くも寝息を立て始めている。
ため息をついて服を手近なハンガーにかける。ついでに玄関に置きっ放しだったネクタイとジャケットも回収した。
「疲れたから俺もここで寝かしてもらいますよ」
一応断って真の隣に潜り込む。少し迷ったがカイも上着とスラックスを脱いだ。
目を閉じてもなかなか眠気はやってこない。酒は飲んでいないが色々ありすぎて頭が冴えてしまっていた。
無理やりにでも少し休まなければ、明日辛くなる。そう思い再び目を閉じると、寝相の悪い真がタオルケットを払いのけ、伸ばした腕でカイを引き寄せた。
「なっ……」
声を上げる間もなく腕の中に抱え込まれる。白くてすべすべの肌に顔が押し付けられる。
「ちょっ、シンさん?」
「リン……」
寝ぼけているらしい真はカイを抱きながら、弟の名を呟いた。
「ちょっと! おい、起きろ! たち悪いぞあんた!」
一体弟とどういう関係なんだ? 血は繋がっていないと聞くが、単なる兄弟以上の何かがあるのか?
カイを抱きしめる腕に力がこもる。脚まで絡めてくる。
「おいおいおいマジかよ」
カイは辟易しながらも少し興奮している自分に気づいた。なんだこれ。あのシンが、鬼のように強く、美しく人を殺めるシンがよもやこんな一面をもっているなんて、誰が想像できただろうか。
「え、何これ誘われてる? そういう感じ?」
だったらカイもやぶさかではない。日頃さんざんこき使われ(実際はそうでもないが)、暴言を吐かれ(これは本当だ)、足蹴にされている(これも本当)、それらの恨みをここで発散してもばちは当たらないだろう。
幸いというかなんというか、カイは一時期ゲイ専門の風俗に通っていたことがあった。キャバクラの黒服として働いていた頃、店の女の子に手を出したらまずいから男にしか興奮しない体になりたいという頭のおかしい先輩に連れられて、半ば冷やかしで入ったのがきっかけで、見事にはまった。
小柄で童顔の容姿が災いして(実際に若かったが)、女役だと思われることが多かったが、そちらは全然だめだった。一見普通の、顔立ちの整った男を犯すのが好きだった。
三日と開けず店に通っていたのは今となっては黒歴史だし、恋愛対象は変わらず女の子だが、あの時の快感は未だカイの中に強烈な衝撃を残していた。
初めて真を見たとき、その時の感情が蘇ったのを覚えている。涼しげな目元や細い鼻梁や、清潔そうな白い肌を、めちゃくちゃに汚してやりたいと思った。
「シンさん、ほんとに襲っちゃうよ?」
腰に手をやって尻をなで回しても彼は抵抗しない。そればかりか体を擦り付けるようにしてくるので、カイはもう遠慮しないことにした。
送迎で何度か訪れたことのある真のマンションは、当たり前だが自分の住んでいるアパートとは比べものにならない広さだった。
「んーむりー……」
カイは自分よりだいぶ上背のある上司を支え、半ば引きずるように、時折バランスを崩した彼に引きずられるようにしながらどうにか真の部屋の前までたどり着いた。
「シンさん! 鍵! 手貸してください!」
エントランスを解除した時と同様に、生体認証でロックされる扉に真の手を触れさせる。
「やべーマジ疲れたー!」
ドアを開けたところで力尽き、カイはその場にへたり込んだ。酔っ払いの上司はその間もなぜか自分の首に腕を回したままだ。
「シンさん! 離して! 俺帰るよ!」
「えー……やだ……」
「やだって……キャラ違いすぎでしょ! 誰と間違えてるんすか?」
聞いてみても上司からの返事はない。
「はー……どうすっかな……」
ため息をつき、ドアに寄りかかって天井を仰ぐ。このまま彼を放置して帰ってもいいのだが、というか彼を自宅まで送り届けた時点で自分の仕事は終了していると思うのだが、いまいちすっきりしない。珍しく泥酔したという真を車に運び、帰り際、ユーリにも「シンをよろしくね」と頼まれ、時間外手当までもらってしまったからだろうか。いやでもそれでも十分だろう。やっぱり帰ろう!
回された腕を持ち上げ、下からくぐるようにして抜け出す。支えを失った真はそのまま玄関に倒れこんだ。気にしていたらきりがない。ドアを開けて外に出ようとしたときだ。
「きもちわるい……」
冷たい床に倒れた真が青白い顔で呻いている。
「勘弁してくれよ……シンさん! 起きて! トイレ行くよ!」
真を引き起こし、だいぶ形が崩れている高そうなネクタイを引き抜く。ついでにシャツのボタンもいくつか外し、背広も脱がしてやって手洗いを目指す。
「トイレ……トイレどこだよ!」
目につく部屋の扉を片っ端から開けてようやくたどり着く。海外だから当然のようにユニットバスだが高級マンションだけあってそれぞれのスペースがかなり広い。
「いいなー……じゃなくて、シンさん、トイレついたよ。吐ける?」
便器に顔を突っ込みそうな彼の上半身を支えてやると、勢いよく戻し始めた。嘔吐の反射で痙攣する薄い背中をさする。しばらくしてもう出るものもなくなったのか、再びぐったりしだした真を支えて洗面所に向かう。無理やり口をゆすがせて、それから寝室へ連れて行き、どうにかベッドに寝かせた。
「か、勘弁してくれ……」
酔っ払いの介護は慣れているが、アストリアに来てまでこんな目にあうなんて。
確かに真はかなり飲まされているようだったが、もっと早い段階でセーブしておけばこんな事態にはならなかったのではないかと思わずにはいられない。
これで本当にフィオーレの幹部? 元殺し屋? ここに来て色々耳にした彼についての噂の真偽が怪しくなってきた。
上品な顔をしているくせに、この酒癖の悪さはなんだ。
寝顔をガン見していたら真が目を開けた。
「お前なにやってんの……」
この後に及んでそんなことを言うのかこいつは。
「何言ってんすか。ここまで介護させといて。服、脱がないと皺になりますよ?」
「あー……」
真はまだ意識が朦朧としているらしい。寝返りを打ち、仰向けの体勢のままボタンを外そうとしている。そしてどうにか全部外し終えたところで再び意識を失った。
「おい! 脱がせるぞもう!」
シャツを開いてやけに白い体をひっくり返しながら袖を抜く。ベルトも外してスラックスも脱がせてやった。パンイチの真は早くも寝息を立て始めている。
ため息をついて服を手近なハンガーにかける。ついでに玄関に置きっ放しだったネクタイとジャケットも回収した。
「疲れたから俺もここで寝かしてもらいますよ」
一応断って真の隣に潜り込む。少し迷ったがカイも上着とスラックスを脱いだ。
目を閉じてもなかなか眠気はやってこない。酒は飲んでいないが色々ありすぎて頭が冴えてしまっていた。
無理やりにでも少し休まなければ、明日辛くなる。そう思い再び目を閉じると、寝相の悪い真がタオルケットを払いのけ、伸ばした腕でカイを引き寄せた。
「なっ……」
声を上げる間もなく腕の中に抱え込まれる。白くてすべすべの肌に顔が押し付けられる。
「ちょっ、シンさん?」
「リン……」
寝ぼけているらしい真はカイを抱きながら、弟の名を呟いた。
「ちょっと! おい、起きろ! たち悪いぞあんた!」
一体弟とどういう関係なんだ? 血は繋がっていないと聞くが、単なる兄弟以上の何かがあるのか?
カイを抱きしめる腕に力がこもる。脚まで絡めてくる。
「おいおいおいマジかよ」
カイは辟易しながらも少し興奮している自分に気づいた。なんだこれ。あのシンが、鬼のように強く、美しく人を殺めるシンがよもやこんな一面をもっているなんて、誰が想像できただろうか。
「え、何これ誘われてる? そういう感じ?」
だったらカイもやぶさかではない。日頃さんざんこき使われ(実際はそうでもないが)、暴言を吐かれ(これは本当だ)、足蹴にされている(これも本当)、それらの恨みをここで発散してもばちは当たらないだろう。
幸いというかなんというか、カイは一時期ゲイ専門の風俗に通っていたことがあった。キャバクラの黒服として働いていた頃、店の女の子に手を出したらまずいから男にしか興奮しない体になりたいという頭のおかしい先輩に連れられて、半ば冷やかしで入ったのがきっかけで、見事にはまった。
小柄で童顔の容姿が災いして(実際に若かったが)、女役だと思われることが多かったが、そちらは全然だめだった。一見普通の、顔立ちの整った男を犯すのが好きだった。
三日と開けず店に通っていたのは今となっては黒歴史だし、恋愛対象は変わらず女の子だが、あの時の快感は未だカイの中に強烈な衝撃を残していた。
初めて真を見たとき、その時の感情が蘇ったのを覚えている。涼しげな目元や細い鼻梁や、清潔そうな白い肌を、めちゃくちゃに汚してやりたいと思った。
「シンさん、ほんとに襲っちゃうよ?」
腰に手をやって尻をなで回しても彼は抵抗しない。そればかりか体を擦り付けるようにしてくるので、カイはもう遠慮しないことにした。
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