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鈍色の街
#03
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結局無駄な買い物をさせられた。自分の買い物はあんなに即決していたくせに、凛太朗は様々な商品を見比べては店員とクラウディオの理解できない話で盛り上がり、一つのバッグを買うのに小一時間の時間を費やしていた。
「お前なんなんだよ……」
なんで女の靴や服にそんなに詳しいんだ。なんで自分の買い物より楽しそうなんだ。
「奥さんにいいお土産ができてよかったじゃん。プレゼントなんて誕生日くらいしかあげないんだろ?」
「人聞き悪いこと言うな! 俺はいつも妻に愛を伝えてだな……」
「口だけじゃ伝わらないって。相手の好意にあぐらかいて何も行動しないと捨てられるよ?」
「大きなお世話だ!」
なんで子供にそんなこと言われなきゃならないんだ! そう思いつつ、無邪気に笑う凛太朗を見ていると怒る気も失せてしまった。
ちょうど昼時だったので昼食をとってから仕事に向かうことにした。
凛太朗にはせっかくならアストリアの伝統的な料理を食べてほしいと思ったがそんなにゆっくりしている時間があるわけでもないのでいつものようにバールに入った。席につけるくらいの余裕があったのが幸いだ。
凛太朗はパスタと魚、野菜がのったプレートを、クラウディオはラザニアを頼んだ。
「日本では昼食に何を食べるんだ?」
凛太朗は予想以上にボリュームのある皿の中身に少々気後れしている様子だった。日本のランチについて尋ねながら、クラウディオは食べるのを手伝わないぞと、心に決めた。こいつはもっと食ったほうがいい。
「和洋中華、色々だよ。なんでもある」
「リンはどうしてるんだ?」
「俺は学校があるから、食堂で定食かうどんかな」
「うどん?」
「ああ、麺だよ。ラーメンより太い」
「そばとは違うのか?」
「蕎麦は蕎麦粉、うどんは小麦粉で作る。ていうか蕎麦は知ってるんだ?」
「ドン・フィオーレが日本贔屓でな、たまに会食が和食の店のことがある。他にも知ってるぞ。すし、すきやき、おにぎり、俺はてんぷらが好きだな」
「へえ、和食の店もあるんだ。俺も食べてみたい。今度連れてってよ」
「簡単に言うなよ。こっちで日本食は高級なんだ。ボスかシンに頼みなさい」
「ちぇーあんたと行きたかったのに」
子供の気まぐれな一言でクラウディオの心は簡単に揺れた。なんなんだこいつは。生意気なガキだと思ったら愛嬌もあるし、どことなく漂う寂しげな雰囲気が放っておけない気分にさせる。
「あーなんだ、レストランは無理だが、今度うちに飯食いにくるか?」
「え?」
「自慢じゃないがうちの奥さんは料理がうまい。郷土料理を食わせてやるぞ」
てっきり喜ぶと思ったのに、凛太朗は微妙な表情を浮かべていた。
「なんだよ、嫌なのか?」
「嫌じゃないけど……」
「またトレーニングか? 一晩くらいサボったって怒られやしねえだろ」
「まあ……ただ、いきなりお邪魔するのはちょっと、気まずいっていうか」
凛太朗は恥ずかしそうに少し笑う。本音はそこか。
「なーに遠慮してんだ! 子供がいらん気をつかうなって! 娘も遊び相手がいると喜ぶからよ!」
「えーでも娘さんの恋人候補が増えちゃうよ?」
「なんでそうなる! ボスといいお前といい、娘は誰にもやらないからな!」
「お前なんなんだよ……」
なんで女の靴や服にそんなに詳しいんだ。なんで自分の買い物より楽しそうなんだ。
「奥さんにいいお土産ができてよかったじゃん。プレゼントなんて誕生日くらいしかあげないんだろ?」
「人聞き悪いこと言うな! 俺はいつも妻に愛を伝えてだな……」
「口だけじゃ伝わらないって。相手の好意にあぐらかいて何も行動しないと捨てられるよ?」
「大きなお世話だ!」
なんで子供にそんなこと言われなきゃならないんだ! そう思いつつ、無邪気に笑う凛太朗を見ていると怒る気も失せてしまった。
ちょうど昼時だったので昼食をとってから仕事に向かうことにした。
凛太朗にはせっかくならアストリアの伝統的な料理を食べてほしいと思ったがそんなにゆっくりしている時間があるわけでもないのでいつものようにバールに入った。席につけるくらいの余裕があったのが幸いだ。
凛太朗はパスタと魚、野菜がのったプレートを、クラウディオはラザニアを頼んだ。
「日本では昼食に何を食べるんだ?」
凛太朗は予想以上にボリュームのある皿の中身に少々気後れしている様子だった。日本のランチについて尋ねながら、クラウディオは食べるのを手伝わないぞと、心に決めた。こいつはもっと食ったほうがいい。
「和洋中華、色々だよ。なんでもある」
「リンはどうしてるんだ?」
「俺は学校があるから、食堂で定食かうどんかな」
「うどん?」
「ああ、麺だよ。ラーメンより太い」
「そばとは違うのか?」
「蕎麦は蕎麦粉、うどんは小麦粉で作る。ていうか蕎麦は知ってるんだ?」
「ドン・フィオーレが日本贔屓でな、たまに会食が和食の店のことがある。他にも知ってるぞ。すし、すきやき、おにぎり、俺はてんぷらが好きだな」
「へえ、和食の店もあるんだ。俺も食べてみたい。今度連れてってよ」
「簡単に言うなよ。こっちで日本食は高級なんだ。ボスかシンに頼みなさい」
「ちぇーあんたと行きたかったのに」
子供の気まぐれな一言でクラウディオの心は簡単に揺れた。なんなんだこいつは。生意気なガキだと思ったら愛嬌もあるし、どことなく漂う寂しげな雰囲気が放っておけない気分にさせる。
「あーなんだ、レストランは無理だが、今度うちに飯食いにくるか?」
「え?」
「自慢じゃないがうちの奥さんは料理がうまい。郷土料理を食わせてやるぞ」
てっきり喜ぶと思ったのに、凛太朗は微妙な表情を浮かべていた。
「なんだよ、嫌なのか?」
「嫌じゃないけど……」
「またトレーニングか? 一晩くらいサボったって怒られやしねえだろ」
「まあ……ただ、いきなりお邪魔するのはちょっと、気まずいっていうか」
凛太朗は恥ずかしそうに少し笑う。本音はそこか。
「なーに遠慮してんだ! 子供がいらん気をつかうなって! 娘も遊び相手がいると喜ぶからよ!」
「えーでも娘さんの恋人候補が増えちゃうよ?」
「なんでそうなる! ボスといいお前といい、娘は誰にもやらないからな!」
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