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美しい思い出
#11
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※前半に暴力や残酷な描写がありますのでご注意ください
あの時の姉の姿が、いまだに夢に出る。
美しかった顔は殴られて変形し、白い肌は痣だらけで、切れ長の瞳の片方は抉り出され、そこに男の性器が突っ込まれていた。男は姉の髪を鷲掴みにし、頭を乱暴に振り回して姉の眼窩を犯していた。
地面に伏せた姉の背後ではまた別の男が彼女を陵辱していた。下品に野次る男たちの会話から、それが性器ではなく肛門であることがわかったが、最早その区別など不要なほど、彼女の体は破壊しつくされていた。
血と、涙と、吐瀉物にまみれながら、姉は何人もの男たちに犯され、生きながらにして体を痛めつけられ、自ら死を懇願するまでになっていた。男たちはそんな姉の姿を嘲笑い、彼女の肌にまた新たな傷を刻もうとしていた。
凛太郎はその様子を物陰から眺めていた。
今すぐここから飛び出して姉を助けに行かなければならない。これ以上彼女を傷つけさせてはいけない。これ以上汚される姉の姿を見たくない。
頭の中には色々な言葉が浮かぶのに、凛太郎の足は動かなかった。姉を助けなければと思うのに、それより大きく凛太郎の頭を一杯に占めていたのは恐怖だった。
自分と同じ人間であるはずの男たちの所業が理解できない。同じ人間にあんなことができるなんて信じられない。いや、信じたくない。
辛うじてまだ息のある姉は、男たちの手で無残に破壊されていく。あそこに自分が行ったらどうなる? 姉のように長い長い時間をかけてゆっくり体と心を破壊されるのだろうか。もしかしたら彼女よりも酷い仕打ちを受けるかもしれない。あのナイフで肌を切り裂かれ、腹わたを引きずり出されるのかもしれない。
怒りと憎しみと恐怖がないまぜになって凛太郎の中に渦巻いていた。頭痛や吐き気も酷かった。既に何度か嘔吐していたため最早出るものはなく、口から出たのは胃液だけだった。
俺には無理だ。俺には姉さんを助けられない。死の恐怖に怯えて姉を助けることができずにいるくせに、凛太郎はいっそ俺も殺してくれと矛盾したことを思うのだった。
最終的に姉を助けだしたのは兄の真だった。正確には助けたわけでない。姉は死んだ。それも、彼女を殺したのは真だ。彼にとっては実の妹である凛太郎の姉を、真は凛太郎の目の前で撃ち殺した。
「もう手遅れだった」
真は言った。
「殺してくれと、彼女が俺に頼んだんだ」
だから殺したのか。なぜそんなことができるのか凛太郎には理解できなかった。目の前に居る男が、先ほどまで姉を陵辱していた男たちと同じ種類の生き物であるように感じられた。
「あんたはおかしい……」
認めたくなかった。こんな男が義理とはいえ、自分の兄だなんて認めたくなかった。
「ああ、そうだな。でもそれでいい。じゃないと彼女を救ってやれない」
「救えてねえだろ!」
「間に合わなかったんだよ!」
初めて声を荒げた兄の顔の悲痛さに、無性に腹が立った。思わず真の胸ぐらを掴む。
「お前が殺したくせに! そんな顔するくらいならなんで姉さんを殺したんだよ! なんで姉さんがこんな目にあわなきゃならないんだよ!」
真は何も言わない。
「答えろよ! あんた一体なにやってんだよ! こいつらはなんなんだよ!」
「お前には関係ない」
静かに放たれた言葉に、凛太朗は頭に血がのぼるのを感じた。衝動のまま右手を振り上げ、真を殴った。避けようと思えば避けられたはずなのに、彼はわざと拳を受けたように見えた。
「馬鹿にしてんのか? これで許されるとでも思ってんの?」
「そんな訳ないだろ」
「だったら答えろよ!」
彼は先ほどまでとは打って変わって無表情だった。怒りも、悲しみも、ほかのどんな感情も読み取れない。そればかりか真はふと顔を緩めた。
「お前はどうしたいんだ?」
真は地面に落ちていたナイフを拾い、血と脂にまみれたそれをハンカチで拭った。
「俺を殺したいならそうすればいい。俺はお前の家族を奪った。お前には俺を殺す権利がある」
差し出されたナイフには拭い切れない汚れがこびりついていた。凛太朗はそれを受け取り、鈍く光る刃を見つめた。
「あんたを殺して、それで姉さんが生き返るのかよ」
ナイフを握る手に力がこもる。
「それで姉さんが帰ってくんのかよ! なら喜んで殺してやるよ! でも無理だろ! わかってんだよ! 姉さんは死んだんだよ!」
そうだ、姉は死んだ。自分が一番愛した女性はもう、この世にいないのだ。
「だったら俺は、姉さんをこんな目にあわせた連中を、一人残らず殺してやる。こいつらの仲間も、それを指示した奴らも、全員この手で殺してやる!」
真に詰め寄り、再び彼のスーツの襟を掴む。
「教えろよ。こいつらの他にも仲間がいるんだろ? どこにいるのか教えろよ!」
真は優しく凛太朗の涙をぬぐい、哀れむような顔で笑った。
「お前には無理だよ」
そして優しく重ねられた唇の温かさを今でも忘れられずにいる。
あの時の姉の姿が、いまだに夢に出る。
美しかった顔は殴られて変形し、白い肌は痣だらけで、切れ長の瞳の片方は抉り出され、そこに男の性器が突っ込まれていた。男は姉の髪を鷲掴みにし、頭を乱暴に振り回して姉の眼窩を犯していた。
地面に伏せた姉の背後ではまた別の男が彼女を陵辱していた。下品に野次る男たちの会話から、それが性器ではなく肛門であることがわかったが、最早その区別など不要なほど、彼女の体は破壊しつくされていた。
血と、涙と、吐瀉物にまみれながら、姉は何人もの男たちに犯され、生きながらにして体を痛めつけられ、自ら死を懇願するまでになっていた。男たちはそんな姉の姿を嘲笑い、彼女の肌にまた新たな傷を刻もうとしていた。
凛太郎はその様子を物陰から眺めていた。
今すぐここから飛び出して姉を助けに行かなければならない。これ以上彼女を傷つけさせてはいけない。これ以上汚される姉の姿を見たくない。
頭の中には色々な言葉が浮かぶのに、凛太郎の足は動かなかった。姉を助けなければと思うのに、それより大きく凛太郎の頭を一杯に占めていたのは恐怖だった。
自分と同じ人間であるはずの男たちの所業が理解できない。同じ人間にあんなことができるなんて信じられない。いや、信じたくない。
辛うじてまだ息のある姉は、男たちの手で無残に破壊されていく。あそこに自分が行ったらどうなる? 姉のように長い長い時間をかけてゆっくり体と心を破壊されるのだろうか。もしかしたら彼女よりも酷い仕打ちを受けるかもしれない。あのナイフで肌を切り裂かれ、腹わたを引きずり出されるのかもしれない。
怒りと憎しみと恐怖がないまぜになって凛太郎の中に渦巻いていた。頭痛や吐き気も酷かった。既に何度か嘔吐していたため最早出るものはなく、口から出たのは胃液だけだった。
俺には無理だ。俺には姉さんを助けられない。死の恐怖に怯えて姉を助けることができずにいるくせに、凛太郎はいっそ俺も殺してくれと矛盾したことを思うのだった。
最終的に姉を助けだしたのは兄の真だった。正確には助けたわけでない。姉は死んだ。それも、彼女を殺したのは真だ。彼にとっては実の妹である凛太郎の姉を、真は凛太郎の目の前で撃ち殺した。
「もう手遅れだった」
真は言った。
「殺してくれと、彼女が俺に頼んだんだ」
だから殺したのか。なぜそんなことができるのか凛太郎には理解できなかった。目の前に居る男が、先ほどまで姉を陵辱していた男たちと同じ種類の生き物であるように感じられた。
「あんたはおかしい……」
認めたくなかった。こんな男が義理とはいえ、自分の兄だなんて認めたくなかった。
「ああ、そうだな。でもそれでいい。じゃないと彼女を救ってやれない」
「救えてねえだろ!」
「間に合わなかったんだよ!」
初めて声を荒げた兄の顔の悲痛さに、無性に腹が立った。思わず真の胸ぐらを掴む。
「お前が殺したくせに! そんな顔するくらいならなんで姉さんを殺したんだよ! なんで姉さんがこんな目にあわなきゃならないんだよ!」
真は何も言わない。
「答えろよ! あんた一体なにやってんだよ! こいつらはなんなんだよ!」
「お前には関係ない」
静かに放たれた言葉に、凛太朗は頭に血がのぼるのを感じた。衝動のまま右手を振り上げ、真を殴った。避けようと思えば避けられたはずなのに、彼はわざと拳を受けたように見えた。
「馬鹿にしてんのか? これで許されるとでも思ってんの?」
「そんな訳ないだろ」
「だったら答えろよ!」
彼は先ほどまでとは打って変わって無表情だった。怒りも、悲しみも、ほかのどんな感情も読み取れない。そればかりか真はふと顔を緩めた。
「お前はどうしたいんだ?」
真は地面に落ちていたナイフを拾い、血と脂にまみれたそれをハンカチで拭った。
「俺を殺したいならそうすればいい。俺はお前の家族を奪った。お前には俺を殺す権利がある」
差し出されたナイフには拭い切れない汚れがこびりついていた。凛太朗はそれを受け取り、鈍く光る刃を見つめた。
「あんたを殺して、それで姉さんが生き返るのかよ」
ナイフを握る手に力がこもる。
「それで姉さんが帰ってくんのかよ! なら喜んで殺してやるよ! でも無理だろ! わかってんだよ! 姉さんは死んだんだよ!」
そうだ、姉は死んだ。自分が一番愛した女性はもう、この世にいないのだ。
「だったら俺は、姉さんをこんな目にあわせた連中を、一人残らず殺してやる。こいつらの仲間も、それを指示した奴らも、全員この手で殺してやる!」
真に詰め寄り、再び彼のスーツの襟を掴む。
「教えろよ。こいつらの他にも仲間がいるんだろ? どこにいるのか教えろよ!」
真は優しく凛太朗の涙をぬぐい、哀れむような顔で笑った。
「お前には無理だよ」
そして優しく重ねられた唇の温かさを今でも忘れられずにいる。
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