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美しい思い出
#04
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美玲たちと別れて凛太朗は真に言われるがままスーツを作った。買ってやると言っていたくせに生地もシルエットも全て真が決め、フルオーダーの内容に凛太朗が口を挟む余地はなかった。せめてネクタイくらいは自分で選びたいと凛太朗が思っていると、これも真が俺のを貸すからとさっさと店を連れ出された。
その後も真は凛太朗を無視してどこかへ電話をかけ続け、よくわからない話をしていたかと思うとカフェでコーヒーと軽食を買ってさっさと車に乗り込んだ。
「ふー……やっと煙草が吸える」
仕事用のスマートフォンをポケットにしまった真はシートベルトを締め、エンジンをかけながら煙草をくわえた。
「リン、コーヒーくれ」
凛太朗はコーヒーの入ったカップを真に渡しながら彼を睨みつけた。
「今日こそは説明してもらうぞ」
「何を?」
窓を開けた真は煙草に火をつけ、平然と車を発進させる。
「とぼけんなよ! なんで俺があいつの護衛をしなきゃならないわけ?」
「お前だってさっき、頑張ります! って言ってたじゃん。お兄ちゃん嬉しかったなー、リンが大人になって」
「あの状況で他にどう言えばよかったんだよ!」
「俺の立場を考えてくれたんだろ? ありがとな」
頭をなでようと伸ばされた手をはたき落とす。
「俺がききたいのはそんな話じゃない」
真はコーヒーのカップに口をつけるとそれをホルダーに置き、指に挟んだままの煙草を口元に運んだ。
「いい機会だと思ったんだ。今日会った柳田の会社、お前も知ってるだろ?」
「アインツグループ……」
「そう。柳田はその日本支部のお偉いさんだ。フィオーレは昔からアインツとその、簡単に言うと仲良くしてる」
「スポンサー的な?」
「厳密に言うと違うが、色々な形で援助してもらってるのは確かだ。フィオーレは表の仕事も色々やってて、国内外にホテルやカジノ、飲食店なんかも展開してる。そういう時に資金を提供してくれるのがアインツを始めとした大企業の皆さんだ」
「見返りは?」
「大企業ってのは敵が多い。新しい場所で新しい事をするにはトラブルを避けられない。合法的な手段ばかり踏んでいたら他に遅れをとるかもしれない。彼らが常に最前を歩めるように道を平すのが俺たちの仕事だ」
「汚れ役を押し付けられてるだけじゃないか」
「違う。利用してるんだよ。あいつらは色んな所と癒着してる。国、マスコミ、警察。俺たちはそれを利用する。例えばこの間、お前が拉致された時、その情報を優先的に回してもらったり、マスコミや警察を抑えたのも奴らの力があってこそだ。ま、全部が全部思い通りにはいかないけどな」
凛太朗は紙袋を漁って自分の飲み物を取り出した。
「で、俺をどうする気なの?」
真は凛太朗を一瞥すると、すぐに視線を進行方向に戻した。
「お前をフィオーレの幹部にする」
「は?」
コーヒーを吹き出しそうになった。
「なんだよそれ……」
平然とそんなことを口にする兄が、凛太朗は信じられなかった。同時に怒りがこみ上げてきた。今までずっと我慢してきた感情が爆発しそうになる。
「なんで今更そんなこと言うんだよ……」
冷静を装って言うと真は少し笑った。
「混乱するのも無理ないな。ききたいことがあるならなんでもきけよ。今日はなんでも答えてやる」
凛太朗は拳を握りしめた。真が運転中でなければ、手のひらに爪が食い込むほど固くしたそれを兄にぶつけていただろう。
「ふざけんなよ……俺、何度もきいたよな? あんたがどこで何してるのか、何度もきいたのにいつもはぐらかされてた。突然出てったかと思えば日本にすらいねーし、俺からの電話には絶対出ねーし、自分の好きな時にだけかけてきて、俺の話ばっかさせようとするし、急ににこっちに呼ばれたと思ったらいきなりやばい奴らに拉致られるし、でもそんな奴らが一番やべーみたいに言ってるのは兄貴だし、もう何がどうなってんのかさっぱりわかんねーよ! 何やってんだよ! なんで今まで何も教えてくれなかったんだよ! なんで今さらそんなこと言うんだよ! なんで……」
感情のままに言葉をぶつけても、最後の一言を口にするするのは躊躇われた。
真は何も言わずにハンドルを握っている。整った横顔からはなんの感情も読み取れない。
凛太朗は閉じかけた唇に、一番ききたかった言葉をのせた。
「なんで、姉さんを殺したんだよ」
その後も真は凛太朗を無視してどこかへ電話をかけ続け、よくわからない話をしていたかと思うとカフェでコーヒーと軽食を買ってさっさと車に乗り込んだ。
「ふー……やっと煙草が吸える」
仕事用のスマートフォンをポケットにしまった真はシートベルトを締め、エンジンをかけながら煙草をくわえた。
「リン、コーヒーくれ」
凛太朗はコーヒーの入ったカップを真に渡しながら彼を睨みつけた。
「今日こそは説明してもらうぞ」
「何を?」
窓を開けた真は煙草に火をつけ、平然と車を発進させる。
「とぼけんなよ! なんで俺があいつの護衛をしなきゃならないわけ?」
「お前だってさっき、頑張ります! って言ってたじゃん。お兄ちゃん嬉しかったなー、リンが大人になって」
「あの状況で他にどう言えばよかったんだよ!」
「俺の立場を考えてくれたんだろ? ありがとな」
頭をなでようと伸ばされた手をはたき落とす。
「俺がききたいのはそんな話じゃない」
真はコーヒーのカップに口をつけるとそれをホルダーに置き、指に挟んだままの煙草を口元に運んだ。
「いい機会だと思ったんだ。今日会った柳田の会社、お前も知ってるだろ?」
「アインツグループ……」
「そう。柳田はその日本支部のお偉いさんだ。フィオーレは昔からアインツとその、簡単に言うと仲良くしてる」
「スポンサー的な?」
「厳密に言うと違うが、色々な形で援助してもらってるのは確かだ。フィオーレは表の仕事も色々やってて、国内外にホテルやカジノ、飲食店なんかも展開してる。そういう時に資金を提供してくれるのがアインツを始めとした大企業の皆さんだ」
「見返りは?」
「大企業ってのは敵が多い。新しい場所で新しい事をするにはトラブルを避けられない。合法的な手段ばかり踏んでいたら他に遅れをとるかもしれない。彼らが常に最前を歩めるように道を平すのが俺たちの仕事だ」
「汚れ役を押し付けられてるだけじゃないか」
「違う。利用してるんだよ。あいつらは色んな所と癒着してる。国、マスコミ、警察。俺たちはそれを利用する。例えばこの間、お前が拉致された時、その情報を優先的に回してもらったり、マスコミや警察を抑えたのも奴らの力があってこそだ。ま、全部が全部思い通りにはいかないけどな」
凛太朗は紙袋を漁って自分の飲み物を取り出した。
「で、俺をどうする気なの?」
真は凛太朗を一瞥すると、すぐに視線を進行方向に戻した。
「お前をフィオーレの幹部にする」
「は?」
コーヒーを吹き出しそうになった。
「なんだよそれ……」
平然とそんなことを口にする兄が、凛太朗は信じられなかった。同時に怒りがこみ上げてきた。今までずっと我慢してきた感情が爆発しそうになる。
「なんで今更そんなこと言うんだよ……」
冷静を装って言うと真は少し笑った。
「混乱するのも無理ないな。ききたいことがあるならなんでもきけよ。今日はなんでも答えてやる」
凛太朗は拳を握りしめた。真が運転中でなければ、手のひらに爪が食い込むほど固くしたそれを兄にぶつけていただろう。
「ふざけんなよ……俺、何度もきいたよな? あんたがどこで何してるのか、何度もきいたのにいつもはぐらかされてた。突然出てったかと思えば日本にすらいねーし、俺からの電話には絶対出ねーし、自分の好きな時にだけかけてきて、俺の話ばっかさせようとするし、急ににこっちに呼ばれたと思ったらいきなりやばい奴らに拉致られるし、でもそんな奴らが一番やべーみたいに言ってるのは兄貴だし、もう何がどうなってんのかさっぱりわかんねーよ! 何やってんだよ! なんで今まで何も教えてくれなかったんだよ! なんで今さらそんなこと言うんだよ! なんで……」
感情のままに言葉をぶつけても、最後の一言を口にするするのは躊躇われた。
真は何も言わずにハンドルを握っている。整った横顔からはなんの感情も読み取れない。
凛太朗は閉じかけた唇に、一番ききたかった言葉をのせた。
「なんで、姉さんを殺したんだよ」
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