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アストリア
#08
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今から行く。リコがその連絡を受けた時、真はひどく苛立っている様子だった。彼の最愛の弟が拉致され命の危険に晒されたという話は既にリコの耳にも入っていた。それを考えれば真の気が立っていることにも納得がいくが、恐らくそれに拍車をかけたのは電話に出たリコ自身だろう。自分はなぜか真に嫌われている。理由に思い当たる節がないでもないが、たまたま電話に出たくらいでそこまで目くじらを立てる必要があるのかと呆れた。
しばらくしてダル・カントの屋敷に着いた真は案の定不機嫌な様子でそれを隠そうともしなかった。
「お待ちしておりました」
出迎えたら舌打ちされる始末だ。儀礼的に頭を下げたリコの横を抜けて真は勝手に屋敷に入って行く。リコは彼の後を追って扉を開け、彼を中に通した。
「ダル・カントは部屋でお待ちです」
「ああ」
屋敷の主の名前を出すとそれまでの真の苛立ちに若干の緊張感が混ざるのがわかった。
「ご案内します」
「場所は知ってる」
真の主張を無視して先に立ち、屋敷の階段を登る。主の部屋の前に着くと一度振り返って真を見た。少し睨まれたのでリコは扉をノックした。
「シンがお着きです」
すぐに返事があったので扉を開けて真を中に入れる。共通の応接室とは違い、ダル・カントの私室と繫がったリビングのソファに彼は座っていた。一見するとただの初老の紳士だ。体格がいいわけでも強面なわけでもない。それでもこの優しげな風貌の男に逆らうことは許されない。自分たちは彼の恐ろしさを身を持って知っている人間の一人だろう。
「よく来たね。暑かっただろう」
ダル・カントは笑顔で真を迎えたが、真の表情は硬いままだ。ぴりぴりとした緊張がリコにも伝わってくるほどだった。
「この度は申し訳ありませんでした」
真は深々と頭を下げた。まずは謝罪。それが真の来訪の最大の目的なのだろう。真は今日、ダル・カントの仕事の予定を弟の救出のためにキャンセルした。彼の所属するフィオレーレファミリーの出資者であり、真の仕事の得意先でもあるダル・カントの依頼を延期するなど、本当はあってはならないことだ。
しかしこの男の逆鱗に触れるほどではないだろうとリコは思った。案の定、ダル・カントはすぐに真の頭を上げさせた。
「ひとまず座りなさい。リコ、彼に何か冷たいものを出してくれるか? 私には紅茶を」
「かしこまりました。失礼いたします」
リコは頭を下げて退室し、扉を閉めた。直前に真と目が合ったが、冷たい眼差しで睨まれただけだった。
しばらくしてダル・カントの屋敷に着いた真は案の定不機嫌な様子でそれを隠そうともしなかった。
「お待ちしておりました」
出迎えたら舌打ちされる始末だ。儀礼的に頭を下げたリコの横を抜けて真は勝手に屋敷に入って行く。リコは彼の後を追って扉を開け、彼を中に通した。
「ダル・カントは部屋でお待ちです」
「ああ」
屋敷の主の名前を出すとそれまでの真の苛立ちに若干の緊張感が混ざるのがわかった。
「ご案内します」
「場所は知ってる」
真の主張を無視して先に立ち、屋敷の階段を登る。主の部屋の前に着くと一度振り返って真を見た。少し睨まれたのでリコは扉をノックした。
「シンがお着きです」
すぐに返事があったので扉を開けて真を中に入れる。共通の応接室とは違い、ダル・カントの私室と繫がったリビングのソファに彼は座っていた。一見するとただの初老の紳士だ。体格がいいわけでも強面なわけでもない。それでもこの優しげな風貌の男に逆らうことは許されない。自分たちは彼の恐ろしさを身を持って知っている人間の一人だろう。
「よく来たね。暑かっただろう」
ダル・カントは笑顔で真を迎えたが、真の表情は硬いままだ。ぴりぴりとした緊張がリコにも伝わってくるほどだった。
「この度は申し訳ありませんでした」
真は深々と頭を下げた。まずは謝罪。それが真の来訪の最大の目的なのだろう。真は今日、ダル・カントの仕事の予定を弟の救出のためにキャンセルした。彼の所属するフィオレーレファミリーの出資者であり、真の仕事の得意先でもあるダル・カントの依頼を延期するなど、本当はあってはならないことだ。
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「ひとまず座りなさい。リコ、彼に何か冷たいものを出してくれるか? 私には紅茶を」
「かしこまりました。失礼いたします」
リコは頭を下げて退室し、扉を閉めた。直前に真と目が合ったが、冷たい眼差しで睨まれただけだった。
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