ねむれない蛇

佐々

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アストリア

#04

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 運転席で電話を使うと捕まるから、という理由でハンドルは真に握らせた。上品な顔に似合わず荒い運転をする男だった。
「そういうギャップもいいんだよなあ」
 伸ばした手で横顔に触れると噛みつかれそうになった。
「なんだよ、まだ怒ってんのか?」
 無理矢理キスをしたことか、それとも弟の写真を見たことだろうか。
「うるせえ! で、リンの居場所、情報はあるんだろうな」
「ああ、ユーリに感謝しろよ。警察から引っ張った情報の横流しと政府関係者への根回しまでしてくれてる」
 助手席の窓を開けて煙草に火をつけると「俺にも」と真に要求されて、ジーノは煙草の箱を揺すって一本くわえさせてやった。ついでに火もつけてやる。
「かなり目立つ場所で連れ去られたらしいからな、当たり前だけど目撃者がいた。相手はおそらく二人以上。通りに乗り付けた黒塗りのバンに押し込められていったそうだ」
「どこに」
「そこまではまだわからない。監視カメラには映像が残ってたし、車のナンバーもわかったが、解析に時間がかかるのと、その情報が下りてくるまでに更に時間がかかるのと、車は盗難車で足がつかないようになってたのと……まあ理由は色々ある」
「使えねえ……」
 真は苛立った様子でハンドルを殴りつけた。
「それでよく感謝しろなんて言えるな」
「仕方ないだろ。ここでは俺たちはいてはならない存在なんだ。P9でファミリーの関係者が事件に巻き込まれたなんて知られてみろ。P9の外ですら、俺たちの生きる場所はなくなる。その辺を上手く根回ししてマスコミへの情報規制や国のお偉方に話をつけてくれたんだから感謝こそされても恨み言を言われる筋合いはないはずだ」
「感謝するのは無事にリンが見つかってからだ。あいつにもし何かあったら……」
 最悪の結果を想像したのか、真はますます表情を曇らせた。
「何かあったとしたら、それはお前の責任でもあるだろ。こんな仕事をしておいて、身内を危険に晒したくないなんて無理な話だ」
「お前は心配じゃないのか! 自分の妹が!」
「心配だよ。でも覚悟はしてた。ファミリーを継ぐと決めた日から、ずっとな」
「そんな風に割りきって考えられるかよ」
「ならなんで弟をここに呼んだ。覚悟もないくせに、軽い気持ちでそうしたのか?」
 波立つ真の感情が手に取るようにわかる。焦りと後悔と、それでも弟に会いたい気持ちが先走ってアクセルを踏む足ばかりに力がこもる。
 ジーノは煙草を灰皿にねじ込んだ。
「まあでも、そんだけ弟が恋しかったんだろ。お前はさみしがりやだから」
「わかったふうな口をきくな」
「そういやお前の弟、あんまりお前に似てないな。性格はどうなんだ? お前に似て生意気な男だったらどうしよう。俺がまんできないかも」
「何がだ!」
「俺の好みのタイプだったら記念に3P」
「しねえよ! ぶっ殺すぞ!」
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