今野くんと上田店長

佐々

文字の大きさ
上 下
5 / 8

05

しおりを挟む

 最近、上田さんの様子がおかしい。というよりも、俺に対する彼の態度が変だ。それまでは他のスタッフに「店長今野君にベタベタしすぎ!」とか突っ込まれるくらいだったのに、ここ数日はスキンシップが全くないどころか、挨拶と仕事の話くらいしかしていない。休憩時間が被った時も、彼は自分からは一言も口をきこうとしなかった。
 俺なんかやった?
 何か、上田さんの気に障るような発言、行動があっただろうか。しかし、考えてみてもよくわからなかった。失礼な発言は数え切れないほどあるが、それは両者合意の上というか、それくらいしても相手が気分を害さないような親しい関係を築けていたと思うからで、もしそれに腹を立てていたならもっと早い時期にこうなっていたはずだろう。
 ではどうしていきなり上田さんの態度が変わったのか。俺が見る限りでは自分に対して何か怒っているとかそういう風には感じられない。だからこそ余計に理由がわからなくてもどかしい。本気だか冗談だかわからない感じで言い寄られるのも、戸惑いはしたけれど心底から嫌なわけではなかったし、むしろ本来ならアルバイト先の店長と従業員という関係以上にはなりえないはずの人と友人のように接することができるのは嬉しくすらあった。ゆえにこの変化はつらい。理由を考えてもわからない。ずっとこのままなのは悲しいし、できることなら以前のように親しい関係に戻りたい。俺は思い切ってこの件に触れてみることにした。
「店長、お話があります」
 そう切り出したのは定休日の前日の夜だった。夜番に店を任せて俺は上田さんと同じ時間に上がった。俺が着替えている間もお互い無言で、しかし上田さんは帰宅の時間をずらすようなそぶりも見せず、俺たちは一緒に店を出ることになった。
「お疲れ」
 それだけ言って駐車場に向かおうとする上田さんを、俺は呼び止めた。
「あの」
 黒いマフラーに顔を半分くらい埋めた上田さんが振り返る。俺を見る目は普段よりもずっと鋭かった。
「今ちょっと、時間、いいですか」
 話があると続けた俺を、上田さんは細めた目で見つめて、ゆっくりと近づいてきた。
「ここで?」
 両手をポケットに突っ込んで、見上げてくる上田さんにほんの少しだけ安堵する。よかった。拒否されなかった。
「えっと、寒いですよね。店戻ります?」
 提案すると、俺から視線を逸らした上田さんは少し考えている様子だった。
「今野くんちは?」
 そして口にされた内容に俺は驚いた。
「うち?」
「駄目ならいいけど」
 上田さんはまっすぐに俺を見ている。なぜだろう。試されているような気分になった。
「いえ、駄目じゃないです。行きましょう、うち。ちょっと散らかってますけど」
 近くに駐車場がないので、上田さんには車を店に置いていってもらうことにした。徒歩十五分ほどの所にあるアパートに、二人で向かう。
「どうぞ、ほんとに散らかってますけど」
 玄関の電気をつけて、部屋に行きがてら床に散らばった服を拾う。
「適当に座ってて下さい。今お茶入れますね」
 回収した服をまとめて洗濯機に放り込み、キッチンで湯を沸かす。
 部屋に戻ると上田さんはコートも脱がず、テーブルの前に正座していた。
 俺は思わず噴き出した。初めて入る部屋でもないのに、一体どうしたというのだ。
「すぐエアコン効くと思いますけど、もしかして寒いですか?」
「いや……」
「じゃあ上着とマフラー、よろしければハンガーにおかけしますよ」
 わざと丁寧な口調で言うと、上田さんはもそもそと動いてマフラーを外し、コートも脱いだ。それを受け取ってハンガーにかける。
 つい先日までレポートに追われていたせいでテーブルの上は文献のコピーやグラフ用紙で溢れ返っている。そこを簡単に片付けて、灰皿に溜まった吸い殻もキッチンのゴミ箱に捨てる。湯が湧いたのでコーヒーを入れて部屋に戻る。
「どうぞ」
 上田さんの前にカップを置く。彼はいまだ借りてきた猫のように大人しく座っている。
「ありがとう」
 礼を言ったものの、上田さんはカップに手を伸ばそうとしない。伏し目がちにカップを満たす黒い液体の表面を眺めている。今まで俺は上田さんは何かに怒っていて、自分への態度がよそよそしいのもそのせいだと思っていたが、今の彼は単に元気がないだけのように見えた。
「店長、なんかあったんですか?」
 俺は直截にきいてみた。
 しかし上田さんはこちらを見ない。
「なんかって?」
「いや、それはわかんないですけど、なんか、最近変じゃないですか?」
 ポケットから煙草を取り出してくわえる。
「明らかに元気ないですよね?」
 話しながら、先程中身を捨てに行った灰皿を取りに行く。部屋に戻ると上田さんが立ち上がり、上着をハンガーから外していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サッカー少年の性教育

てつじん
BL
小学6年生のサッカー少年、蹴翔(シュート)くん。 コーチに体を悪戯されて、それを聞いたお父さんは身をもってシュートくんに性教育をしてあげちゃいます。

【完結】撮影

まこ
BL
AV男優・真白くんの撮影風景。共演する相手はみんなドS。 ※全ての話に裏描写があります。冒頭にざっくりとしたプレイ内容を記載しているので読めるものだけ読んでもらえれば幸いです。 含まれるプレイ内容 AV男優/撮影/拘束/くすぐり/耳責/羞恥/フェラ/寸止/焦らし/玩具/連続絶頂/前立腺責/声我慢/鼠蹊部責/目隠/3P/二輪挿/強気受etc. ※完結にしていますが、書きたくなったら突然番外編を書く可能性があります。

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

調教済の執事が欲求不満でNTRされる話

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 主人にいつも公開エッチさせられてる執事が欲求不満で他の男にNTRされる話です。 全員雰囲気合意のNTRの上に、NTRし切れてないです。

俺☆彼 [♡♡俺の彼氏が突然エロ玩具のレビューの仕事持ってきて、散々実験台にされまくる件♡♡]

ピンクくらげ
BL
ドエッチな短編エロストーリーが約200話! ヘタレイケメンマサト(隠れドS)と押弱真面目青年ユウヤ(隠れドM)がおりなすラブイチャドエロコメディ♡ 売れないwebライターのマサトがある日、エロ玩具レビューの仕事を受けおってきて、、。押しに弱い敏感ボディのユウヤ君が実験台にされて、どんどんエッチな体験をしちゃいます☆ その他にも、、妄想、凌辱、コスプレ、玩具、媚薬など、全ての性癖を網羅したストーリーが盛り沢山! **** 攻め、天然へたれイケメン 受け、しっかりものだが、押しに弱いかわいこちゃん な成人済みカップル♡ ストーリー無いんで、頭すっからかんにしてお読み下さい♡ 性癖全開でエロをどんどん量産していきます♡ 手軽に何度も読みたくなる、愛あるドエロを目指してます☆ pixivランクイン小説が盛り沢山♡ よろしくお願いします。

僕らの距離

宇梶 純生
BL
一番近くて 一番遠い 僕らの距離

催眠調教師キモおじ名井の記録 〜野郎どもを淫欲の世界に引き摺り込んでえろえろワールドを創造する〜

かいじゅ
BL
どこから読んでいただいても全く問題ない作品です。 キモおじに催眠で特殊性癖植えつけられてあれこれされます。 即落ち喘ぎ度MAXのマニアックプレイです。 予告無しのやりたい放題ですので、危険を察した方は避難してください笑

狂宴〜接待させられる美少年〜

はる
BL
アイドル級に可愛い18歳の美少年、空。ある日、空は何者かに拉致監禁され、ありとあらゆる"性接待"を強いられる事となる。 ※めちゃくちゃ可愛い男の子がひたすらエロい目に合うお話です。8割エロです。予告なく性描写入ります。 ※この辺のキーワードがお好きな方にオススメです ⇒「美少年受け」「エロエロ」「総受け」「複数」「調教」「監禁」「触手」「衆人環視」「羞恥」「視姦」「モブ攻め」「オークション」「快楽地獄」「男体盛り」etc ※痛い系の描写はありません(可哀想なので) ※ピーナッツバター、永遠の夏に出てくる空のパラレル話です。この話だけ別物と考えて下さい。

処理中です...