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第4話 赤い瞳と帝国の忌み色
しおりを挟む「え!? どこどこ!?」
「ここです。右目の方」
「わっ本当だ。この赤い目が好きなのに……」
とは言え、こうなるのも時間の問題だった。
先々代からあるこのぬいぐるみは、見た目よりも年季が入っているらしい。
それにも関わらず、両親はピフラの就寝時に必ずぬいぐるみを抱かせた。
むしろ、ここまでよく保ってくれた方だろう。
そうやって自分に言い聞かせ、けれど落胆を隠せず嘆息した。
するとガルムがピフラの言葉を拾い、食ってかかる。
「……赤目が好き? 冗談も大概にしてください」
力みを感じる声。バッ!と、ピフラが顔を上げると、ガルムは器用に片眉を上げた。
好戦的な表情すら美しさが際立っており、ピフラは思わず惚ける。
しかし、彼の赤瞳は滲むようにじわじわと、明度を落として不快感を露わにしていった。
「昔、イヴィテュール帝国に悪魔に忠誠を誓う魔法士達がいたことは、知ってますよね?」
「ええ、聞いたことがある。黒魔法士よね」
「奴らは魔力増大のために悪魔と契約を結び、生贄を捧げました。赤目は生贄の血の色だと、赤目は禁忌を犯した黒魔法士であると言いがかりをつけられて、つい200年前まで駆除対象だったんです。その忌み色が好きだなんて……バカにしているとしか思えません」
「駆除ですって!? だって、赤い目は遺伝変異的なもので、凶事に起因するものではないわ。この学説だって200年程前に発表されたはずなのに……!」
「恐怖の前では学問なんて無意味ですから。この国でも祝い事に赤色は忌避されているんですよね? つまり、そういう事です」
「そんな……」
ピフラの胸が激しく痛んだ。
ガルムを見やれば、ぬいぐるみの腹を柔らかく揉んでいる。
赤い瞳は灯火の下で潤むように光っていた。
(そっか。「ピフラ」に会う前から心に闇を抱えていたのね……)
──すると、ピフラはゲームの回想シーンを唐突に思い出した。
ガルムの親類縁者に赤目は1人もおらず、生後まもなく孤児院へ送られた。
しかし赤目のせいで、孤児院でも、養子先のエリューズ公爵家でも、義姉に赤目賎民と差別される。
人生の殆どを誹られてきたガルムだったが、ヒロインに「赤目が好き」と肯定されて、彼女に傾倒し盲愛するようになるのだった──。
(それほど嬉しかったのよね。でもヒロインと出会うまでに、あと何年もかかっちゃう。それまで病み続けるなんてダメよ。わたしにはガルムの心を健全にする使命があるんだから)
──集まれ、シナプス達!
ピフラは脳に司令を出した。
ここまでの状況を鑑みるに、今のガルムは赤目の自分を嫌悪しているわけで……。
一点を見つめて動かなくなったピフラに、ガルムは眉を寄せる。
それからしばらくの沈黙の後、ガルム側にずいっと詰めて座り直した。
薄紫色の瞳が、眼光鋭くガルムを射抜く。
その眼力は、獣が獲物を見つけた目に近しく、ガルムは小動物のように小さく震えた。
そして、ピフラは慎重に口を開いた。
「厳密にはね、赤い目ではなく赤色が好きなの」
「……はい?」
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