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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 犬が扉に突っ込み、三つの頭を強打して、ずり落ちた。
 扉は先ほどより開いた。だが、人が通れるような隙間ではない。
 額から垂れた血の雫を、アルファレドは手の甲で拭った。これで加護も完全に砕けた。床に伸びた犬は、そのまま寝ていてくれれば幸いだったが、すぐに立ち上がり、こちらに向き直った。
 詰み、か。
 コレットを背に庇いながら、アルファレドは後ずさった。じりじりと犬が迫る。さほど奥行きのない石室の通路はすぐに尽き、祭壇に踵が突き当たった。
 三つの口が濁った涎まみれの牙を剥き出しにする。
 あれこれやらかして恥に恥の上塗りを重ね、事故物件などとあだ名された挙句、最期が犬の餌とか。笑えない。
 生温かな息を全身に浴びせられ、覚悟したとき、犬の足もとで転移法陣が青白い光を放った。陣の中央に人影が二つ浮かび上がり、実体化する。一人は杖を手にしている。
「レティウス、後ろ――」
 アルファレドの警告に、レティウスがふりむきざま、杖を打ち振った。突然の強い光に目を眩まされ、鼻に打撃を見舞われた犬が、尻を落として後退する。が、同時にレティウスの手から杖がはじけ飛んだ。
「えっ、地獄のワンコケルベロスじゃん。俺、犬は苦手っ」
 ピンチに颯爽と登場した割に、さっそく情けない声をあげて後ずさるケイツビーに、レティウスが呆れたような視線をやった。
「おまえに相手をしろとは言わん。そこで殿下を守っていよ」
「はい、はーい。あ、〈ニズヘグ〉は?」
 ケイツビーが床から拾いあげた杖をふる。
「使うほどの相手か」
 低く身構え、三つの口から威嚇の唸り声をもらすケルベロスに、レティウスは散歩でもするような足どりで近づいていく。アルファレドは慌ててケイツビーの肩をつかんだ。
「なにしてるんだ、早く逃げないと」
「逃げるったって出口あっちでしょ」
 ケイツビーはケルベロスの向う側にある、開かずの扉を指さした。
「今、そこの魔法陣から現れたじゃないか」
「それ、一方通行。入ることはできても出るのは不可だから。向こうの扉破って出るのが正解」
「けど、素手でどうするん――」
 レティウスの拳が、跳びかかってきたケルベロスの真ん中の頭の鼻面にめりこんだ。吹っ飛んだのはケルベロスのほう。
 嘘だろ。物理の基本法則とか、そのへんの常識どこ行った!?
 石の床に爪を立て、辛うじて踏みとどまるケルベロスに、レティウスは間髪入れず突進し、再度、打撃をたたきこんだ。犬の巨体が宙を舞う。
 開いた口が塞がらないとは、このことだ。しかも魔導大公なのに腕っぷし勝負?
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