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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
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レティウスは伸ばしかけた手を下ろした。
一瞬、遅かった。術妨害に失敗した。
失敗して良かったのだろう。術がほぼ発動した、あの段階で強制介入すれば、アルファレドの体はあちらとこちらの次元の狭間で、ひき肉になっていた公算が高い。
ケイツビーがしゃがみこみ、半分焼け焦げた敷物をはぎとった。敷物の下の床には大きな魔法陣が描かれている。
「転移法陣か。人間二人も飛ばすなんて、簡易版にしちゃ、かなりゴツい陣だな。どんなデカい魔晶石使ったんだ?」
「だが、移動距離はそうない。飛んだ先は近場だろう」
「コレで――」
ケイツビーが自分の鼻をちょんとつついた。
「――探す?」
「いや、この陣を使う」
「でも、この仕様、一方通行の上、一回こっきりの片道切符みたいだ。魔素の流れも断たれて、道は閉じちゃってるぜ」
「なら、こじ開けるまで」
レティウスは手にした杖で床を打った。杖にはめ込まれた玉石が炯々と光を発し、焼け焦げた魔法陣の上で、青白い光が脈打ちはじめた。
床に描かれた線を踏んだ途端、赤い光がほとばしった。
咄嗟にアルファレドはコレットの手をつかみ、飛び退いた。今度は動けた。
霊廟の出口と思しい扉の手前、床に描かれた魔法陣から血のように赤い光が放たれ、室内を満たす。光は無数の細い螺旋を描き、互いに絡まりあって、みるみるうちに形を成した。
異世界か別次元か、ここではないどこかに通じる扉を開き、何者かを呼び寄せる、召喚魔法なる術式があると聞く。
光が消えた。陣の上に赤毛の犬が出現した。ただし、この犬は虎よりも二回りほどデカい。それに普通、犬は頭が三つもない。右端の頭は歪に潰れ、目も耳もほとんどないが、口は大きく裂け、不揃いな牙の間に突き出た舌からは、濁った涎が滴っている。それが余計に不気味だ。
生臭い息を吐き、犬が魔法陣から踏みだした。その四肢は太く、大型のナイフを並べたような鉤爪が生えている。三つの口でかじられるのもゾッとしないが、その爪が振り下ろされたら、人間の頭など一撃で真っ赤なトマトピューレに早変わりだ。
怪物が跳躍する。反射的にあげた腕に鉤爪がかかる、寸前、びん、とチェロの弦をはじくような音が響いて、アルファレドの目の前に光の壁が生じた。怪物の爪が押し返され、体ごと跳ね飛ばされる。
なにが起きた。
触れてみると実体のない、淡い円盤状の光は、数式のような模様が細かに組み込まれている。
これは……、王宮を覆う結界と同じものだ。
レティウスは伸ばしかけた手を下ろした。
一瞬、遅かった。術妨害に失敗した。
失敗して良かったのだろう。術がほぼ発動した、あの段階で強制介入すれば、アルファレドの体はあちらとこちらの次元の狭間で、ひき肉になっていた公算が高い。
ケイツビーがしゃがみこみ、半分焼け焦げた敷物をはぎとった。敷物の下の床には大きな魔法陣が描かれている。
「転移法陣か。人間二人も飛ばすなんて、簡易版にしちゃ、かなりゴツい陣だな。どんなデカい魔晶石使ったんだ?」
「だが、移動距離はそうない。飛んだ先は近場だろう」
「コレで――」
ケイツビーが自分の鼻をちょんとつついた。
「――探す?」
「いや、この陣を使う」
「でも、この仕様、一方通行の上、一回こっきりの片道切符みたいだ。魔素の流れも断たれて、道は閉じちゃってるぜ」
「なら、こじ開けるまで」
レティウスは手にした杖で床を打った。杖にはめ込まれた玉石が炯々と光を発し、焼け焦げた魔法陣の上で、青白い光が脈打ちはじめた。
床に描かれた線を踏んだ途端、赤い光がほとばしった。
咄嗟にアルファレドはコレットの手をつかみ、飛び退いた。今度は動けた。
霊廟の出口と思しい扉の手前、床に描かれた魔法陣から血のように赤い光が放たれ、室内を満たす。光は無数の細い螺旋を描き、互いに絡まりあって、みるみるうちに形を成した。
異世界か別次元か、ここではないどこかに通じる扉を開き、何者かを呼び寄せる、召喚魔法なる術式があると聞く。
光が消えた。陣の上に赤毛の犬が出現した。ただし、この犬は虎よりも二回りほどデカい。それに普通、犬は頭が三つもない。右端の頭は歪に潰れ、目も耳もほとんどないが、口は大きく裂け、不揃いな牙の間に突き出た舌からは、濁った涎が滴っている。それが余計に不気味だ。
生臭い息を吐き、犬が魔法陣から踏みだした。その四肢は太く、大型のナイフを並べたような鉤爪が生えている。三つの口でかじられるのもゾッとしないが、その爪が振り下ろされたら、人間の頭など一撃で真っ赤なトマトピューレに早変わりだ。
怪物が跳躍する。反射的にあげた腕に鉤爪がかかる、寸前、びん、とチェロの弦をはじくような音が響いて、アルファレドの目の前に光の壁が生じた。怪物の爪が押し返され、体ごと跳ね飛ばされる。
なにが起きた。
触れてみると実体のない、淡い円盤状の光は、数式のような模様が細かに組み込まれている。
これは……、王宮を覆う結界と同じものだ。
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