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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
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人目を避け、入った先は――仮面部屋。
棚という棚、壁という壁を埋め尽くす、人間や動物の顔や、その他よくわからないものに斬新なデフォルメをほどこしたデザインの仮面の群は、なかなか見応えがあるが、
「な、なんだか、不気味ですね……? 侯爵さまには、御自慢のコレクションなのでしょうけれど、し、視線が……」
「確かに、見られている気がするな……」
「あ、あそこから抜けられますよ」
廊下か隣室へ続く扉が開いている。いい加減、会場に戻る頃合いだろう。
部屋を突っ切ろうとして、床に敷いてある織物を踏んだ、瞬間。
床から青白い光が放射され、アルファレドたちは光の円柱にとらえられた。逃れようにも、足も、体も、動かない。
「アルファレド――」
鋭い声が飛んだ。声のほうに辛うじて目を動かすと、強烈な光に飲まれていく視界の彼方に、こちらに手を伸ばしたまま立ち尽くす、大公――レティウスの姿が見えた。
ふっと光が消え、全てが消えた。
浮遊感と、続いて短い落下の感覚があり、アルファレドの体は堅い床に打ちつけられた。あたりは針の先ほどの光もない深淵の闇だ。痛みをこらえ、アルファレドは手を動かした。大丈夫だ。動く。さっきは体ごと消え失せたように感じたが……。
「コレット、無事か? どこにいる?」
「は、はい。ここにいます」
「どこ――」
ゴツ、と手がなにか固いものに当たった。
「大丈夫ですか、殿下!?」
「大丈夫だ。少しぶつけただけだから」
ふっと頭上が明るんだ。魔晶石の光が、あまり高くない天井を照らし出した。人感センサー付きの照明があったらしい。
「ここは……?」
石室の中だ。乏しい照明の浮かびあがる通路の左右には、それぞれ六つずつ石棺が並んでおり、アルファレドたちの背後、石室の一番奥には死者を祀るための祭壇がある。
「霊廟……?」
敷物の下に魔法陣でもあったのか、あの光の効果で、仮面部屋から空間転移したのか。モノが紙一枚でも、転移は大変だと聞いた気がするが……。
祭壇の横の石壁をたたいてみる。判然としないが、どことなく手応えが鈍い。壁の向こうは土だろうか。窓もないし、ここは地下の霊廟なのか? ただし、忘れ去られて久しい古代の墳墓というわけではなく、定期的に清掃されている形跡がある。空気もさほど淀んでいない。しかし、地下だとすると、大声で助けを呼んでも聞こえるかどうか。
「殿下、あちらに扉が」
コレットが指さすほうに、石の扉がある。
出口なのか? だとすると、大仰な仕掛けの割に、答えが簡単すぎる気がするが……。
だが、こうしていても埒が明かない。アルファレドはコレットの手をとると、用心しつつ、霊廟の出口と思しい扉にむかって歩きはじめた。
人目を避け、入った先は――仮面部屋。
棚という棚、壁という壁を埋め尽くす、人間や動物の顔や、その他よくわからないものに斬新なデフォルメをほどこしたデザインの仮面の群は、なかなか見応えがあるが、
「な、なんだか、不気味ですね……? 侯爵さまには、御自慢のコレクションなのでしょうけれど、し、視線が……」
「確かに、見られている気がするな……」
「あ、あそこから抜けられますよ」
廊下か隣室へ続く扉が開いている。いい加減、会場に戻る頃合いだろう。
部屋を突っ切ろうとして、床に敷いてある織物を踏んだ、瞬間。
床から青白い光が放射され、アルファレドたちは光の円柱にとらえられた。逃れようにも、足も、体も、動かない。
「アルファレド――」
鋭い声が飛んだ。声のほうに辛うじて目を動かすと、強烈な光に飲まれていく視界の彼方に、こちらに手を伸ばしたまま立ち尽くす、大公――レティウスの姿が見えた。
ふっと光が消え、全てが消えた。
浮遊感と、続いて短い落下の感覚があり、アルファレドの体は堅い床に打ちつけられた。あたりは針の先ほどの光もない深淵の闇だ。痛みをこらえ、アルファレドは手を動かした。大丈夫だ。動く。さっきは体ごと消え失せたように感じたが……。
「コレット、無事か? どこにいる?」
「は、はい。ここにいます」
「どこ――」
ゴツ、と手がなにか固いものに当たった。
「大丈夫ですか、殿下!?」
「大丈夫だ。少しぶつけただけだから」
ふっと頭上が明るんだ。魔晶石の光が、あまり高くない天井を照らし出した。人感センサー付きの照明があったらしい。
「ここは……?」
石室の中だ。乏しい照明の浮かびあがる通路の左右には、それぞれ六つずつ石棺が並んでおり、アルファレドたちの背後、石室の一番奥には死者を祀るための祭壇がある。
「霊廟……?」
敷物の下に魔法陣でもあったのか、あの光の効果で、仮面部屋から空間転移したのか。モノが紙一枚でも、転移は大変だと聞いた気がするが……。
祭壇の横の石壁をたたいてみる。判然としないが、どことなく手応えが鈍い。壁の向こうは土だろうか。窓もないし、ここは地下の霊廟なのか? ただし、忘れ去られて久しい古代の墳墓というわけではなく、定期的に清掃されている形跡がある。空気もさほど淀んでいない。しかし、地下だとすると、大声で助けを呼んでも聞こえるかどうか。
「殿下、あちらに扉が」
コレットが指さすほうに、石の扉がある。
出口なのか? だとすると、大仰な仕掛けの割に、答えが簡単すぎる気がするが……。
だが、こうしていても埒が明かない。アルファレドはコレットの手をとると、用心しつつ、霊廟の出口と思しい扉にむかって歩きはじめた。
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