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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 煌々と明かりの灯るネミル侯爵邸のファサードに、何台もの馬車がたむろしている。
 馬車の周囲では、夜会に出る雇い主たちを待ち惚けする御者たちが、乏しい明かりの下で本を読んだり、煙草をふかしたり、同業者と駄弁だべったり、めいめい暇潰しに余念がない。
 近くの植え込みや芝生には、ネミル侯爵の趣味だという、遠国の部族が信仰する神だか精霊だかの像がずらりと並び、一部の御者たちの恰好のサカナになっている。
 自分たちの文化圏にない独特の造形を、不気味だと評するもの、ユーモラスでかわいいというもの。しかし、目の部分に魔晶石をはめこみ、外灯代わりに光らせる侯爵のセンスはいかがなものか、というのが大方の一致した意見だった。
 にわかに馬たちが騒ぎはじめた。何人かの御者がふりむいたところへ、黒絹に金糸銀糸で紋章を織り出した旗をなびかせ、一台の馬車がファサードにすべりこんできた。
 黒鉄の流線型の車体をひく黒馬は、通常の馬より一回り大きく、毛並みは天鵞絨ビロードのような艶をおび、血のように赤い目が恐ろしい。
 手綱をとる御者の姿のない馬車は、侯爵邸の正面に静かに止まった。車体の横にたたまれていたステップが下がり、扉が開いた。
 ――馬車が止まり、真っ先に降りたのは大公だ。
 婚約者の後者を助けようと差し出した手を、しばらく宙にさまよわせたアルファレドは、やがて手を引っこめ、自分もステップを踏んだ。
 段を降りながら、馬車の前方に恐る恐る視線をやり、大公に声をかける。
「なあ、出発前から聞こうと思っていたんだが……、私の目がおかしいのか? 馬車の前に繋いである馬……、鹿、なのか? 角が二本あるように見えるが……」
 馬のような生物の額には、鋭い螺旋状の角が二本、縦に並んで生えている。
「心配しなくても、殿下の目は正常だ。これは鹿ではなく、角の生えた馬だ」
「ユニコーンか? ユニコーンなのか??」
「ユニコーンは一角獣だ。角が二本あるわけないだろう。それにユニコーンは馬車馬には不向きだ。種族問わず好みの相手がいると、すぐ足を止めるからな。常識だ」
「えーと、どこからどこらへんまでが常識……?」
「これはバイコーン、二角獣だ。ユニコーンと違って気性が荒く、肉食で凶暴だ。ランシエナ近辺の草原や森林に生息しているが、虎でも狼でも襲って食い殺すほどだから、野生で見かけても近づかないほうがいい。ちなみに名前はラクとロアだ。とても賢いぞ」
 なんで、そんなのが馬車を引いているのか、とは、つっこむまい。余計な発言をしでかして、夜食代わりに齧られてはかなわない。ラクだかロアだかの首筋を大公がたたくと、肉食馬が満足げに鼻を鳴らした。
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