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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
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脳内シミュレーションの結果は、自分の引き出しのなさにがっかりするばかりだが、実はこれ、ミリアムがアルファレドを落とした手口なのだ。番外編の、詩を贈る、だけは、ミリアムにのぼせていた学院の生徒(※アルファレドではない)がやったことだ。
ファナとは婚約者という枠組みに安住した、形式的なおつきあいしかしたことがなかった。誕生日のプレゼント選びも年内のルーティンにすぎず、……とりあえず高価な宝石でも贈っときゃいいだろ、なんて。我ながら大概ヒドイ男だったと思う。
ミリアムには自分から贈り物もしたし、デートにも誘った。しかし、狙って落としたのはアルファレドではなく、彼女のほうだ。
ミリアムとのことを記憶の墓場から掘り起こすと、できることなら焼却処分したい黒歴史が次から次へと芋づる式にあがってきて、胸焼けがするのだが……。
出会ったのは、入学式当日。式が行われる講堂の場所がわからず、困っている新入生を助けたのがはじまり。後日、お礼を言いに駆け寄ってきた彼女と言葉をかわしたのを皮切りに、廊下で行きあったり、曲がり角でぶつかったり、噴水の前でバッタリ会ったり。
限られた生徒しか入れない学院の奥庭に、迷子の猫をさがして入りこんだミリアムが、昼寝中の王太子(当時)に蹴躓いて倒れこんだ、なんてハプニングもあったっけ。そうして偶然の出会いを重ねるうちに自然と話をするようになり、打ち解け、親しくなって……。
「君と違ってミリアムは私をわかってくれる、真実の愛だとかなんとか小っ恥ずかしいセリフを臆面もなくおっしゃっていましたけど、それ、出会いからなにから全て意図的に仕組まれたことでしたのよ。つ・ま・り・アルファレド殿下はハニートラップにどっぷり・おハマり遊ばしたのですわ、ホ~ホッホ」
あ、いかん。ファナが記憶に乱入してきて、ズキッときた。しかも、ここ数日耳馴染んだアードラー伯爵夫人の声で再生してしまった。ダメージ倍加だ。
もちろんファナは、そんなゲスな言い方はしなかったし、今のは脳内での意訳と脚色がすぎる。しかし、大筋は間違っていない。ようするに、ミリアムは‘うまいことやった’のだ。いつも正しいファナは、やっぱり正しかった。
王太子に婚約者の他に意中の相手ができたという噂が、学院中に熱病のように広がるのと並行して、嫉妬したファナが陰でミリアムに嫌がらせをしているという訴えが、たびたびアルファレドに届くようになった。
焦るファナがアルファレドとの溝をどんどん広げる一方で、ミリアムは花開いていった。芋虫が蝶になるように、自由な快活さはそのままに華やかさを増し、次第に人気者になっていった。そして、とうとうファナがミリアムを階段から突き落としたと聞いて、アルファレドは腹を決めた。父王に相談もせず、卒業記念祝賀会の夜、ミリアムとの婚約を発表し、返す刀でファナとの婚約を破棄した。
脳内シミュレーションの結果は、自分の引き出しのなさにがっかりするばかりだが、実はこれ、ミリアムがアルファレドを落とした手口なのだ。番外編の、詩を贈る、だけは、ミリアムにのぼせていた学院の生徒(※アルファレドではない)がやったことだ。
ファナとは婚約者という枠組みに安住した、形式的なおつきあいしかしたことがなかった。誕生日のプレゼント選びも年内のルーティンにすぎず、……とりあえず高価な宝石でも贈っときゃいいだろ、なんて。我ながら大概ヒドイ男だったと思う。
ミリアムには自分から贈り物もしたし、デートにも誘った。しかし、狙って落としたのはアルファレドではなく、彼女のほうだ。
ミリアムとのことを記憶の墓場から掘り起こすと、できることなら焼却処分したい黒歴史が次から次へと芋づる式にあがってきて、胸焼けがするのだが……。
出会ったのは、入学式当日。式が行われる講堂の場所がわからず、困っている新入生を助けたのがはじまり。後日、お礼を言いに駆け寄ってきた彼女と言葉をかわしたのを皮切りに、廊下で行きあったり、曲がり角でぶつかったり、噴水の前でバッタリ会ったり。
限られた生徒しか入れない学院の奥庭に、迷子の猫をさがして入りこんだミリアムが、昼寝中の王太子(当時)に蹴躓いて倒れこんだ、なんてハプニングもあったっけ。そうして偶然の出会いを重ねるうちに自然と話をするようになり、打ち解け、親しくなって……。
「君と違ってミリアムは私をわかってくれる、真実の愛だとかなんとか小っ恥ずかしいセリフを臆面もなくおっしゃっていましたけど、それ、出会いからなにから全て意図的に仕組まれたことでしたのよ。つ・ま・り・アルファレド殿下はハニートラップにどっぷり・おハマり遊ばしたのですわ、ホ~ホッホ」
あ、いかん。ファナが記憶に乱入してきて、ズキッときた。しかも、ここ数日耳馴染んだアードラー伯爵夫人の声で再生してしまった。ダメージ倍加だ。
もちろんファナは、そんなゲスな言い方はしなかったし、今のは脳内での意訳と脚色がすぎる。しかし、大筋は間違っていない。ようするに、ミリアムは‘うまいことやった’のだ。いつも正しいファナは、やっぱり正しかった。
王太子に婚約者の他に意中の相手ができたという噂が、学院中に熱病のように広がるのと並行して、嫉妬したファナが陰でミリアムに嫌がらせをしているという訴えが、たびたびアルファレドに届くようになった。
焦るファナがアルファレドとの溝をどんどん広げる一方で、ミリアムは花開いていった。芋虫が蝶になるように、自由な快活さはそのままに華やかさを増し、次第に人気者になっていった。そして、とうとうファナがミリアムを階段から突き落としたと聞いて、アルファレドは腹を決めた。父王に相談もせず、卒業記念祝賀会の夜、ミリアムとの婚約を発表し、返す刀でファナとの婚約を破棄した。
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