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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
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「それだけだ。一年間、婚約を破棄できないというのは……」
「ああ、それは言葉通りの意味だ。この婚約は、私からも殿下からも、一年間は破棄も解消もできない。国王権限による決定だ。でないと、即刻双方から果し状……もとい、婚約破棄書類を投げつけあって終了するのは目に見えているからな。そうなると、私はともかく殿下の評価が底値を割って異次元に突入する。それを防ぐための、陛下の配慮だ」
「ぐぬぬ、言わせておけば……」
「それと婚姻は、私が承知しなければ成立しない。王が頭まで下げて頼むから、やむなく婚約を引き受けたが、私はダメ王子の子守までしているほどヒマではないのだ」
「だ、ダメ王子……」
ふん、と大公が鼻を鳴らした。
「なにか間違っているか? どうせ人を見る目もないのなら、おとなしく用意された結婚相手とくっつけばよいものを、いかがわしい女にひっかかって国まで引っ掻き回すバカ騒ぎをおこしおって。挙句に、この私を後始末にひっぱり出すとは、それだけで十分罪深いぞ」
「だからって、なんでガマなんだよッ」
「そうなるべき罪状は山ほどあるが、第一は私に無駄な時間を使わせた罪(予定)だ」
「(予定)ってなんだっ」
「ほぼ確実にそうなるということだ!」
眼前に指を突きつけられ、アルファレドはのけぞった。
「嫌なら、一年の期限が切れるまでに、自分にはガマガエルにされる以上の価値があると、私を納得させてみろ」
「そんな意味不明の価値証明、どうしろと言うんだッ」
「どうするか、その綿が詰まったような頭蓋骨に耳かき一杯分でも脳ミソが入っているなら、それをフル回転させて答えを出せ。わかったら出ていけ。仕事の邪魔だ」
「この仕事中毒、いくらなんでも横暴だぞ、それがランシエナ流かっ?」
「やかましい。これ以上ダダをこねるなら、今、この場でガマに変えるぞ」
「やれるものなら――」
やってみろ、と売り言葉に買い言葉。口走った瞬間、後悔した。大公が口の端をぐいと引き上げ、笑ったからだ。
「――よかろう」
とん、と。
大公の指先がアルファレドの額を軽く突いた。
ぐにゃりと視界が歪んだ。背が屈み、手足が曲がり、顔が扁平に引き延ばされる。あげた悲鳴はげろげろという鳴き声に変わった。
体がどんどん縮み、アルファレドは絨毯の上にころりと仰向けに転がった。手足をバタバタさせて、どうにか腹這いになると、今ではそびえるような巨人と化した魔王が、ゆっくり近づいてくるのが見えた。
このままでは踏み潰される。
アルファレドは必死に逃げ出した。
「それだけだ。一年間、婚約を破棄できないというのは……」
「ああ、それは言葉通りの意味だ。この婚約は、私からも殿下からも、一年間は破棄も解消もできない。国王権限による決定だ。でないと、即刻双方から果し状……もとい、婚約破棄書類を投げつけあって終了するのは目に見えているからな。そうなると、私はともかく殿下の評価が底値を割って異次元に突入する。それを防ぐための、陛下の配慮だ」
「ぐぬぬ、言わせておけば……」
「それと婚姻は、私が承知しなければ成立しない。王が頭まで下げて頼むから、やむなく婚約を引き受けたが、私はダメ王子の子守までしているほどヒマではないのだ」
「だ、ダメ王子……」
ふん、と大公が鼻を鳴らした。
「なにか間違っているか? どうせ人を見る目もないのなら、おとなしく用意された結婚相手とくっつけばよいものを、いかがわしい女にひっかかって国まで引っ掻き回すバカ騒ぎをおこしおって。挙句に、この私を後始末にひっぱり出すとは、それだけで十分罪深いぞ」
「だからって、なんでガマなんだよッ」
「そうなるべき罪状は山ほどあるが、第一は私に無駄な時間を使わせた罪(予定)だ」
「(予定)ってなんだっ」
「ほぼ確実にそうなるということだ!」
眼前に指を突きつけられ、アルファレドはのけぞった。
「嫌なら、一年の期限が切れるまでに、自分にはガマガエルにされる以上の価値があると、私を納得させてみろ」
「そんな意味不明の価値証明、どうしろと言うんだッ」
「どうするか、その綿が詰まったような頭蓋骨に耳かき一杯分でも脳ミソが入っているなら、それをフル回転させて答えを出せ。わかったら出ていけ。仕事の邪魔だ」
「この仕事中毒、いくらなんでも横暴だぞ、それがランシエナ流かっ?」
「やかましい。これ以上ダダをこねるなら、今、この場でガマに変えるぞ」
「やれるものなら――」
やってみろ、と売り言葉に買い言葉。口走った瞬間、後悔した。大公が口の端をぐいと引き上げ、笑ったからだ。
「――よかろう」
とん、と。
大公の指先がアルファレドの額を軽く突いた。
ぐにゃりと視界が歪んだ。背が屈み、手足が曲がり、顔が扁平に引き延ばされる。あげた悲鳴はげろげろという鳴き声に変わった。
体がどんどん縮み、アルファレドは絨毯の上にころりと仰向けに転がった。手足をバタバタさせて、どうにか腹這いになると、今ではそびえるような巨人と化した魔王が、ゆっくり近づいてくるのが見えた。
このままでは踏み潰される。
アルファレドは必死に逃げ出した。
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