16 / 50
エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
しおりを挟む
(16)
「夫人、アードラー伯爵夫人、お待ちを」
「え――?」
肩越しに首をひねる仕草ひとつ、ドレスに流れるひだまでも、ため息の出るような優雅さでふりむいた夫人は、アルファレドの姿をみとめると、裾をつまんでお辞儀をした。
「まあ、アルファレド殿下。久方ぶりにご尊顔を拝し奉りました。御機嫌麗しゅう……」
いや、麗しくない。ちっとも麗しくないぞ。
「夫人、大公に妃教育を……?」
「妃教育? いえ、まさか。必要ありませんでしょう、あの御方には」
そんな馬鹿な。
「必要ないはず、ないでしょう」
「そうですの?」
「だって、態度はでかいし、口は悪いし、言葉遣い含めて礼儀作法はなってないし、王子である私に頭も下げないし、歩く速度は軍人並だし、髪は短い上に結わない、飾らないで全然かまってない感じだし、着ているものといったら魔道士用のローブのヘビーローテーションで、身だしなみも絶対おかしい」
「あらあら、まあまあ、よくご覧になっておいでですこと」
ころころと夫人が楽し気な笑い声をあげる。
「アルファレド殿下は、大公殿下に大層ご興味がおありなのですね」
「やめてください、何故そんな恐ろしい冗談をっ」
「何故……、と申しまして、ねぇ」
おっとりと夫人は小首を傾げた。
「ご指摘のあたり、ファウスティーナ嬢は完璧でしたけれど、殿下はお気に召さず、下町育ちの元気いっぱいで天真爛漫な乙女をお選びになりましたものねぇ?」
「うぐっ」
この場合、元気いっぱいで天真爛漫というのは、マナーを知らずガサツ、と訳される。
「ですから、殿下は貴婦人のたしなみや礼儀作法には、まっっったくご興味がないのかと思っておりましたが……、私の思い違いでしたわ。ほ・ほ・ほ」
……にこにことトドメを刺しに来る夫人は、アルファレドのことを良く思っていない。
理由は明白。アルファレドが彼女の愛弟子を辱めたから。
最初の婚約者、ファウスティーナ。アルファレドとは同い年の、名門貴族グレイル侯爵家の令嬢で、美人の才媛。彼女とは八歳のときに婚約した。
貴族によくある家同士の都合による縁組で、将来的に政略結婚になることは明白だったが、とにかく両者は幼なじみになるべく引き合わされ、好きも嫌いもないうちに婚約が成立した。全ては周囲のお膳立てだったが、何度か会ううちに、ファナ、アルフ、と愛称で呼びあう程度には仲良くなった。問題は、それ以上、仲良くならなかったこと。
たまに会うだけなら、お互い礼儀正しくいられる。しかし日常的に顔をあわせるようになると、それまで見えなかったアラが目立つようになるものだ。
「夫人、アードラー伯爵夫人、お待ちを」
「え――?」
肩越しに首をひねる仕草ひとつ、ドレスに流れるひだまでも、ため息の出るような優雅さでふりむいた夫人は、アルファレドの姿をみとめると、裾をつまんでお辞儀をした。
「まあ、アルファレド殿下。久方ぶりにご尊顔を拝し奉りました。御機嫌麗しゅう……」
いや、麗しくない。ちっとも麗しくないぞ。
「夫人、大公に妃教育を……?」
「妃教育? いえ、まさか。必要ありませんでしょう、あの御方には」
そんな馬鹿な。
「必要ないはず、ないでしょう」
「そうですの?」
「だって、態度はでかいし、口は悪いし、言葉遣い含めて礼儀作法はなってないし、王子である私に頭も下げないし、歩く速度は軍人並だし、髪は短い上に結わない、飾らないで全然かまってない感じだし、着ているものといったら魔道士用のローブのヘビーローテーションで、身だしなみも絶対おかしい」
「あらあら、まあまあ、よくご覧になっておいでですこと」
ころころと夫人が楽し気な笑い声をあげる。
「アルファレド殿下は、大公殿下に大層ご興味がおありなのですね」
「やめてください、何故そんな恐ろしい冗談をっ」
「何故……、と申しまして、ねぇ」
おっとりと夫人は小首を傾げた。
「ご指摘のあたり、ファウスティーナ嬢は完璧でしたけれど、殿下はお気に召さず、下町育ちの元気いっぱいで天真爛漫な乙女をお選びになりましたものねぇ?」
「うぐっ」
この場合、元気いっぱいで天真爛漫というのは、マナーを知らずガサツ、と訳される。
「ですから、殿下は貴婦人のたしなみや礼儀作法には、まっっったくご興味がないのかと思っておりましたが……、私の思い違いでしたわ。ほ・ほ・ほ」
……にこにことトドメを刺しに来る夫人は、アルファレドのことを良く思っていない。
理由は明白。アルファレドが彼女の愛弟子を辱めたから。
最初の婚約者、ファウスティーナ。アルファレドとは同い年の、名門貴族グレイル侯爵家の令嬢で、美人の才媛。彼女とは八歳のときに婚約した。
貴族によくある家同士の都合による縁組で、将来的に政略結婚になることは明白だったが、とにかく両者は幼なじみになるべく引き合わされ、好きも嫌いもないうちに婚約が成立した。全ては周囲のお膳立てだったが、何度か会ううちに、ファナ、アルフ、と愛称で呼びあう程度には仲良くなった。問題は、それ以上、仲良くならなかったこと。
たまに会うだけなら、お互い礼儀正しくいられる。しかし日常的に顔をあわせるようになると、それまで見えなかったアラが目立つようになるものだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第三部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。
一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。
その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。
この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。
そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。
『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。
誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
下げ渡された婚約者
相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。
しかしある日、第一王子である兄が言った。
「ルイーザとの婚約を破棄する」
愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。
「あのルイーザが受け入れたのか?」
「代わりの婿を用意するならという条件付きで」
「代わり?」
「お前だ、アルフレッド!」
おさがりの婚約者なんて聞いてない!
しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。
アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。
「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」
「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる