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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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「夫人、アードラー伯爵夫人、お待ちを」
「え――?」
 肩越しに首をひねる仕草ひとつ、ドレスに流れるひだまでも、ため息の出るような優雅さでふりむいた夫人は、アルファレドの姿をみとめると、裾をつまんでお辞儀をした。
「まあ、アルファレド殿下。久方ぶりにご尊顔を拝し奉りました。御機嫌麗しゅう……」
 いや、麗しくない。ちっとも麗しくないぞ。
「夫人、大公に妃教育を……?」
「妃教育? いえ、まさか。必要ありませんでしょう、あの御方には」
 そんな馬鹿な。
「必要ないはず、ないでしょう」
「そうですの?」
「だって、態度はでかいし、口は悪いし、言葉遣い含めて礼儀作法はなってないし、王子である私に頭も下げないし、歩く速度は軍人並だし、髪は短い上に結わない、飾らないで全然かまってない感じだし、着ているものといったら魔道士用のローブのヘビーローテーションで、身だしなみも絶対おかしい」
「あらあら、まあまあ、よくご覧になっておいでですこと」
 ころころと夫人が楽し気な笑い声をあげる。
「アルファレド殿下は、大公殿下に大層ご興味がおありなのですね」
「やめてください、何故そんな恐ろしい冗談をっ」
「何故……、と申しまして、ねぇ」
 おっとりと夫人は小首を傾げた。
「ご指摘のあたり、ファウスティーナ嬢は完璧でしたけれど、殿下はお気に召さず、下町育ちの元気いっぱいで天真爛漫な乙女をお選びになりましたものねぇ?」
「うぐっ」
 この場合、元気いっぱいで天真爛漫というのは、マナーを知らずガサツ、と訳される。
「ですから、殿下は貴婦人のたしなみや礼儀作法には、まっっったくご興味がないのかと思っておりましたが……、私の思い違いでしたわ。ほ・ほ・ほ」
 ……にこにことトドメを刺しに来る夫人は、アルファレドのことを良く思っていない。
 理由は明白。アルファレドが彼女の愛弟子を辱めたから。
 最初の婚約者、ファウスティーナ。アルファレドとは同い年の、名門貴族グレイル侯爵家の令嬢で、美人の才媛。彼女とは八歳のときに婚約した。
 貴族によくある家同士の都合による縁組で、将来的に政略結婚になることは明白だったが、とにかく両者は幼なじみになるべく引き合わされ、好きも嫌いもないうちに婚約が成立した。全ては周囲のお膳立てだったが、何度か会ううちに、ファナ、アルフ、と愛称で呼びあう程度には仲良くなった。問題は、それ以上、仲良くならなかったこと。
 たまに会うだけなら、お互い礼儀正しくいられる。しかし日常的に顔をあわせるようになると、それまで見えなかったアラが目立つようになるものだ。
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