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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 ベッドでごろ寝して目を閉じると、館の中でざわめく空気を感じる。
 これは、あてこすられているのか?
 ご多忙な大公どのに対し、アルファレドはとにかくヒマだ。王太子のときは国王を補佐し、その代行を務めたり、自身の公務をこなしたりで、日々の予定は秘書官の持つスケジュール帳が真っ黒になるほど過密だった。現在、予定は全て白紙になっている。頑強に部屋に立てこもった結果、予定が立たなくなったのだ。秘書官は仕事がなくなって他の部署に移った。
 また誰かが足早に部屋の外を通りすぎていく。分厚い扉をへだてているとはいえ、こういう空気の中で昼まで布団をかぶっているのは、なかなかメンタルを試される……。
 大公自身は王にでも呼ばれるのか、他での用事もあるらしく、たまに外出もしているようだが、こちらの部屋は素通りだ。
 かまうヒマもないと? それとも、関心がない?
 目と鼻の先の距離なのに、ここまで放置されていると、だんだん不安になってくる。こちらから御機嫌うかがいに行くべきかと弱気になり、いやいや、と思い直し、そんなことを繰り返しながら部屋の外に神経を尖らせているせいで、通りすぎる足音の種類まで聞きわけられるようになってしまった。
 書類を抱えた役人たちの革靴の音。布の内履きで小走りするのは召使たち。近衛兵の革の軍靴の響きは、硬く重く規則正しい。
 大公は革靴を履いているらしく、その足音は堅く、だが、近衛兵より軽い。そして軍隊の行進並みに速い。慎みはないのか。
 ないのだろうな。
 大公は例の小姓の他に、もう一人黒髪のメイドが付き従っているが、この二人は一切足音を立てず、いささか不気味である。あるいは、この二人、召使に偽装した護衛という可能性もある。しかし、足音を立てないといえば、ファウスティーナも衣擦れの他は、ほとんど足音を立てず、すべるように歩きまわっていた。
 直に接していたときは気に留めたこともなかったが、どうやら淑女と密偵の類は、足音を立ててはならぬものらしい。誇り高い彼女のこと、まれに石畳の上でヒールを鳴らすときは、その響きにさえ気位が感じられた。
 対照的に、ミリアムの足音はいつも軽やかで、はずむような足どりそのままで……。
 甦った記憶に浸りかけ、ハッとアルファレドは我に返った。
 足音の分類なんか、詳しくなってどうする?
 しわくちゃになった紋章入りクッションを放り投げ、ベッドカバーの上に腹這いになって、枕の横に立てかけてあった本をとる。ただ篭城しているのも落ちつかないので、人目を盗んで王室の書庫から掠め取ってきた一冊だ。
 本の内容は、テオフィルスの地理や歴史について。基本的な情報を簡潔にまとめてあるが、国の重要事項であるランシエナ地方には、大きく章が割かれている。
 表紙を開くと、少し黄ばんだページが、ぱらりとめくれた。
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