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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。

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 彼女たちは、それぞれタイプは違ったが、どちらも美人だった。こうして見ると、大公もまた美人だ。いや、美しいカタチという意味で、美形と呼んだほうが、より正確か。
――が。
 いくら眺めても、それ以上の感想が浮かばない相手もいるのだと、初めて知った。
 大公の端整さは、どこか数式的だ。ある種の数学者ならともかく、どれほど整っていても幾何学的模様を前に欲情する人間はいない。
 ただし、瞳の色は変わっている。最初は黒かと思ったが、違う。青だ。色が濃すぎるせいで黒く見えるのだが、光の加減によって青や緑や金の遊色が浮かぶ。なんと言ったか、こんな宝石が確かあったな……。
 魔法使いだからか? しかし、魔法使いと言えば……。
 アルファレドはさりげなく視線を下げた。
 大公は低い立ち襟のついた、ナイトガウンのような服を着ている。宮廷魔道士の連中が、王家の紋章入りお仕着せの長衣ローブの下に、こういうストンとした形の服をよく着ているが、無論、まともな貴婦人が着る服ではない。髪も短く、肩に触れるかという程度で、あまりかまっているふうでもない。
 食器の触れ合う音が、食堂にかすかに響く。
 しかし本当に無口な殿下だ。昨夜も国王に挨拶した以外は一言も口をきかなかったし、辺境暮らしで他の貴族と話したことがないせいだろうか。もしかして引っ込み思案か、と疑い、それはないなと自分で打ち消す。なにせ初対面で金縛りをかけてくるようなやつだ。
 大公の傍について給仕をしているのは、見慣れない小姓だ。十三、四ほどの美少年で、黒字に金のラインが入った服を着て、肌は浅黒く、髪も艶のある漆黒、ただし前髪の一房が雪のように白くなっているのが、やけに目立つ。猫のような金色の目に、つんと尖った鼻をした小姓は、ナイフを手に林檎をむいている。薄く器用にむかれた皮が、くるくると赤い螺旋を描いて白磁の皿の上に落ちた。
 近くで刃物を使うことを許されているとは、大層信頼されているようだが……。
 こういうのを侍らせるのが趣味なのか?
 大公は依然、無言を貫いている。
 いたたまれない沈黙に、天気の話題でも持ち出したほうがいいのかとアルファレドが気をもみはじめたころ、林檎を食べ終え、食後の茶をきっちり二杯飲み干した大公は、カップを受け皿に戻し、立ちあがった。
「仕事にかかる。二時まで邪魔をするな」
「かしこまりました」
 小姓が頭をさげる。
「お、おい――」
 思わず呼びとめると、大公は足をとめ、胡乱な目をむけた。
「父上――」じゃない。「陛下が、説明しろ、と……」
 大公は小さく眉を顰め、十秒ほどかけて、アルファレドの頭のてっぺんから足の先まで視線を往復させた。
「自分で正しい質問も思いつかん愚か者に、かける言葉などない」
「な……っ」
 アルファレドが絶句している隙に、大公は出て行った。
「なんなんだ、あの女……っ」
 という叫びは、閉ざされた扉に虚しく跳ね返った。
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