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第1話「付喪神」其の六
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とても大きな虎獣人だ。身長は190cmを超えているだろう。
腕を組んで仁王立ちし、店長と同じ青色のつなぎを着て、腰から上の部分を腰に巻いて筋肉質の上半身を露わにしている。瞳の色も澄んだ青色だ。そして特筆すべきはその体の色だ。白い。ホワイトタイガーだ。実際に獣人を見るのは初めてだが、ホワイトタイガーとなると尚のこと珍しい。
「こら、千早(ちはや)。接客中だぞ」
「俺にだって接客ぐらいさせろ。何しろこいつに選ばれた奴なら顔を見ておきたい。おい、定信、どっちだ」
「いや、すまんすまん。驚かしてしまったみたいだね。これは付喪神の千早。店の奥にあるトライアンフのタイガーっていうバイクに憑いてる」
え、付喪神って───。
「で、どっちだ」
「あの、僕です」
「おまえか」
どかどかと僕の前に寄り、じっと顔を見る。鼻息が顔に当たるほど近い。
「名はなんと言う」
「し、新城直弘」
「直弘、か。」
「こら、千早。お客様に失礼だぞ。まずは、イグニッションはここね。キルスイッチはここ。ギアは6速あるからね。それから・・・」
説明を聞きながら、猪口さんがやけに静かなことに気付き、彼のほうへ目をやる。彼はただ、千早と呼ばれた付喪神を凝視していた。
「あれ、猪口さん、どうかした?」
「おい、ぼうず、俺の顔がどうかしたか?」
「こら。・・・お客さん、どうかしました?」
三人が猪口さんの異変に気付き、声をかける。
「俺…俺…ずっと獣人に会いたかったんだ、いや、会いたいのは、この人じゃないけど…」
涙声だ。
「ぼうず、俺は獣人じゃない、付喪神だ」
「分かってます…。でも、ただ、うれしくて…だって、獣人といったら、国家警察の特殊部隊にしかいないじゃないですか」
確かに獣人は国家警察獣人特殊部隊(SAT-T)にしかいない。そして、彼らは特殊部隊の敷地内で生活をし、出動時以外、敷地外へ出ることはほとんど無い。僕もテレビで見たことがあるくらいで、生で見たことはまだない。
「だから、俺は獣人じゃないと…」
「君、名前は?」
店長が尋ねる。
「猪口昭人といいます」
「猪口君、これは獣人じゃないけど、良かったらまた来るかい?千早の話し相手にでもなってやってくれ」
「うっす!!」
「さて、これで車体の説明は終わったけど何か質問はあるかい?」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
店長にお辞儀をする。
「それから最後にだけど…」
そう店長が切り出すと、猪口さんの前にいた千早も僕の前にやってきた。
「最後にだけど、もしこのセローに異変というか、『変わったこと』があれば、連絡くれるかな?」
「『変わったこと』?」
「そのままだ、直弘」
店長の代わりに千早が答える。
「まぁ、そのうち分かるさ」
笑いながら、店長はそう言った。
「じゃあここで」
「おう、気を付けろよ」
店の前で猪口さんと別れ、初めてのバイクで帰路につく。
「あれ?すごく揺れる!スピードも出ない…ってかバックミラーブレ過ぎでしょう!エンジンもすごい音してるし!」
初めての公道走行。真横をクルマが猛スピードで行き交う。背中にいやな汗が伝う。
と、その時 、
(上だ。上げろ)
「上……?上げ……?上げ上げ… シフトチェンジか!!」
教習所では1速か2速で走っていた。急制動以外にシフトアップしてスピードを出す理由がそこにはなかったからである。
試しにクラッチを握り、シフトアップしてみた。確かにエンジンの大きな音と、ハンドルのブレが治まった。
(そうだ。速度を上げるときはそうすればいい)
そうか。そうなんだ 「…って誰??」
ヘルメット被ってて声が聞こえるか。絶対何かの聞き間違いに違いない。そう言い聞かせて。
(もうすぐ雨が降ってくるぞ。急げよ)
やっぱ聞こえるし!!
今朝テレビで見た天気予報で、昼から西日本全域で雨になると言ってたな。そうだ。そのことを無意識に思い出したんだな…。ああ、本当に降ってきた。
程なく雨は本降りとなり、僕たちはズブ濡れで帰った。雨は嫌いだが、そのときは珍しく、僕たちの出会いを祝福してくれている気がして気持ちが良かった。
アパートに戻って、駐輪場でもしかしてと思い、新しい相棒に、
「雨に降られちゃったねー。でも初めて逢った日が思い出に残るからいいよね。本当は部屋まで入れたいけど4階やから無理やで、バイクカバーで堪忍な」
と、話しかけてみた。
予想通り、大きな独り言で終わった。
腕を組んで仁王立ちし、店長と同じ青色のつなぎを着て、腰から上の部分を腰に巻いて筋肉質の上半身を露わにしている。瞳の色も澄んだ青色だ。そして特筆すべきはその体の色だ。白い。ホワイトタイガーだ。実際に獣人を見るのは初めてだが、ホワイトタイガーとなると尚のこと珍しい。
「こら、千早(ちはや)。接客中だぞ」
「俺にだって接客ぐらいさせろ。何しろこいつに選ばれた奴なら顔を見ておきたい。おい、定信、どっちだ」
「いや、すまんすまん。驚かしてしまったみたいだね。これは付喪神の千早。店の奥にあるトライアンフのタイガーっていうバイクに憑いてる」
え、付喪神って───。
「で、どっちだ」
「あの、僕です」
「おまえか」
どかどかと僕の前に寄り、じっと顔を見る。鼻息が顔に当たるほど近い。
「名はなんと言う」
「し、新城直弘」
「直弘、か。」
「こら、千早。お客様に失礼だぞ。まずは、イグニッションはここね。キルスイッチはここ。ギアは6速あるからね。それから・・・」
説明を聞きながら、猪口さんがやけに静かなことに気付き、彼のほうへ目をやる。彼はただ、千早と呼ばれた付喪神を凝視していた。
「あれ、猪口さん、どうかした?」
「おい、ぼうず、俺の顔がどうかしたか?」
「こら。・・・お客さん、どうかしました?」
三人が猪口さんの異変に気付き、声をかける。
「俺…俺…ずっと獣人に会いたかったんだ、いや、会いたいのは、この人じゃないけど…」
涙声だ。
「ぼうず、俺は獣人じゃない、付喪神だ」
「分かってます…。でも、ただ、うれしくて…だって、獣人といったら、国家警察の特殊部隊にしかいないじゃないですか」
確かに獣人は国家警察獣人特殊部隊(SAT-T)にしかいない。そして、彼らは特殊部隊の敷地内で生活をし、出動時以外、敷地外へ出ることはほとんど無い。僕もテレビで見たことがあるくらいで、生で見たことはまだない。
「だから、俺は獣人じゃないと…」
「君、名前は?」
店長が尋ねる。
「猪口昭人といいます」
「猪口君、これは獣人じゃないけど、良かったらまた来るかい?千早の話し相手にでもなってやってくれ」
「うっす!!」
「さて、これで車体の説明は終わったけど何か質問はあるかい?」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
店長にお辞儀をする。
「それから最後にだけど…」
そう店長が切り出すと、猪口さんの前にいた千早も僕の前にやってきた。
「最後にだけど、もしこのセローに異変というか、『変わったこと』があれば、連絡くれるかな?」
「『変わったこと』?」
「そのままだ、直弘」
店長の代わりに千早が答える。
「まぁ、そのうち分かるさ」
笑いながら、店長はそう言った。
「じゃあここで」
「おう、気を付けろよ」
店の前で猪口さんと別れ、初めてのバイクで帰路につく。
「あれ?すごく揺れる!スピードも出ない…ってかバックミラーブレ過ぎでしょう!エンジンもすごい音してるし!」
初めての公道走行。真横をクルマが猛スピードで行き交う。背中にいやな汗が伝う。
と、その時 、
(上だ。上げろ)
「上……?上げ……?上げ上げ… シフトチェンジか!!」
教習所では1速か2速で走っていた。急制動以外にシフトアップしてスピードを出す理由がそこにはなかったからである。
試しにクラッチを握り、シフトアップしてみた。確かにエンジンの大きな音と、ハンドルのブレが治まった。
(そうだ。速度を上げるときはそうすればいい)
そうか。そうなんだ 「…って誰??」
ヘルメット被ってて声が聞こえるか。絶対何かの聞き間違いに違いない。そう言い聞かせて。
(もうすぐ雨が降ってくるぞ。急げよ)
やっぱ聞こえるし!!
今朝テレビで見た天気予報で、昼から西日本全域で雨になると言ってたな。そうだ。そのことを無意識に思い出したんだな…。ああ、本当に降ってきた。
程なく雨は本降りとなり、僕たちはズブ濡れで帰った。雨は嫌いだが、そのときは珍しく、僕たちの出会いを祝福してくれている気がして気持ちが良かった。
アパートに戻って、駐輪場でもしかしてと思い、新しい相棒に、
「雨に降られちゃったねー。でも初めて逢った日が思い出に残るからいいよね。本当は部屋まで入れたいけど4階やから無理やで、バイクカバーで堪忍な」
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