冬馬君の夏

だかずお

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『サーとスーの楽しかった旅』

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グウグウ、スヤスヤ。

二人はよっぽど疲れたのだろうイビキをかいて眠りこけている。

ザーッ ザーッ ザーッ

深夜二時をまわったところ、まだ彼らのネタを引っ張るのかと読者の皆様もお思いでしょう。

そう引っ張るのです




「ぐがががががっ」

「ぐぎゅるるるるっ」


パチッ

多網父の腹の音のような奇っ怪なイビキの音で、とけたみは突然目を覚ましてしまう。

「あっ、まだ夜中だ」そして雨はまだ強い。


時刻は深夜2時

「えっ、ここどこ?」
とけたみさんは部屋の景色がいつもと違うから一瞬、異界に迷いこんでしまったんではないかとギョッとした。
旅行に来てるのである。

「ぐがががが」
多網父はぐうすか布団をかぶり夢の中。

降りしきる雨の音と動くクーラーの音が部屋の中に鳴り響いている。

「あーイビキのせいで目が覚めちゃったもーこんな夜中に怖いなぁ」

いい歳して夜中をこわがる、あんたが怖い。


ザーッ ザーッ


あーもう初めての部屋で一人起きてるなんて。

とけたみさんは立上がりテレビをつけようとした。

ちなみに部屋の電気は付けっぱなしで寝ていた二人。

はやく、人の声をききたい人の顔もみたい、テレビ、テレビ。

突然目を覚ます、多網父

「あれっ、とけたみさん起きてたの?」

「ぎゃあっ」突然の声に心臓がにゅるにゅるなっちゃったとけたみさん。どんな表現だ。

しかし、少しホッとした。

多網父が起きたので、テレビをつけるのをやめた。

ザーッ ザーッ ザーッ 

二人は布団にくるまりながら語りはじめた。

「なんだかさぁ、旅の終わりが近づくと少ししみじみしちゃうね」
とけたみさんが言った。

「明日の朝はもう帰るんだもんなぁ」

「はやかったね」

二人は布団の中、しみじみしていた。

「知らない土地ですごすって、なんだかワクワクするし楽しいよね」と多網父

「本当に楽しい旅だった、明日からまたいつもの日常に戻るんだね」

「うん」

思ったのだが、彼らはボーリングしかしてなかったような・・・・

ザーッ ザーッ ザーッ サー

偶然発せられた二人の声はハモった。
「楽しかったなぁ」

「なんだか、眠れないね」
とけたみさんの目はパッチリと開いていた。

「うん」

「この夏は久しぶりにこんなに会えて良かった」多網父は七夕祭りを少し振り返っていた。

「これからも、ちょくちょく会いましょうね」

「そうですね」

二人は何だか感慨深い気持ちになっている。
何故なら二人で旅行に最後に来たのは学生を卒業した時以来だったからだ。

いまや、お互い大人になり、多網父に関しては二人の子供までいる。

「ここまで、過ぎてみるとあっという間だったなぁ」多網父は微笑んだ。

「沢山、辛いことも嫌な事もあったけど、今は笑って人生を振り返れるね」とけたみさんが言った。

「過ぎてみりゃ、もうなんでもいいやと思えるよ、肥やしになったんだねぇ」

「良いこというねぇ、モヤシ モヤシ」

どんなギャグだとけたみよ。

「老人になっても仲良くしましょう」
二人は熱い友情を感じあっていた。

そして、若い頃の思い出話などをして懐かしんだ。

あんなことあったなぁ、あんな恋をした。
あんなこと感じたり、あんなとこにも行った。
しみじみ生きてきたことを振り返り感じていた。

おっ、どうした?今の二人ちょっとなんか、違うぞ 笑。

「ああ、楽しいこの時間いつまでも、続いてくれぇ、なんてね」
とけたみさんは笑った。

寝ながら、しみじみと普段しないような、こんな話が出来るのも、また旅の素敵な醍醐味だった。

最初は元気よく話ていたが、徐々に多網父を眠気が誘う。

眠る直前まで人と話し、気づいたら寝ていた これは多網父の結構好きなことであった。
あっ、冬馬君と一緒だ!

半分目が閉じ始めた。
そしてこの極楽フルコースに多網父の口元はニンマリ笑った。
あっ、あっ、この瞬間たまらん。
あー眠る瞬間たまらん。

が、とけたみは見逃さなかった。

友が寝たら自分は一人
そんな時にさっきの怖い番組思い出したら大変、寝かしてたまるか。

マシンガントークが、始まった。

「ねぇ、次は旅行どこいきたい?」

「味噌汁なにが一番好き?」

「最後いつゲリした?」

「日本って世界で何番目に人口多い?」

「雪食べたことある?」

もう、はちゃめちゃである。

はっ!

返事がない

やばい

これしかない

「大変、大変 さっきのテレビのお化けがでたよー」

ガキか。

起きない

そんなこと言って自分が怖くなってしまった。

ザーッ ザーッ ザーッ

多網父はイビキをかいて眠っている。

まじかぁ。

最後の手段、足の裏くすぐりをやったが起きなかった。

あーもう寝るしかない

目はがん開きだった。
パッチリ

その時

ガタガタ 窓の揺れる音

「えっ、なに、嘘 怪物?」

風である。

「えっ、ちょっとヤバイんじゃない」

そりゃ、あんたである。

ザーッ ザーッ ザーッ

「この音、本当に雨? 本当は雨なんか降ってないんじゃないの?」

すごい発想である

とけたみは窓の外を見て言った。

「あっ、雨だ」

ザーッ ザーッ スー

「ちょっとこれヤバイなぁ」

グガー

「ひゃあっ」

多網父のイビキにすらビックリしているとけたみさんこと通称スー。

「あーもう、おどかさないでよ」

誰もおどかしちゃいない。

「あーこういう時って時間たつのが遅いんだよ、お天道さんはやく起きてよ、寝過ぎだよ、遅刻だよ、これじゃあ卒業出来ないよ」
とけたみさんは余程こわかったのかブツブツ喋りはじめた。
だが、言わせてもらえば、もはやあんたが一番こわい。
幽霊すら近寄らないだろう。

「あーどうして背中の真ん中がかゆいんだよぉ」と言い放ち、 とけたみさんは目をつむった。

「そうだ、こんな時は楽しい事を考えよう、えっと最近見たテレビで一番笑ったのは?」

「ひゃあっ」
テレビを連想して、さっきの番組のいっとう怖いお化けちゃまの顔がどあっぷで出てきた。

「ぎゃあああっ」
ちっちがポコちんから一滴飛び出してしまう。

「はひゅ、はひゅ」
いかんこの歳でもらすのはまずい。
今漏らしたら今年になって随分漏らしてることになるじゃないか。
月三ペースはやだよ。

そんな漏らしていたのか、とけたみさんよ。

「羊を数えると眠くなるらしいから数えよう」

とけたみさんは羊を数えはじめた。

「羊が一匹、羊が二匹」

四百五十程かぞえた時、ある疑問が頭に浮かんだ。

あれっ、そう言えば羊ってどんな顔だったっけ?

今まで背中だけを見せていた、羊達、四百五十匹が一斉にとけたみさんに振り向いた。

なんと、その顔はサーこと、多網父の顔だった。

その名もサー羊は一斉に声をあげた。

「サーサーサーサーサーサーサーサーサー」
メェーならぬサーであった。

「んぎゃああっ」
ちっち、二滴放出。

しかも、サー羊は妙にイラつかせた。

「サーサーサーサーサーサーサーサーサー」

こんなの寝れるかぁ!!

その時だった、窓ガラスに顔が。

「ぎゃああっ、なんて気の抜けたお化け~ついに出たー」

だから、ガラスに写るあんたの顔である。

そんな時、見かねた奴はかえってきた。
そう、雷野郎である。

「アイルびーばっく」
奴はちょっと、ターミネーターにはまってこの言葉をつかってみたかった。
やったあ。


ピカッ 光った。


「ほぎょーーーっ」
とけたみは心臓が飛び出しそうになるのをこらえ、とっさに金玉を手でガードした。


だから、ガードするとこおかしいだろう。


「しめた、今は一人だな」
もう一度いうが、いったいどんだけどエスな雷さんだ。


ピカッ

「くらえゃー」

とけたみは光った時にまた窓にうつる顔を見た。
光ったおかげで気の抜けた顔に生気が戻り力強くみえた。

「ぎゃーたくましい 幽霊になったあ」

そして、すかさず


ゴロン


「きよらなゆにゆなりやなはやわにらまなゆひりやなやに」

雷はとけたみさんの金玉に直撃した。

ビリビリ ビリビリ

「まっまー」
薄れゆく意識の中、とけたみさんは
こんな事を一瞬思ったと言う。

あっ、ちょっと気持ちいいかも。
だが、そのまま電流は全身に。
ビリビリ ビリビリ



ボカ~ン











ちゅん、ちゅん


朝だった。

「あれっ?」

あっ昨日、金玉に雷当たって死んだんじゃなかったか?

サラッとすごいこと言うな、とけたみよ。

あっ、当たってなかったのか、きっと、音にビックリして気絶しちゃったんだ。


あっ!!!!!!!!


布団は濡れていた。










めでたし





めでたし



朝食を済まし。

二人は今、帰りの電車に乗っている。


そして、いよいよお別れの時。

降りるのはとけたみさんだった。

「いよいよ、次の駅で、さよならだね 次、僕 乗り換えなくっちゃ」

「なんだか、寂しいね」と多網父

「うん。本当にありがとう、最高に楽しかったよ」とけたみさんが頭を軽く下げ会釈した。

「こちらこそ、ありがとう」多網父も軽く頭を下げ会釈した。


電車はついに二人が別れる駅についた。


「また、夏中に会えたら会おう、子供達や奥さんによろしくね、来年もまた祭りにみんなでおいでね」

「うん、そっちも体に気をつけて、また会おう」

「じゃあ」

「じゃあ」

とけたみさんは電車を降り、手を降り歩きだした。

多網父はとけたみさんの階段を降りる背中をいつまでも見ていた。

「ああ、いっちゃった」

さっきまで隣に居た、とけたみさんは降りてしまい、少し寂しい車内の中。


「ありがとう、とけたみさん、また旅行行こうね」


二人にとって素敵な夏の思い出になった旅だった。


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