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『旅の始まり』
しおりを挟む毎度のごとく、旅行前日の夜はやはり興奮冷めやらず中々眠りにつけなかった。
「やっぱり旅行前ってなんかワクワクして寝られないや」冬馬君が言う。
「うん、確かに」子供達は布団の中で横になりながらも眠らず、まだ語り合っている。時刻は23時あたりだった。
「スーも加わる旅行どうなるんだろうね?」大喜も、スーと共に行く初の大晦日旅行の展開を楽しみにしている様だ。
一体今回はどんな旅行になると言うのだろうか?
まだ見ぬ思い出や経験に胸を弾ませてしまう。
この日も寒い夜だったのだが、皆が集まる部屋はあまり寒さを感じず暖かかった。 明日は旅行。
子供達は暖かい布団の温もりの中、気づいたら眠りについていた。
朝一番最初に目を覚ましたのは多網。
むくっと起き上がり、今日の日を歓迎するかの様に、嬉しそうに皆を起こし始める「朝が来た」
その言葉にすぐに目を開ける一同。
「よっしゃー行くでぇ~~」きみ子が気合い満々に吠える。うん、やはりこうゆう時は目覚めは良い。
こうして旅の朝が始まる。
そんな時だった、こんな声が多網の部屋の外から聞こえた。
「えっ、大丈夫?」それはサーの声。
どうやら多網ママが風邪気味の様で家に残り休んでいるとのこと。
「今日行くの中止にしようか?」サーの声
それを聞きドキッとする子供達。
「せっかく子供達も楽しみにしてるし、あなたは行ってきてあげて、私は多美とお留守番してるから」
「バブ?(は?)」この予想外の展開に、一番驚いたのは多美だった。
なんで私も残らなきゃあかんのじゃい?
彼女は必死に抗議する。
「バブ バブーア ワタチモー バブ バブ イキタイ~~ブーア」
「はいはい、分かりましたよ、多美はいい子でちゅねー、一緒に留守番してるって」
「バーーーーワワブービー(なに言っとんじゃワレ~んな事一言も言ってないわ、冗談きついぜ」
「ブーア ブーア タイコ」(あんたは少しタイコさんを見習え)こうして多美も居残り決定。
子供達は朝食を済ませ、昨日既に用意していた鞄を持ってリビングでテレビアニメを観ている。
「この旅行前とかに観てたテレビって、意外に思い出に残ってるんだよね」冬馬君が言った。
そんな話をしているうちに、ピンポーン 玄関のチャイムが鳴る。
「きっとスーだ」きみ子の言葉に反応して、すぐに玄関に多網が走って出迎えに行く。
ガチャ
「やあ、おはよう多網君」そこにはサーの親友とけたみこと通称スーの姿が。
その姿を見て多網ママ「どうぞ上がって下さい、こないだのクリスマス会ではお騒がせしました」少し恥ずかしそうな多網ママ、きっとウェルカムウィメンに変身した事を言ってるんだな、冬馬君は思った。
「あなた、スーさん来ましたよ」
その声にサーが嬉しそうに玄関にやってくる。
「おはようスー、今日はよろしく」
子供達もみんな玄関に「スーおはよう」
「みんなおはよう」
「まだ支度中だからちょっと上がって待っててよ」
「お邪魔しまースー」(こんなとこでもさりげなく自分のあだ名を入れている)
多網ママが風邪気味で今日一緒に行けない事を聞くスー「そうだったんですか、なんかすいません急に誘ってしまって」
「良いんですよ、私達のぶんまで楽しんで来て下さい」
「バブ?」(え?)多美は思う。だから、あたちは連れてけって言うの~~
サーは洗面所で、気合いを入れて念入りに髭剃りをしていたジャァーガァァー 眼鏡を磨きキュッ、歯を磨き、準備完了。
「みんなお待たせ、じゃあ行こうか」
「オーーッ」
こうしていざ旅行に出発~~~~
この出発の瞬間の車に乗り込む時がまたたまらない。
「みんな忘れ物はないね」運転席についたサーが言った。
「大丈夫~~」
「じゃー出発だぁー」
ブゥゥーン
すると、きみ子が「そういえばスー、どんなホテル予約したの?」
「へへへ、実はねホテルじゃないんだ」
「え?」
「なんと、森の中にある、泊まれる一軒家に泊まるんだ」
「ひょわあわーー」喜ぶ子供達
「驚くにはまだはやい、そこは何とまわりに何にもなくて森の中、そして露天風呂までついてるんだ、もちろん内風呂もあるからお風呂二つ、和室もあるよ」
「うきゃあああああーーーっ」一同は猿の如し喜んだ。なんて最高なんだ~~ 神さま~ありがとう~~
「じゃあ夕飯は自分達で作るか、食べに行くのも良いね」サーが言った。
「自分達で作るのも楽しそう」大喜は頭に何故か鰻を思い浮かべた。(何故や)
「なんかワクワクするね、スーありがとうこんな企画してくれて」サーもご機嫌である。
しかし、小夜さんの事はまだ会話に出ていなかった。
そんな中、きみ子が「小夜さんとは、その後連絡は?」とスーに質問した。
皆が気になっている質問である。
一瞬黙り込むスーの姿に一同に緊張が走る。
「あれ以来、連絡はとってないよ」
「そっか」少し寂しそうにきみ子が言った。
ここからまさかの大人を交えた、朝の語り合いが車中で始まろうとは誰が思っただろうか。
車の外の景色はまだ見慣れた多網家近所の景色であった。
「僕もう恋愛はしない事にしたんだ」スーがキッパリと言ったその発言に一同は驚く。
「どうして?」と、冬馬君。
「人を好きになって、その人を失った後、なんだか愛を注ぐ対象を失ってなんか寂しくなっちゃって、こんな気持ちを味わうならもう恋は良いやなんて」
「何を言ってるんだよスー」すぐに意見したのはサー
おっ、なんか熱くなってきたな 、多網は思う プリッ(すかしっ屁)
「そんな事言ってたら誰も人を愛するなんて出来ないじゃないか」
ブリッ(多網の濃いっ屁) 二か所の窓が開く。
スーも自分の意見を心から納得して決めた事ではなかったのだろう、自分の中で引っかかる気持ちを感じながらサーの言葉を聞いていた。
「そしたら、人はいつ死んじゃうかなんて分からないし、フラれたって理由だけじゃなくてもいつだってそんな事は起こるかも知れない、そんな理由で愛するのをやめるなんて変じゃないかなと僕は思うけど」
「でもスーも、そんな事言ってても好きな人出来たら、そんな考えすら押しのけて勝手に恋しちゃうんじゃないの?」きみ子が言う。
冬馬君は清香の時を思い出した。
頭で好きになったんじゃない、気づいたら恋していた、例えフラれても清香に会った事を後悔はしないと思った。出会わなきゃ良かったと清香との思い出を無しにしようとは自分は思わないだろう。
だってこれだけ人を好きになった気持ちは自分にとって宝だったんだから。
もちろん嬉しい事だけじゃないかも知れない、相手を思い苦しみ、悩む事もあるかも知れない、考えたらそれは恋愛だけじゃない、人生、仕事、人間関係、生きてく上で楽しい時だけではない全てがある。
でもそれら全てが無駄なものとは冬馬君にはどうしても思えなかった。
やっぱり僕は清香に出会えて良かった
相手に慕われなくても、愛されなくても。
そんな事を考え冬馬君はスーに言った「小夜さんと出会って楽しかった思い出も無くても良かったの?」
ハッとするスー
スーの頭の中に小夜さんとの楽しかった日々が思い出された。共に笑いあい、一緒に食事したり、デートしたり、話あったり、夜通しメールしたり(ほとんどスーが寝ずに待っていただけ)すぐに涙を拭う。
別れて全てを悲しい駄目な思い出にしてしまっていた自分の物の見方に気づいた。
「そうだね、小夜さんとの思い出は僕にとっては宝だ。自分が傷ついたり、虚しくならない為に恋愛しないなんて逃げる必要ないんだね、失う怖さも含めて受け入れて、人を愛してみたいな、僕は考えたら小夜さんを愛するってよりも、どうしたら自分が気に入られ
るかって事ばかり考えてて、なんだか思い返すと恥ずかしいよ、そんな僕の姿きっと小夜さんは気づいてたかも」
「でも、そうゆう自分の姿に気づくスーは素敵だよ」サーが言う。
「いやいや、そんな事言ってくれるサーのが素敵だよ」
出たなお互いの褒め合戦、多網がニヤリ笑う プリッ
窓開き箇所もういっちょ追加。
「まっ、まずは最初に自分を愛するのが大事だよね」
スーが言う。
冬馬君はいつかの犬おじさんの話を思い出した。
君が自分を愛さないで一体誰に愛してもらうと言うんだい?自分だけは自分を愛してあげないと。
自分を大切にしてあげると愛が自分から溢れてたという大事な事に気づく。
考えたら誰かの愛が欲しい、あなたの愛が欲しいのよと人の愛を常に渇望している人は自分の中にある愛を忘れてしまっているのかも、きっとそれでは他人から愛され、得た愛もすぐに枯れてしまい常に外を追い求めてるんだろう。
理由は簡単だ。自分の中にこそある愛をきっと忘れて外を探し求めてるんだ。愛が自給自足出来る事を忘れてる。
自分を愛さない人はきっとどんなに愛されてもその愛を本当に受け取る事は出来ないのかも知れない。
こんな言葉を思い出す。
自分を愛さない人は他人も愛さない、自分を愛する人は他人も愛する。
たしかに自分を大切にしない人がひとを大切に出来るとはあまり思えない。
ちょっとずつでも良い、自分が自分を愛する事を忘れてはいけない。自分を愛する事は恥ずかしい事でも、いけない事でもなんでもないのだから。
自分を愛するのに理由なんか必要ないではないか。
自分を愛せない理由なんて窓から放り投げてしまおう。
冬馬君らしからぬ、珍しく真面目な思いが浮かぶ。
自分だけは自分を愛してあげよう
ブリッ けたたましい多網の屁が車内に充満し渡る。
全ての窓が真冬にも関わらず全開した。
外の景色は高速インターに入る所
すぐに気持ちが切り替わる男スーはこんな事を言う
「この旅行で出会いあるかな?」一同は大笑い
「あるかも知れないよ、チャンスはいつだってあるから」盛り上がる一同
さてどんな旅行が待っているのか?
冬馬君達を乗せた車は高速道路を進んで行く。
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