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『語る蛇鰐美』
しおりを挟むいやぁ、恐ろしいトランプゲームだった。
今だに大喜の顔の真横でまばたき一つせず硬直している蛇鰐美ちゃん。
死んでるんじゃないかコヤツは?と思う程。
まるでリアルな剥製はくせい。
そう、蛇鰐美の剥製は大喜の顔の横ドアップで繰り広げられている。
それは世界遺産に登録されかねない圧巻な風景である。
とりあえず夜中に行きたくない場所であることは間違いない。
「ねぇ、きみ子。蛇鰐美ちゃんどうなっちゃったの?」気になる大喜が言う。
「今異界をさまよってるけど大丈夫、連れ戻す方法がある」そう言いおもむろにiPhoneを取り出す。
「きみ子iPhone持ってたんだ?」と冬馬君。
「こないだ買ってもらっちゃった」
ピッ何かの画像を画面に出して、蛇鰐美ちゃんに見せる。
「なんの画像?」
うわああっ!!
何故かiPhoneに映し出されている画像は、鰐ワニ。
その瞬間、全身をブルっと動かし奴は復活した。
「あれっ、あたいまたバーストしてた?」
(なんじゃバーストって?)
冬馬君と大喜は思う。
コヤツは本当に人間の子なのだろうか?と。
恐るべし蛇鰐美ちゃん。
二人はある想像をしてゾッとする。
それは、きみ子、蛇鰐美ちゃん、虎鮫代ちゃん三匹、あっ、三人が一緒にいるところを想像してであった。
三人は一体どんな会話をしているのだろう?
すると予想外の展開に。
「そーいや、冬馬や大喜は好きなオナゴいんのかい?」
ドキッ 突然の質問に驚く。
「えーっとその」
照れもあり、話を変える為、とっさにこんな質問をしたった冬馬君。
「蛇鰐美ちゃんは?」
ビクッ
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル
蛇鰐美ちゃんの身体がプルプルし始める。
メーデー メーデー 痙攣中
なっ、なんだこれはマズイことを聞いてしもうたか?
すると「よく聞いてくれたのぅ」
ギロリ
やっやばいっ!!
やってもーたか?
ニカッ
「恋バナまでしちゃーもう、あたいらは同じ穴のむじなだな」 ニカッ(全くよー分からんかった)。
「ああ、いるぞ。ごっつ良い男じゃ」
「えーっ」なんだか興味がある。
多網は自分の鼻毛を抜いている。
「名前は、強者恐男きょうじゃこわお」
なんちゅー名前、絶対に知り合いになりたくない冬馬君と大喜。
「とっても繊細で、か弱い男じゃ」(嘘つけ~~)
「良いエピソードがあるんじゃい」
「あたいが宿題を忘れて困ってた時や」
蛇鰐美ちゃんが宿題を忘れて困る様なキャラにはどうしても見えない二人。
「そんな時やった」
「ちゃーちゃららららー(なんの演出か?鼻歌を歌いだす蛇鰐美)」
「あたいは宿題を忘れた事にイライラしとった、いや、正確に言えば宿題を出した先生にイライラしとった」(めちゃくちゃな)
あの頃、あたいも若かった。目はすわり、辺りを怒りから睨み回していた。
「そんな時やった、ちゃーチャラららラーららー」
「僕の宿題で良かったらあげます」
その声を聞き。
「前を見ると、そこに立つのは恐男やった」
彼はあたいに話かける淡い緊張の心からか、どことなく震えているようやった。
怖かっただけじゃないのか?冬馬君が思う。
「あたいはとにかく、その男気にやられた。言い換えればKOされたんや」
男気でもなんでもない気がするが、そこはあえて言わなかった。
「だがな、恐男は先生に問いただされることになる、お前宿題はどうしたんだ?と」
恐男は言った「忘れました」と。
「あたいはその言葉に胸が震え泣きそうになった、なんて尋常ならぬ男気」
「だが、そんな恐男も執拗な尋問にあう」
「忘れました?不思議だなぁ今朝やってある宿題を持っていたよなぁ?」(尋問でもなんでもない)
「そっ、それはその、あれは蛇鰐美さんのです」
「その悪質な尋問に恐男は見事にひっかけられて、こう言ってしまった」
「えっ蛇鰐美が宿題やってきた?おかしいな」
焦った恐男は「絶対に蛇鰐美ちゃんに僕の宿題は渡してません」と言った。
「ひっかけられたんや」
なにもひっかけられてはいないと思うが。
「本当か蛇鰐美」
「先生、恐男は宿題忘れとらん、忘れたのはこの蛇鰐美じゃ」あたしも女気を見せてやった。
一体なんの話じゃ、二人は思う。
きみ子は目を輝かせている「いつ聴いても良い話」
多網は鼻くそを指でこね丸めていた。
キンコーン カンコーン
「恐男すまんかったのう」
「僕こそ」
「たららららん~~(効果音。自分で歌っている)ところで恐男や。あんた好きなおなごおるのか?」
「きゃああっ、蛇鰐美ちゃん大胆」きみ子が言う。
「あたいは見た、恐男が嬉しさのあまりに震えているのを」
冬馬君と大喜は思う、怖くて震えてるんじゃないのか?
なんちゅーポジティブ、自分の都合のいい様にとらえる能力が発達したオナゴ蛇鰐美。
冬馬君は少し羨ましく思う。
「いっ、いや今はいません」
「そうか、恐男。そうなのか、あたいをどう見る?」
ギロリ
「あっ、その本当に誠心誠意を持ってお答えしています、決して嘘ではありません、かっ可愛いとすらまで思います、絶対に嘘はついておりません、だから許して~」
冬馬君と大喜はずっこけた。
めちゃくちゃビビってるじゃないかー、コヤツはそれに気づかないのか?
「あたいはそれを聴き思った。許して?あんたそれほどまであたいを好いておったのか。なんという男気」
(男気?)
「これは、相思相愛」
「その日からあたいは、自ら話しかけるように決めた、恐男はシャイなんじゃ。あたいから話しかけなきゃいけないと」
朝は「恐男、昨日宿題やったか?」と声かける。
「すると照れた恐男は、やってきた宿題を何故かあたいに差し出すんじゃ」
冬馬君達はズッコケた。
帰り際にもなんとか話そうと、頑張るあたい。
「今日沢山宿題でたのぅ」
「あっ、蛇鰐美さんの宿題預かりますよ」
「いいって」(もう一度言っておこう。彼女の声はドスの効いたかなり低い声である)
「いや、預かりますよ」
「そう言っては、あたいの宿題を持っていくんじゃ、きっと向こうもあたいと何か話すきっかけが欲しいんじゃろう」
舎弟ではないのか?
「うわぁーロマンティック、今度デート誘ってあげたら?」
「そりゃあ、良いな」
恐男さん卒倒するんではないか。
冬馬君と大喜は恐男さんを心配した。
そして恐男さんの気持ちに気づいていない蛇鰐美ちゃんが知った時どうなるのか。
これはもうお互い関わらない方が良いのではなかろうか。
その時だった。
多網が突然
「勝負」
「勝負?」
「ババ抜き」
冬馬君、大喜はギョッとする。
またトランプ?そう言えば多網はトランプでババ抜きが好きだったような。
「勝負とは、あたいに?負けんで」
やる気満々蛇鰐美。
と言う流れでババ抜きが始まる。
トランプを配り終えるきみ子。
すると「出たなワレェ~~ジョーー~~カァーー」
蛇鰐美がジョーカーカードを見て叫びだす。
彼女はババ抜きのルールを知っとるのだろうか?
やっているゲームにルールと言うものがあるのかご存知なのだろうか?
とりあえず、誰がババを持ってるか一瞬で分かる一同。
こっ、こいつが最後まで手元にあったら負けじゃったな。不気味なピエロのジョーカーカードが蛇鰐美ちゃんを睨みつける。
「あーっ、じゃかしいのぅ。すぐに手元から離してやる」
ゲームは始まる
蛇鰐美は落ちつかなかった。手元を見ればどこのチームのもんか分からないジョーカーとか言う名の奴があたいの手元で笑っとる。
「油断ならんのぅ」
大喜が蛇鰐美ちゃんからカードを取る。
大喜は何気なく近くのを抜こうとした。
すると、蛇鰐美ちゃんの顔が引きつっている。
大喜は思フ。
これはジョーカーじゃない。
カードが抜かれた瞬間、蛇鰐美ちゃんは一枚のカードを指でパンパンはじき、叫ぶ「ジョーカーはよ去れっ」
みなは確信する、ジョーカーはあそこだ。
確実に減って行く皆のカード。
大喜が蛇鰐美ちゃんのカードを抜こうとすると。
蛇鰐美ちゃんがニンマリ笑いだす。
わかりやすい女、蛇鰐美。
そのカードはやめておいた。
「むきゃー」このころ、蛇鰐美は気が気じゃなかった。
こんなジョーカーとか言う不気味なカードが最後まで手元に残ったらあたいは一体どうなるんじゃ?
まさか、夢にまで追い込みかけてくるゆーんやないじゃろうなワレェ。
歯をくいしばる蛇鰐美ちゃん。
なんと気づけば最後の二人。
一騎討ち勝負は、多網と蛇鰐美ちゃん。
お互い二枚のカードを持っている。
つまり揃った方の勝ち。
「なんまんだぶーなんまんだぶー」蛇鰐美ちゃんが祈りだす。
多網がカードを抜こうとする。
ニタァー 不気味な笑みを浮かべる蛇鰐美ちゃん。
多網はそのカードを抜いた。
ジョーカー!!!
多網の顔が引きつる。
「しゃ しゃ しゃ しゃ しゃ しゃ~~」
よっぽど嬉しかったのだろう叫びだす蛇鰐美ちゃん。
だがまだ抜かねばならぬ。
蛇鰐美ちゃんが多網のカードに触れる。
どいつがジョーカーや!!
抜こうとする瞬間、蛇鰐美ちゃんが気づく。
多網が笑っとる。
はっ、あたいと同じや、多網が笑っている。
つまりこいつはジョーカーじゃ。
バッ 違うカードを引き抜いた蛇鰐美
チラッ
ジョーカーじゃったそうな。
「ジョーカーー~~ジョーカー~~」怒りの表情を浮かべ吠えた。
多網が蛇鰐美ちゃんのカードを抜こうとする。
ニタァー笑みを浮かべる蛇鰐美ちゃん。
多網は思う、何をニタニタ笑ってるんだと?
抜こうとする、が、抜けない。
「ぐぎぎきぎぎぎぎぎ」引っ張る多網。
「引かせるかコラァー」
もはや、ババ抜きではない。
ババ抜かせない~に変貌を遂げていた。
多網がカードを抜く瞬間
ビリッ
「あっ」ジョーカーが半分に切れる。
「あわわわわわわっ」
ジョーカーが死んだ
ジョーカーが死んだ
「まずい事になったのう、多網。気をつけい奴は必ず報復に来るでぇ」
「あはは、大丈夫だよ蛇鰐美ちゃん」きみ子がなだめる。
「ホンマか?」
「なかなか良いやつだったんじゃな」
すると、ヒラッ カードが風でヒラリ
ジョーカーが飛びーの、蛇鰐美ちゃんに向かいーの、
口入りーの。
しっかり報復をしたジョーカーであった。
「うぎゃっ うぎゃーーッ」
ちゃん ちゃん。
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