文太と真堂丸

だかずお

文字の大きさ
上 下
151 / 159

~ 命 ~

しおりを挟む



ザアアアアアアーーーーーー ザアアアアアアーー

激しく降りしきる雨は止む事はなかった。
頼む、間に合ってくれ 頼むっ みんな生きててくれっ。
しんべえの心に仲間たちの笑顔が思い浮かんでいた。
何度も何度も目にした、あいつらの笑顔
何度も何度も耳にした声
絶対に嫌だからな、誰一人でも死ぬなんて認めないからな。
仲間の死んだ姿を見る覚悟なんて俺にはないからな。
頼むっっ、お前達生きててくれよ。
そんなしんべえの仲間を想い、心配する気持ちに気づいている凛「急ぐよ兄貴」 「ああ」
しんべえ、凛、千助は戦場に向かい全力で走っていた。

ゴゴゴゴゴゴオオー

「だからよぉ、まだ諦めないのか?」

「お前達に勝ち目はねぇって」

ズバアァァンッ
地面に倒れたのは、道来、雷獣、菊一、夏目
それは絶望的な程の力の差。

だが、彼らは立ち上がる。

「くははっ、すまないねぇ、傷が浅かったか?苦しめる為にわざと生かしてやってる訳じゃあないんだがな」
三國人の一人は既に前方に向かい、走りだし進んでしまっている。
「ちっ、あの一人を行かしただけで前方がかなり苦しくなるぞ、どうする?」雷獣が叫ぶ。

「今は仲間を信じるしかない」道来は目の前に立つ三國人を全力で警戒している。

ちっ、化け物め、次で俺たちは確実に殺されるな。
雷獣の額から汗が流れ落ちた。

ヒュオオオオオ~~   

太一

その刹那、道来の頭に太一の顔がよぎった。

先に行く俺を許してくれ。

「菊一さん、私が先に仕掛ける、必ず隙を作るから後は任せる」

「馬鹿野郎、死ぬぞ」雷獣が叫ぶ。
「てめぇはまだ死ねないだろ、お前を慕うあいつはどうなる?」

「太一なら私が居なくなっても、もう一人でやっていける。大丈夫だ」

ザッ 前に立ったのは菊一と夏目
「笑わせるな、老いぼれから先に立つのが世の理だろ。俺たちが身体を張り、必ず隙をつくるから後は任せるぜ」

「そんなっ、菊一さん」

「悲しい顔すんなよ、若者」笑ったのは夏目
「あの鬼道に良く勝ったな、私らは無駄死にするんじゃねぇ、お前達に託して死ぬんだ、だから泣くな」

私にもっと力があったら……
トンッ
「道来、お前は充分強い。何一つ悔やむな。忘れるな、どんな状況であろうと可能性の扉は常にある」

「長く生きた者の知恵ある言葉だ、諦めなきゃ必ず見つかる」菊一は優しく微笑む。

道来は力強く頷いた。
菊一さん、私は……己は ポタッ ポタッ

「諦めません」
ニヤリ
「ああ、そうだ。行くぞ」
俺たち先人が若者に希望を教えてやらないでどうする、一山お前の言葉だったな。
お前の育てた若き芽は立派に育ち、美しい花を咲かせたぞ。
俺の誇りであり、宝でもある。
こいつらを生かしてやりたい、それが俺のさいごの望みだ。

後ろから全力でかけてくる者がいた。

それは洞海の姿。

菊一さん、菊一さん 菊一さんっ。
俺を救ってくれた。敵だった俺の命を、迷う精神を救ってくれた。
人生と言う道を創る事に、優しく手を差し伸べ、力を貸してくれた。
恩人、大好きな人間 最愛の家族
俺の人生で出会った大切な人
「やめろーーー三國人、その人達に手を出してみろーー俺がっ俺がっ」

その姿を後ろから見ていた氷輪。
あいつがあそこまで、取り乱す姿、初めて見た。
秀峰さんの下で決して見せた事ない姿、それほどまで。
氷輪は自身の不甲斐なさに怒り狂う。
己は何をしてる?一体ここで何をしてる?
身体は動くくせに、何故あいつと共に敵のもとに向かわない?
道来の力になる為に来たんだろ?
氷輪の心は完全に砕けちっていた。
恐怖と絶望が身体と心を完全に支配していた。
あの恐ろしい怪物を目にした時?あいつの力を悟ったとき?ただ恐ろしくて恐くて仕方がなかったのだ。
目の前に映るのは三國人の姿。
何故お前は立ち向かうんだ?
何故お前はあんな者に立ち向かって行けるんだ?
「俺の大馬鹿野郎がぁ~~~~~~~~~」

洞海の心臓の鼓動は激しさを増す。
待ってくれ、行かないでくれ もっと生きて 側で俺を見ていて欲しい 菊一さんっ

スパアアアアアアアンッ

「うわああああああああああああああああーーっ」
洞海の悲鳴が戦場にあがり、洞海は両膝を地面につけていた。

ドサッ

菊一の上半身が地面に落ちる、下半身を異なる場所に残したまま。先程まで一つだった身体は二つになっていた。
しかし、菊一は命と引き換えに敵の一撃を身体で受け、見事に隙をつくるのに成功した。
「甘いな」背後から来る二人目の三國人の一撃を身体で受け止めたのは夏目、刀が身体を貫通する「ぐはっ」

「もらった」その隙をついたのは雷獣
キィンッ「甘いな」雷獣の刀をも受け止める。

ヒュオオオオオ~
「道来、俺ごとやれーーー」

雷獣 すまない

「うおおおおおおああおおおおおおー」

キィンッ
「うっ、嘘だろ?」道来の刀は三人目の三國人に弾かれた「戻って来たぜ」

「まぁ、正直戻って来なくても全然避けられたがな」

道来の刀が地面に落ちる



「その首もらった」

「やめろおおっ」
その叫び声の主は太一だった。

「太一っ」

「俺が相手だ」

「なんだこいつ?」

ザッ 太一の背後からもう一人
「あっしも一緒にやる」

「一之助」

「逃げろっ、お前達逃げてくれっ」叫ぶ道来

「死にたがりが多いようだな」

「じゃあ、二匹先に殺すとするか」

「おやっ?」

太一、一之助の背後に立つ者達の姿

ザッ 「助太刀させてもらう」

誠、清正、青鬼

「三國人、貴様をこの先の時代に野放しはしない」

「ちっ、糞共がっ 皆殺しだ」

ヒュオオオオオオ~~

真堂丸の戦う前方で戦っていたのは、空と一山の弟子達
「俺も少しは真堂丸さんの役に立てたみたいだなぁ、あの人は凄いな、一人であの場所を本当に死守しているんだからな、自分は、じきに一山先生や海や陸に会えそうだ」

「まだまだ役に立てますよ、ハァハァ、死ぬ様な事言わないで下さいよ空さん、我々だってまだまだ」
視界に空の身体がはいり、一山の弟子達は言葉を失った。
空の身体には無数の刀が突き刺さっていたのだ。

「うわああっ、死ぬな、死んじゃ嫌だ空さん」

「なぁ、死って静かなんだなぁ」

「なに言ってんだ、空さんっ」

「道来また一緒に試合してぇな・・・」

「空さんっーーーーーーっ」

ああ、なんと悲しいのだ。戦とはなんと虚しいことなのだ。
大事なものが、まだ生きれたはずの者達がこうして死んで行くのだ。
もっと沢山、生きて、色々経験出来たろう
それぞれが、もっと一緒に共に過ごせたはずだろう、共に思い出をつくれたはずだろう
まだ残りの人生を歩めたはずだろう
どうして同じ人間同士でこんな

ズバッ

ズサッ

命を奪いあう?
命以上に大切な何の為?一体どんな宝の為?
どんな理由が命の価値をこえていく?

ああ、我々は死ぬけど 人間を、せめて同じ命を恨んで死ぬのは嫌だ・・ だから せめて 笑って・・・

真堂丸は何度も何度も意識を失いかけた。
だが、倒れ、意識を失いかける度に人間の悲鳴、泣き叫ぶ声が聞こえたのだ。
それらの声が真堂丸を突き動かし、死の淵から何度も蘇らせた。
自分が諦めたらこの国は。
ギロリ

「うおおおおおおおおおおおおおおっ」

真堂丸の前方右側では、大同、元郎、乱が戦っていた。

「元郎、乱、俺の背後に下がれ、後は俺が盾になる」
大同が二人の前に出る。

「ふざけるな大同、俺が」

ビュオッ
それは乱の真横の死角からの一撃「もらった」

ズバッ
「どうして。どうして今更俺の盾に、元郎さん」

「元郎」

「当たり前だろ、俺にとっちゃ乱、お前は可愛い弟みたいなもんだ」

「いやだ、死なないでくれよ元郎さん」

ズバッ

倒れた元郎と乱を狙った刀と弓を身体全身で受け止めたのは大同だった。
「馬鹿野郎大同、今さら俺の盾になりやがって」

「大同さん」

「すまねぇな、本当はお前達二人を生かしてやりたかったが本当にすまない」

「馬鹿野郎、覚悟の上だ」

「乱、お前は良く戦った。ここで逃げても誰も恨みやしない、行けっ 生きろ」そう言い二人は地面に倒れた。

嘘だろ?大同さん、元郎さん。
二人共あんなに強くて、殺したって死なないくせに。
乱は動かなくなった二人を見て恐くなった。





残してきた妻、お腹の子供の事が頭に浮かんだ。
生きたい、会いたいっ、死にたくないっ。
でも、俺は。
乱はその後も一人戦った。逃げず、最愛の者達を殺した者達を恨まず、ただ一人戦った。
愛する妻、これから生を受ける子供を想い。
この国を力や恐怖で支配などさせない。
妻や子供がこれから生きるこの世を。

ズバッ 乱の身体を刀が貫く

「がはっ」口から血を吐き出す乱 



「死 死ぬっ、怖いっ、怖い 死にたくないっ、怖いよ」乱の視界は段々と暗くなり見えなくなる。

「怖いっ、やだっ、息子の顔がみたい」俺は独り

独り死んでいくんだ

孤独 このまま 死んでいく

コワイ

その時だった、乱の両手に手を差し伸べる二つの手。
それは戦場で倒れていた、大同と元郎が最後の力を振り絞り、乱の両手にそっと手を添えたのだ。

ああ、暖かくて、大きくて優しい手。
大同さんと元郎さんの手。

ああ これなら もう大丈夫  寂しくない、怖くない。
三人は寄り添うようにして倒れ、二度と動く事は無かった。

失われ、倒れゆく人々


無情にも戦は続く


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

仇討浪人と座頭梅一

克全
歴史・時代
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。 旗本の大道寺長十郎直賢は主君の仇を討つために、役目を辞して犯人につながる情報を集めていた。盗賊桜小僧こと梅一は、目が見えるのに盗みの技の為に盲人といして育てられたが、悪人が許せずに暗殺者との二足の草鞋を履いていた。そんな二人が出会う事で将軍家の陰謀が暴かれることになる。

小童、宮本武蔵

雨川 海(旧 つくね)
歴史・時代
兵法家の子供として生まれた弁助は、野山を活発に走る小童だった。ある日、庄屋の家へ客人として旅の武芸者、有馬喜兵衛が逗留している事を知り、見学に行く。庄屋の娘のお通と共に神社へ出向いた弁助は、境内で村人に稽古をつける喜兵衛に反感を覚える。実は、弁助の父の新免無二も武芸者なのだが、人気はさっぱりだった。つまり、弁助は喜兵衛に無意識の内に嫉妬していた。弁助が初仕合する顚末。 備考 井上雄彦氏の「バガボンド」や司馬遼太郎氏の「真説 宮本武蔵」では、武蔵の父を無二斎としていますが、無二の説もあるため、本作では無二としています。また、通説では、武蔵の父は幼少時に他界している事になっていますが、関ヶ原の合戦の時、黒田如水の元で九州での戦に親子で参戦した。との説もあります。また、佐々木小次郎との決闘の時にも記述があるそうです。 その他、諸説あり、作品をフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。物語を鵜呑みにしてはいけません。 宮本武蔵が弁助と呼ばれ、野山を駆け回る小僧だった頃、有馬喜兵衛と言う旅の武芸者を見物する。新当流の達人である喜兵衛は、派手な格好で神社の境内に現れ、門弟や村人に稽古をつけていた。弁助の父、新免無二も武芸者だった為、その盛況ぶりを比較し、弁助は嫉妬していた。とは言え、まだ子供の身、大人の武芸者に太刀打ちできる筈もなく、お通との掛け合いで憂さを晴らす。 だが、運命は弁助を有馬喜兵衛との対決へ導く。とある事情から仕合を受ける事になり、弁助は有馬喜兵衛を観察する。当然だが、心技体、全てに於いて喜兵衛が優っている。圧倒的に不利な中、弁助は幼馴染みのお通や又八に励まされながら仕合の準備を進めていた。果たして、弁助は勝利する事ができるのか? 宮本武蔵の初死闘を描く! 備考 宮本武蔵(幼名 弁助、弁之助) 父 新免無二(斎)、武蔵が幼い頃に他界説、親子で関ヶ原に参戦した説、巌流島の決闘まで存命説、など、諸説あり。 本作は歴史の検証を目的としたものではなく、脚色されたフィクションです。

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。 霧深き北海で戦艦や空母が激突する! 「寒いのは苦手だよ」 「小説家になろう」と同時公開。 第四巻全23話

富嶽を駆けよ

有馬桓次郎
歴史・時代
★☆★ 第10回歴史・時代小説大賞〈あの時代の名脇役賞〉受賞作 ★☆★ https://www.alphapolis.co.jp/prize/result/853000200  天保三年。  尾張藩江戸屋敷の奥女中を勤めていた辰は、身長五尺七寸の大女。  嫁入りが決まって奉公も明けていたが、女人禁足の山・富士の山頂に立つという夢のため、養父と衝突しつつもなお深川で一人暮らしを続けている。  許婚の万次郎の口利きで富士講の大先達・小谷三志と面会した辰は、小谷翁の手引きで遂に富士山への登拝を決行する。  しかし人目を避けるために選ばれたその日程は、閉山から一ヶ月が経った長月二十六日。人跡の絶えた富士山は、五合目から上が完全に真冬となっていた。  逆巻く暴風、身を切る寒気、そして高山病……数多の試練を乗り越え、無事に富士山頂へ辿りつくことができた辰であったが──。  江戸後期、史上初の富士山女性登頂者「高山たつ」の挑戦を描く冒険記。

霧衣物語

水戸けい
歴史・時代
 竹井田晴信は、霧衣の国主であり父親の孝信の悪政を、民から訴えられた。家臣らからも勧められ、父を姉婿のいる茅野へと追放する。  父親が国内の里の郷士から人質を取っていたと知り、そこまでしなければ離反をされかねないほど、酷い事をしていたのかと胸を痛める。  人質は全て帰すと決めた晴信に、共に育った牟鍋克頼が、村杉の里の人質、栄は残せと進言する。村杉の里は、隣国の紀和と通じ、謀反を起こそうとしている気配があるからと。  国政に苦しむ民を助けるために逃がしているなら良いではないかと、晴信は思う、克頼が頑なに「帰してはならない」と言うので、晴信は栄と会う事にする。

厄介叔父、山岡銀次郎捕物帳

克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

葉桜

たこ爺
歴史・時代
一九四二年一二月八日より開戦したアジア・太平洋戦争。 その戦争に人生を揺さぶられたとあるパイロットのお話。 この話を読んで、より戦争への理解を深めていただければ幸いです。 ※一部話を円滑に進めるために史実と異なる点があります。注意してください。 ※初投稿作品のため、拙い点も多いかと思いますがご指摘いただければ修正してまいりますので、どしどし、ご意見の程お待ちしております。 ※なろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿中

処理中です...