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~ 決定的な敗北 ~
しおりを挟むこの時、一体どんな気分だったんでしょうか?
戦場に居たみなさんはどんな気分だったの?
この瞬間のこと・・・・
考えただけでも私はゾッとして身震いがする。
ああ、これでようやく長きに渡る大帝国との戦が終わる。
決着の着く瞬間。
あれだけの希望を目の前に、突然すべての道を断たれ。
勝利の可能性はゼロ以下になり、そして・・・
完全に暗闇と絶望に道を覆われた。
私なら立ち上がれなくなっていたと思います。
闇の中、ただ呆然と打ちひしがれる事しか出来なかったと思います。
私はいまだに皆さんの強さに感銘、神性さ、すら見受けられるのです。
皆さんはどうしてそんなに強い心を持てたのでしょう?
のの の談話より。
「道来、避けてくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえええっ」
「え?」道来は訳が分からなかった、頭が真っ白になった。ただただ木霊するのは信頼する友の悲鳴にも似た叫び声。
真堂丸の叫んだ理由
ようやく理解したのは斬り殺されるわずか0.2秒前
ああ、そうか ああ ちきしょおおおっ
ちきしょうっ、もう決着はついていたのに。
スバアアアアアアアアアアアアアアンッ
斬られた腕が宙を舞う
ドサッ
「腕?私の?」
「何故?」
「何故?私は生きてる?」一瞬訳が分からなかった。
うっ うううっ
「雷獣」道来が叫ぶ
「そんな面すんな、まだ片腕使えるぜ」
そう、雷獣が道来を助けていたのだ、自分の腕を犠牲にして。
落ち着いた頭は、ようやく状況を理解した。
目の前に映し出されたのは絶望。
一番起こってはいけない事が起こってしまう。
完全に全ての道、希望を断たれた瞬間。
先程見えた、ようやく掴みかけた、一滴の雫程の希望は跡形も無く消し飛んだ。
「やれやれ、随分遅いと思えば鬼道、これはどういう事だ?」
そこに立つ三つの影。
そう、その影の主は三人で一人、三國人と呼ばれ恐れられる存在、真の大帝国の黒幕。
なんと、戦場に三國人が現れたのである。
「バピラも不知火も戻らんと思えば、とんでもない有様だ」
「こんな雑魚どもに、あいつらはやられたのか」
スパアンッ
「ぐあああああっ」
鬼道の片脚が斬り落とされる。
「貴様、生かしてもらえるのは運が良かったと思え」
ザッ すぐに走り出したのは太一だった。
「道来さん」自分が何故走り出したのか分からない。
ただ、道来さんの側に居たかった、どうしても側に居たかった。
「太一さん、駄目だ ここに居るんだ」叫んだのは一之助
太一は無意識に感じてしまったのだろう
ああ
きっと このままじゃ
道来さんが殺される
道来さんが死んじゃう
何だかこのまま、もう会えなくなってしまいそうで。
コワカッタ
「先生っ」分かっていた、一之助は誰よりも分かっていた。
今一番言ってはいけない言葉、頼ってはいけない人。
でも、すがるしかなかった。思ったより前に声が先に出てしまっていた。
仲間達が絶対に死ぬ。それほどの危機的状況なのは覚悟して来たし、無論承知の上だった。
だが、その瞬間がいざ目の前に迫った時、一之助は心を乱した。
己は一番言ってはいけない言葉を口にしてしまったのだ。
"'先生 彼らを助けて"
分かっていた 分かっている筈だ この馬鹿者めっ。
己と言う馬鹿者。
誰に言われる前に、先生は今すぐにでも、誰よりも助けに行きたかった筈だ。
この道を守ることすら忘れ、彼らのもとに、先生なら真っ先に飛び出していたかも知れない。
今、誰よりも先にあの場所に駆けつけたかったのは先生自身だ。
己はなんと言う残酷な言葉を口にした。
目の前に立つ真堂丸の姿
先生は助けたくても行けない。
一之助の目の前、傷だらけ、瀕死の状態でギリギリに動く真堂丸が映っていた。
足は今にも折れ、崩れてしまいそう。
すみません 先生 本当にごめんなさい。
「一之助」
「はいっ」
「お前はどうしたい?」
「先生の一番したかった事を、あっしがします」
キィンッ キィンッ キンッ
真堂丸は頷いた。
「先生」
一之助は沢山沢山言いたい事があった、喋りたい事があった。礼だって言いたかった。
でも言えなかった。
言ったら戦いの最中泣いてしまいそうで、先生の心を乱してしまいそうで。
何よりこれが本当に最期の会話になる事を認めてしまうようで。
ザッ
一之助は全力で走った。
道来達のもとに、愛する仲間達のもとに、すぐ様走った。
この時、先生はどんな気持ちだったんだろう?
そんなことを考えると胸が焼き付けられた様に熱くなり涙が止まらなくなる。
「鬼道や、貴様は、まだまだ働いてもらう。ゴミ始末は俺がやろう」
「うわあああああああああああああああああああああああああっ」
突如発狂したように声をあげたのは、氷輪。
目の前に立つ本物の怪物に精神は崩壊し発狂してしまったのだ。
己は過去とんでもない怪物連中に沢山会った。
女狐に会った時だってこんな声をあげた事なんかなかった、先程の不知火だって刀を向け立てた。
でもこいつは、別格すぎる。
「うわああああああああああっ」
ザッ、氷輪の前に、菊一、夏目が立つ。
「洞海、そいつを連れて場所を移動しろ」
「はいっ」
「おやおや、逃げんでよろしい。すぐに殺しに行くからな、お前達は何処にも逃げられない」
ジロリ
「おいっ、兵隊ども。相手の主力の首をとった者には生涯生活に困らない程の財宝をやる、さっさと首を斬り落とせ」
大帝国の兵隊は一瞬躊躇する、こんな化け物が、俺たちの真の主、本当に大丈夫なのか?俺たちは大丈夫なのか?なぁ、俺たち道を間違えちゃいないよな?選択を間違えてないよな?
本当に大帝国を選んで良いんだよな?
恐いっ 本当はすごく恐い
精神的に強者に頼ることしか出来ない者たちは、ただただ追従するしかなかった。
例え目の前に立つのがどんなに残虐な怪物で、おおよそ人の上に立ってはいけない者だと分かっていても。
絶対的な強者に追従するしかなかったのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおーーっ」
恐怖が最後の防波堤である良心を軽々と押し流していく、圧倒的な川の流れに何も逆らえぬまま、防波堤は跡形も無く流された。
「奴らを殺せーーーーーっ」
「うむ、菊一君。お久しぶり」
「よぉ、三國人」
その光景に心臓が飛び出しそうになったのは、氷輪を担いでいた洞海。
「菊一さんっ」洞海にとって菊一はいつしか師の様な存在となり、そして、自分を理解し、愛してくれた親の様にもなっていた。
氷輪が言う「洞海、行けよ。俺は落ち着いた」
そう、実はこの二人顔見知りだったのだ。
秀峰直属の部下で何度も顔を合わせる仲だった。
戦場の中、そんな会話をする余裕はなかったが。
「貴様、生きていたとはな、洞海。貴様も大帝国を裏切るとは」
「行けっ、俺に構うな。大事な人間なんだろ」
「ああ」
お前が寝返る程、お前にとって大事な人だったんだろう?俺と同じだ。
洞海は、すぐに走りだす。
「ちっ、俺だって」立ち上がろうとする氷輪は驚いた。なんだよ、足がすくんで動けねぇ。
なんだよ、俺っ なんだよっ。
目の前に見える三國人が、遥か高く、そびえ立つ山々の様にしか見えなかった。
菊一と夏目の隣にすぐ様、雷獣と道来も加わる。
「お前ら」
「命尽きるまで、やりましょう菊一さん」
「三國人を私たちで倒せばいいだけの話」
「諦める必要はない」
「おやおや、夏目。どこからそんな言葉が思いつくのやら」笑い出す三國人
「てめぇっ」
ボトッ
夏目の片腕が地面に落ちる
うっ
「夏目」
嘘だろ、全く気づかなかった。こりゃまじでやばい。
「夏目、大丈夫か?」
「今更私の片腕くらいで取り乱すな菊一、戦えなくなった訳じゃねぇ、一瞬でも気を抜けば、首が転がるぞ」
「あっ、ああ」
道来は息を飲んだ、全く太刀が見えなかったからだ。
この域の相手。
真堂丸じゃなければ勝てないだろう。
いや、もうそんな事言ってる場合じゃない、やらなきゃ駄目だ。
ここに居る者達でなんとかしなければ。
「さて、この雑魚どもに三つの身体は要らない。一つ行けよ。前の奴らを殺しに行け」
「そうだな」
まずいっ、行かせたら、この戦は終わる。
「道来、雷獣、一人ずつ俺たちでやるぞ」
「はいっ」
ダカラサ 分別ヲワキマエロヨ
ズガンッ 菊一の顔は地面にめり込む程押し込まれ、雷獣と道来、夏目は知らぬ間にみぞおちに刀の柄を打ち込まれ、地面に倒れる。
これは三國人のうちのたった一人にやられた事であった。
圧倒的な実力の差、もはや気合いや、短期間の成長でどうにか出来る相手ではなかった。
それは絶望的な程遠くに離れ、埋まるはずのない程の差。
この時、更に真堂丸達にとって追い討ちをかける出来事が続く。
戦が始まり三日目にして遂に・・・・
鬼道の策により、地面を掘り続けていた大帝国の精鋭部隊五人の兵達が、真堂丸や仲間達が守り続けていた道を遂に下から抜けた。
鬼道の策は成功する。
誰にも気づかれぬまま、たった五人の精鋭は道を抜けたのだ。
たった五人?道の先に居るのは百名を超える人数の人間達。問題ないだろうと思われるかも知れないがそうではない。
この精鋭部隊の一人、たった一人が抜けても武器を持った事の無い人間達など容易く殺せた。
道の先に居る人間で一番強い人間は寅次だろう、しかしこの精鋭部隊が寅次を殺すのにかかる必要所要時間、わずか1秒。
真堂丸達が相手していた大帝国精鋭部隊。
一般兵に混ざり、これくらいの兵達とも彼らは戦っていた。
「さて、文太と、他にいる全ての人間達の抹殺を開始する」
「はっ」
この時点で、敗北は決定的となる。
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