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~ 集い ~
しおりを挟むヒュオオオオオオオーッ
真堂丸はたった一人、平野に向かっている。
大地は何万という大帝国の兵の行進により地響きが唸る様に鳴り響いていた。
ヒョオオオオオーーッ
そこは、だだっ広い平野
特に何もない平野、ただひとつ廃墟の様な古びた家屋が建つ、それを除いては何もない場所。
真堂丸はここで一人、大帝国を迎え討つ。
ここは絶対に通さない。
一瞬、頭に仲間達の姿、共に過ごした日々がよぎる。
良い人生だった。
なぁ、お前ら。
ずっと一人で戦ってきた、皆と会うまでは。
最期は一人、俺らしくて、それで良い。
真堂丸は嬉しかった。仲間が巻き込まれず自分だけで済む事が。
皆には生きて欲しい、それは真堂丸の最後の望み。
ヒョオオオオオー
真堂丸は全神経を集中させる。
本当に誰一人ここを通すつもりもない、たった一人、万を超える軍勢を前に、本当にそれを成せる、そう信じていたのだ。
ここで決着をつける。
その時だった。
「全くお前って奴は無茶にもほどがある」
ヒョオオオオオー
平野に響く音、それは道来の声。
目の前から歩いてくる四人の姿。
「お前ら、どうしてここに」
「決まってますぜ、真の兄貴。兄貴に力添えする為っすよ」太一が言う。
「やれやれ先生、あっしらが先生に一人で戦わせて見物してるとでも」微笑む一之助
「おっ、俺だってやってやるからな」しんべえの脚は震えている。
「それにしても真の兄貴、みずくさいっすよ俺たちに声かけないなんて」
「先生、あっしたちは共に戦いを始めたでごんす、最後まで付き添う、ここから去れってのは無理でごんすよ、最初から覚悟は決めてるでごんす」一之助が真堂丸に言った。
すると道来が「大体お前の事は分かってるが、敵を殺すつもりはないんだろう?私達も、それを通させてもらう」
「全く、あまりに無謀な話だな」道来が微笑む。
ふぅー 小さなため息ひとつ
「何を言っても、ここから去りそうにもないな」
「分かった、行くぞ」
「おうっ!!!!」
地響きが段々強くなり、心臓まで響く、大きく、深い音が、どんどん近づいて来ている。
もう双方戻れない場所に立つ、まるで磁石がゆっくり引かれ合うかの様にその時は一刻一刻と確実に迫っていた。
いよいよ大帝国との決着の時。
その時。
「俺はひとつ気に食わねぇ」
「?」
それは太一の言葉
「なんで、テメェがここにいるんだよ」
太一の視線の先にいるのは、しんべえだった。
「あんだとテメェ、いちゃ悪りぃかよ、確かに役に立たないかもしんねぇけどな、俺だって死ぬつもりでここに立ってんだよ」
「笑わせる、死ぬつもりでここに立つだと」
「邪魔なんだよお前」
「なんだとテメェ」
「お前が死ぬのは勝手だがな、お前みたいなのが居て、人質にとられ、俺たちの足を引っ張るのが迷惑だってことだよ」
皆は何も言わず、黙って見ていた。
「んだと、そんなことになったら舌噛みちぎってでも死んでやる」
太一が、しんべえの首根っこを掴む。
「邪魔なんだよ、消えろ」
しんべえの声が震えだす
「なっ、なんだよ、俺だって仲間だろっ、一緒に」
「仲間じゃねえ、二度と顔見せんじゃねぇ」
それでも動かず、残ろうとする、しんべえを太一が殴り出す。
「テメェ、まだ殴られたりねぇのか」
ドガッ ガスッ
「太一、もうよせ」道来が太一の腕をつかんだ。
「けっ、分かったよ、馬鹿野郎が、二度と戻ってくるか、お前らのとこなんてな」しんべえが皆に背を向け歩きだす。
誰も止める者、声をかける者はなかった。
それぞれはこの戦に出ると言うことは、どういうことか見当がついている、そんな状況だからこそ。
道来が太一に「こんな別れで良かったのか?」
「はいっ、あいつには生きて欲しい、それに文太の兄貴が一緒だから一人ぼっちじゃない、寂しくないですよ」
皆、もちろん最初から太一の意図には気付いていた。
しんべえ、俺たちのぶんまで生きろよ。
ずっと喧嘩ばかりしていた、しんべえに対する太一の不器用な愛情表現。
しんべえは一人、歩いている。
仲間のもとからどんどん離れる方角へと。
仲間のもとを振り返ることはなかった。
けっ、馬鹿野郎、馬鹿野郎が・・・・
あんな下手くそな演技しやがって。
しんべえの両目からは涙が溢れこぼれていた。
馬鹿野郎、馬鹿野郎、本当に戻らねえからな。
じゃあな、大馬鹿野郎供。
その時、真堂丸が「太一、確かに状況は絶望的かも知れない、だが死ぬ覚悟ではなく、生き抜く覚悟も忘れるな」
死、以外全く見えないこの状況、だが真堂丸の言葉と言うだけで太一は信用出来、頷く。
かすかに見え始めた、生き抜くという選択肢、この状況下、太一の頭には無かった意思。
みんなで生きて、また旅を。
生をあきらめ死を覚悟していた太一を、生の意識がしっかり掴む。
生きようとする信念が太一を再び包み始めた瞬間であった。
これを見ていてホッとしたのは道来。
そう、まだ何が起こるか分からない。
瞬間に命をかけ、全力でぶつかる。
そこに必ず道が生まれる。
そこには奇跡だって起こる。
そう、何がどうなるなどと決めつけるには、はやすぎる。
次の瞬間、真堂丸が気配を感じる
ヒョオオオオオー
「あいつらは」
皆は視界に入る、その光景に驚きを隠せなかった。
「よぉ、お前達」
真堂丸達の目の前に近づいて来たのは、鬼神の部下であった鬼達だった。
先頭に立つのは、青鬼とのの。
「皆さん」
「どうしてここへ?」道来が言う。
「馬鹿野郎、一緒に戦う為だ」青鬼が真堂丸達を見て言った。
「私は、ここに居ても邪魔なのは分かっています、でも、どうしても皆さんに会いたかった。青鬼さんに無理言ってついて来たんです」
「嬉しいでごんすが、ののさんはすぐに、この場を離れた方が良い、大帝国の兵達が来たら巻き込まれるでごんす」
ののが、姿のない二人に気づく。
「文太さんと、しんべえさんは、無事ですよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「良かった」
「じゃあ、のの すぐにここを去れ」
ののは、黙ってそう言った青鬼の顔を見つめる
「青鬼さん、私、怖くないからここに一緒に」
「馬鹿を言うな、お前は姉のぶんまで生きるって約束しただろ、行け」
「行けっ、のの」
のの の瞳から涙がこぼれる。
「おいっ、のの ありがとうな俺たちの事、忘れんなよ」
「大好きだぜ のの」鬼達がののを勇気付ける様に声をかけ始める。
もう、ののは一人でも大丈夫、立派にやっていける。
ずっと親の様に子供の頃から、ののを見てきた青鬼は安心していた。
「さあ、行け のの」
ののは、皆に頭を下げ、その場を離れた。
青鬼さんに、鬼さんのみんな。
真堂丸さん、道来さん、太一さん、一之助さん。
死なないで、どうかご無事で。
私に勇気と希望を与えてくれた人たち。
私に赦しと絆をくれた鬼さん達。
どれほど感謝をしてもしたりないくらい、私の大切な愛する存在達。
どうか どうかご無事で。
「全くお前らって奴は、鬼神は俺が倒したいから倒した、義理など感じる必要はないんだぜ」
「ふっ、それだけじゃないさ、俺たちは俺たちの心に従ったまで」
真堂丸、お前達は俺たち鬼を鬼神さんから救ってくれただけじゃない、ののを救い、俺たち鬼と人間の絆までもつくってくれた。
お前達は鬼である俺たちを信頼し、俺たちの心を救ってくれた。
姿同様、心までも鬼であった俺たちに人間の優しさを教えてくれたんだ。
あの日以来、俺たちの心に大切な何かが芽生えた。
良くは分からないが、それはもしかしたら人が愛と呼ぶ、それなのかも知れないと最近感じるんだ。
そんなことを感じれる、俺達の心に誇りすら今は感じる。
お前達が、俺たちに目を開かせてくれたんだ。
ヒョオオオオオオオオオー
のの、は再び皆の姿を振り返り、見つめていた。
どうしても去れないけど、私はここに残れそうにもない。
神様、ののは嘘をつきました。
青鬼さんに怖くないから、ここに残ると。
脚はガクガク震えていた。
皆さんは本当に強い方々です。
ののは、怖くて怖くて仕方がありませんでした。
この場に残るのが、とても怖くて出来そうにないのです。
私は自分が殺され、死ぬのが怖いのではないのです。
愛する者達が傷つき、倒れる姿を見ることがどうしてもどうしても…怖くて出来そうになかったのです。
ポタッ ポタッ
皆さん
神様どうかお願いします。
彼らを守って下さい。
どうか
どうか・・・・・
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